第三十普請 種籾を、塩に沈めろ
今回は、いよいよ種籾選びです。
ですが主役は農法だけではありません。
これまで白瀬について走っていた長吉が、
「分からんけん、知りたか」
と、自分の意思で一歩を踏み出します。
小さな種籾と一緒に、少年の中にも何かが芽吹く第三十普請です。
冬の名残が、ようやく薄れ始めていた。
朝の風はまだ冷たい。
だが、畦の草の先には柔らかな緑が混じり、遠くの山も少しずつ春の色を帯び始めている。
元和八年、春。
干拓地では、塩を抜き、土を起こし、肥やしを仕込む仕事が続いていた。
そして――。
「次は、種だ」
長吉の家の納屋で、白瀬はそう言った。
「種?」
目の前に座っていた長吉が、首を傾げる。
「ああ。田んぼができても、植える稲が弱かったら始まらないだろ」
「そりゃ、そうたい」
「だから、種籾を選ぶ」
長吉は得意そうに胸を張った。
「そいなら父ちゃんが毎年しよるばい!」
「ほう」
「痩せた籾ば除いて、虫ん食うたとは捨てて、よう実った穂から取っとる」
白瀬は少し目を細めた。
「見せてもらえるか?」
「よかばい!」
長吉は立ち上がった。
その勢いで、隅に積んであった薪へ足を引っかける。
「うわっ!」
「何しよる」
入口に立っていた澪が呆れた顔をした。
「……元気だけは余っておるの」
「元気は大事たい!」
床から起き上がった長吉が言う。
ガタ吉が腹を抱えた。
「田植え前に長吉が植わったばい」
「うるさか!」
そんな声が、朝の納屋に響いた。
◇
長吉の父は、庭先にござを広げていた。
その上には、去年の秋から大事に残していた種籾がある。
父はその中から一粒を取り上げた。
指先で転がし、弾く。
また一粒。
今度は残す。
長吉が横から覗き込んだ。
「父ちゃん」
「なんね」
「そい、なんで捨てたと?」
「軽か」
「どこで分かると?」
「持てば分かる」
長吉も一粒つまんでみた。
「……分からん」
「まだ分からんでよか」
父は次の籾へ手を伸ばす。
長吉は納得していない顔をした。
「ばってん、どこば見ればよかと?」
「見りゃ分かるたい」
「だけん、どこば――」
「長吉」
父が笑った。
「百姓ば何年しよると思っとっとや」
「おい、まだ子どもやもん」
「なら、よう見とけ」
「……うん」
返事をしながらも、長吉は父の指先をじっと見ていた。
白瀬は少し離れたところから、その親子を眺めていた。
長吉の父の手は、厚かった。
爪の間には土が入り、指の節は太い。
教科書もない。
測定器もない。
それでも毎年、より良い籾を残してきた手だ。
「白瀬どん」
父が顔を上げる。
「種籾に何か用か?」
「はい」
白瀬は答えた。
「少し、試してみたいことがあります」
「試す?」
「その前に……塩を少し借りたいんですが」
父の手が止まった。
長吉も止まった。
ちょうど家から出てきた長吉の母も止まった。
「……塩?」
三人の声が重なった。
「はい」
白瀬はうなずく。
「種籾を、塩水に入れます」
しん、とした。
次の瞬間。
「何ば言いよっと!」
長吉の父が立ち上がった。
「せっかく田から塩ば抜きよっとぞ!」
「いや、田に撒くんじゃなくて――」
「種籾ば塩漬けにするとか!」
「漬物じゃありません!」
長吉の母まで目を丸くしている。
「白瀬しゃん、米ば食べたかとなら炊くばい?」
「食べません!」
ガタ吉がぽつりと言った。
「白瀬、とうとう壊れたばい」
「元より少々おかしい男ではある」
澪までうなずく。
「お前らはどっちの味方なんだ!」
村人たちの笑い声が上がった。
だが。
長吉の父だけは笑わなかった。
ござの上の種籾を両手で抱き寄せる。
「白瀬どん」
「はい」
「水のことは、あんたば認めとる」
白瀬も表情を改めた。
「堤も、水路も、あんたのおかげで助かった」
「……はい」
「ばってん」
父は種籾を見る。
「こいは、ただの米じゃなか」
掌の籾を握る。
「今年食う米なら、失敗しても腹ば空かすだけたい」
長吉の母が静かに続けた。
「ばってん種までなくしたら、その先がなくなるけんね」
白瀬は何も言わなかった。
その通りだった。
種籾は、来年そのものだ。
「田んぼは百姓の領分たい」
父が言った。
「未来のやり方かなんか知らん。ばってん、遊びで触らせるわけにはいかん」
白瀬は頭を下げた。
「分かりました」
長吉が驚いて白瀬を見る。
「やめると?」
「全部にはやらない」
白瀬は顔を上げた。
「ほんの少しだけください」
「少し?」
「試すんです」
父は眉を寄せた。
そのときだった。
「父ちゃん」
長吉が口を開いた。
「なんね」
「一升だけ、よかろ?」
「長吉」
「全部じゃなか。一升だけたい」
「お前には分からん」
父が言う。
長吉は、黙った。
いつもの長吉なら、そこで引いたかもしれない。
けれど。
今日は違った。
「……分からんけん」
長吉が顔を上げる。
「知りたかとたい」
父が息子を見る。
白瀬も見た。
長吉自身も、自分が口にした言葉に少し驚いたようだった。
だが、もう止まらなかった。
「父ちゃんが選んだ籾と、白瀬しゃんが選んだ籾」
長吉はござを指さした。
「同じ田んぼで育てりゃ、どっちがよかか分かるやろ?」
白瀬の眉が、わずかに上がった。
自分が言おうとしていたことだった。
父は黙っている。
母だけが長吉を見つめていた。
そして、小さく笑った。
「……そがん顔、初めて見たね」
「母ちゃん?」
「なんでもなかよ」
父はしばらく息子を見ていた。
やがて鼻を鳴らした。
「一升だけぞ」
長吉の顔が輝く。
「よかと!?」
「駄目にしたら、お前が責任持って白瀬どんと一緒に謝れ」
「おう!」
「俺も謝るのは確定なんですね……」
白瀬が苦笑した。
◇
桶へ水を張る。
まずは真水。
種籾を入れると――。
ぽつ。
ぽつ。
いくつかが水面へ浮かんだ。
「あ!」
小春が指をさす。
「浮いた!」
「死んどっと?」
健太が覗き込む。
「死んでるとは限らない」
白瀬は浮いた籾を一つ拾った。
「でも、軽いってことだ」
籾を割る。
中身が十分に詰まっていない。
「ほら」
「ほんとたい!」
子どもたちが一斉に顔を寄せた。
長吉の父は腕を組む。
「そがんとは昔から除きよる」
「でしょうね」
白瀬はあっさりうなずいた。
父が少し拍子抜けした顔になる。
「……未来の知恵とか言わんとか?」
「言いませんよ」
白瀬は笑った。
「昔からやってる方が、よっぽど大事です」
そして。
塩を手に取った。
「ここからです」
村人たちの顔が、また険しくなる。
白瀬は少しずつ塩を溶かしていった。
澪が桶へ手をかざす。
「……水が変わった」
「分かるのか?」
「わたしを誰と思うておる」
ガタ吉。
「団子好きの水守」
澪が振り向いた。
「ガタ吉」
「なんね?」
「あとで沈める」
「なんでおいが!」
白瀬は苦笑しながら、長吉の母を見る。
「卵、一つ借りていいですか」
「卵?」
「水の具合を見るのに使います」
「割らんと?」
「割りません」
「返すと?」
「返します」
母がじっと白瀬を見る。
「……卵ば貸せ言う男は初めて見たばい」
「俺も初めて借ります」
笑いが起きた。
卵を塩水へ入れる。
ゆっくりと浮き上がった。
「浮いた!」
長吉が目を輝かせる。
「塩を入れると、水が重くなる」
白瀬は難しい言葉を使わなかった。
「だから、真水じゃ沈んでいた籾でも、中身が軽いものは浮いてくる」
種籾を入れる。
ざらり。
一度沈んだ籾の中から――。
ぽつ。
ぽつ。
また浮き始めた。
「おお……」
百姓たちから声が漏れる。
長吉は真っ先に手を伸ばした。
「白瀬しゃん、こい」
「ああ」
「さっきは沈んどったぞ」
「そうだ」
長吉は浮いた籾と沈んだ籾を拾う。
割る。
比べる。
「……こっちの方が詰まっとる」
「そうだな」
「ばってん」
長吉はもう一つ割った。
「全部じゃなか」
白瀬が長吉を見る。
「よく気づいたな」
「こいは浮いたばってん、中身のちゃんとある」
「ああ」
長吉は考え込む。
「なら、塩で選べば全部よか、ってことでもなかと?」
「そういうことだ」
父が腕を組んだまま言った。
「籾の重かだけで、米がよう実るとは限らん」
「はい」
白瀬は即答した。
長吉が振り向く。
「白瀬しゃん、また認めた」
「だって、その通りだからな」
「未来では、このやり方しよっとやろ?」
「する」
「なら、正しかっちゃなかと?」
白瀬は答えようとして――。
止まった。
桶の種籾を見る。
長吉の父が選んだ籾を見る。
厚い手を見る。
ふと、思った。
自分が知っているやり方も。
自分が学校で学んだ知識も。
最初からそこにあったわけじゃない。
誰かが水へ籾を入れた。
誰かが浮く籾に気づいた。
誰かが失敗した。
翌年、やり方を変えた。
その次の世代が、また試した。
そうして積み上がったものを、自分は未来で「知識」として受け取っただけだ。
「……違うな」
白瀬が呟いた。
「なんね?」
長吉が見上げる。
「未来だから正しいんじゃない」
村人たちが白瀬を見る。
「俺の時代には、こうやって種を選ぶ方法がある」
白瀬は一粒の籾を掌へ載せた。
「でも、それだって、ある日突然できたものじゃない」
長吉の父を見る。
「皆さんみたいな人たちが、何代も何代も試した。その先にあるんだと思います」
「おいたちの?」
父が眉を上げた。
「はい」
白瀬は頷いた。
「未来は、昔と別の場所にあるんじゃありません」
掌を開く。
小さな籾が一粒。
「今日やったことの、ずっと先にあるんです」
誰も、すぐには口を開かなかった。
長吉も黙って、自分の手を見ていた。
泥の染みた、小さな手。
「……なら」
父が言った。
「その未来とやらも、試してみゅうか」
白瀬の顔がほころぶ。
「はい」
「ただし」
父が指を一本立てる。
「うちの選んだ種と勝負たい」
「望むところです」
長吉が飛び上がった。
「勝負たい!」
「お前が一番嬉しそうだな」
「当たり前たい!」
長吉はもう一度、掌の籾を見た。
その目は、朝とは少し違っていた。
◇
二つの小さな苗代を作った。
一方には、長吉の父たちが昔ながらのやり方で選んだ種籾。
もう一方には、塩水でさらに選んだ種籾。
同じ広さ。
同じ水。
同じ肥やし。
同じ日に播く。
白瀬が板切れを二枚立てようとした、そのとき。
「白瀬しゃん」
「ん?」
「そい、おいがやる」
「何を?」
「見るとたい」
長吉が苗代を指さした。
「毎日」
白瀬は少し驚いた。
「毎日だぞ」
「うん」
「雨の日も?」
「うん」
「寒い日も?」
「うん!」
長吉は指を折る。
「芽ん数。水ん高さ。葉っぱの色。虫のおらんか」
少し考えた。
「あと……天気!」
白瀬は笑った。
「できるか?」
長吉も笑った。
「分からん」
「おい」
「ばってん」
長吉は胸を張った。
「分からんけん、やるとやろ?」
白瀬は一瞬、言葉を失った。
「……一本取られたな」
そこへ健太が割り込んだ。
「長吉」
「なんね」
「水ん高さ、どがんして測っと?」
「指たい」
「毎日指ば入れると?」
「うん」
健太は首を振った。
「指じゃ分からんばい。棒に印ば付ければよか」
長吉が目を丸くする。
「できると?」
「そがんと簡単たい!」
「じゃあ作ってくれ!」
「任せろ!」
白瀬は、二人を見ていた。
――健太は道具か。
その横から、おたえが口を挟んだ。
「待って」
「なんね?」
「芽は全部数えると?」
「数える」
「毎日?」
「毎日」
おたえは苗代を見渡した。
「そがん全部数えよったら、日が暮るっばい」
「じゃあ、どがんすっと?」
おたえはしばらく考えた。
「同じ広さだけ区切って、そこば比べたらよかっちゃなか?」
今度は白瀬がおたえを見る。
――数で比べるか。
「うち、数えるとは好きたい」
おたえが得意そうに言った。
小春も黙っていない。
「なら、うちは村ん人に聞いてくる!」
「何ば?」
「どがん籾ば残しよるかたい」
小春は勢いよく立ち上がった。
「家ごとに違うかもしれんやろ?」
「小春、勝手に決めるな!」
「よかたい。長吉のためやろ!」
「なんでおいのためになると!」
「もうなっとるたい!」
「意味分からん!」
少し離れていた源太は、苗代を見つめていた。
「……魚も同じなんかな」
「魚?」
白瀬が聞く。
「ふとか魚になるやつと、ならんやつ」
源太が首を傾げる。
「最初から違うとかな」
「どうだろうな」
「今度、漁師の爺ちゃんに聞いてみゅう」
白瀬は笑った。
「そうしてみろ」
ガタ吉が腕を組んだ。
「なんか、みんな白瀬に似てきたばい」
「どういう意味だ」
「分からんことば見つけたら、嬉しそうにするとこ」
澪が小さく頷いた。
「確かに、うつったようじゃ」
「病気みたいに言うな」
子どもたちが笑った。
その中で、長吉だけは苗代を見ていた。
そして。
「母ちゃん!」
家の方へ走り出す。
「なんね!」
「板、余っとらん!?」
「なんに使うと?」
「書く!」
「何ば?」
「毎日んこと!」
少しして。
長吉の母が、使い古した板切れと炭を持ってきた。
「ほら」
「よかと?」
「書くとやろ?」
「うん!」
「なら、なくさんごとしとかんば」
長吉は両手で受け取った。
それが――。
後に何枚も何枚も増えていく、長吉の最初の記録だった。
◇
夕暮れ。
長吉はまだ苗代の前にしゃがんでいた。
水を見る。
板へ印を付ける。
また水を見る。
「まだ見よっとか」
父だった。
「うん」
「まだ芽も出とらんぞ」
「分かっとる」
「なら帰れ」
長吉は板へ今日の印を書き込んだ。
父が横から覗く。
「そがんもん、何になる」
長吉は少し考えた。
「父ちゃんの『見れば分かる』が」
「ん?」
「おいには、まだ分からんけん」
父は黙った。
「なら」
長吉は苗代を見る。
「毎日見れば、分かるごとなるかもしれん」
父は何も言わなかった。
そのまま背を向ける。
数歩歩いてから。
「……水ば入れすぎんなよ」
長吉の顔が少し緩んだ。
「分かっとる!」
少し離れた家の軒先。
母がその親子を見ていた。
父が近づく。
「なんば笑いよっと」
「別に」
「なんね」
母は苗代の前の息子へ顎を向けた。
「長吉、変わったね」
「そうか?」
「前は朝起こしても、布団から出てこんかったとに」
父は鼻を鳴らした。
「まだ何も分かっとらん」
「そうね」
母は笑う。
「ばってん、分かりたがっとる」
父は答えなかった。
◇
数日後。
夜明け前。
長吉は目を覚ました。
誰にも起こされていない。
外はまだ薄暗い。
そっと家を出る。
苗代へ向かう。
水面に朝靄が浮かんでいた。
長吉はしゃがむ。
いつものように板を置く。
水を見る。
土を見る。
そして――。
「……あ」
小さな緑があった。
「出た」
一つ。
二つ。
三つ。
長吉の顔が、一気に明るくなる。
「出た!」
走った。
泥を跳ね上げて。
納屋まで。
「白瀬しゃん!」
戸が勢いよく開く。
「うわっ!」
布団から白瀬が跳ね起きる。
「なんだ! 水か!? 堤か!?」
「違う!」
長吉は息を切らしながら、それでも笑っていた。
「芽!」
「芽?」
「出た!」
白瀬の目が覚める。
「本当か?」
「早う来んね!」
長吉が白瀬の腕を引く。
「分かったから引っ張るな!」
二人が苗代へ着くころには、なぜか他の子どもたちも集まり始めていた。
健太は、昨日作ったばかりの目盛り付きの棒を抱えている。
おたえは板切れ。
小春は、
「昨日、三軒聞いてきたばい!」
と朝からしゃべりたそうにしている。
源太までいる。
「お前ら、なんでこんな朝早いんだ」
白瀬が呆れる。
小春が胸を張った。
「長吉だけずるかもん!」
「何がずるかと!」
「うちも見たか!」
おたえもうなずく。
「うちも」
健太。
「おいもたい」
源太も、
「おいも」
長吉は四人を見る。
一瞬だけ、きょとんとした。
それから。
少し照れくさそうに鼻をこすった。
「なら」
苗代を指さす。
「まず、芽ば数えるぞ」
「おう!」
今まで。
長吉は白瀬について走っていた。
けれど、その朝。
初めて仲間たちが、長吉の声で動いた。
白瀬は何も言わず、その背中を見ていた。
「一、二、三……」
長吉が数える。
「待て、長吉! そこ、おたえが数えよる!」
「なら、こっちたい!」
「水ん高さも測るぞ!」
「小春、踏むな!」
「踏んどらん!」
朝の苗代が、一気に騒がしくなる。
その声を聞きつけて、長吉の父と母もやって来た。
父が眉をひそめる。
「朝っぱらから、何ば騒ぎよっとや」
母が笑った。
「見れば分かるやろ」
「……なんね」
母は苗代へ視線を向けた。
「もう遊びよるとじゃなかよ」
父は答えなかった。
ただ。
芽を数える息子を、しばらく見つめていた。
長吉が突然、声を上げた。
「白瀬しゃん!」
「ん?」
「こっち!」
二つの苗代。
同じ日に播いた。
同じ水。
同じ肥やし。
長吉は板を見て、もう一度数え直す。
「……数が違う」
白瀬もしゃがんだ。
「まだ決めるな」
「分かっとる」
長吉は真剣な顔で板へ印を付けた。
「明日も見る」
「ああ」
「その次も」
「ああ」
「ずっと見る」
白瀬は笑った。
「頼んだぞ」
長吉は大きくうなずいた。
「任せろ!」
種籾から、小さな芽が出た。
その朝。
もう一つ。
長吉の中にも、誰にも見えない芽が出ていた。
そして――。
その隣にも。
そのまた隣にも。
小さな芽は、確かに広がり始めていた。
けれど。
芽が多いからといって。
米まで多く実るとは、まだ誰にも分からない。
勝負は――。
始まったばかりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回描きたかったのは、
「未来の知恵は、昔の人々の努力の先にある」
ということでした。
白瀬が知っている農法も、突然未来に生まれたものではありません。
名も残らない多くの人たちが、試して、失敗して、工夫して、その積み重ねが未来へ続いていきます。
そして長吉も今回、初めて自分から、
「もっと田んぼを知りたい」
と思い始めました。
長吉の変化に刺激されて、健太、おたえ、小春、源太にも小さな芽が出始めています。
ただし――。
芽が多く出たからといって、米まで多く実るとは限りません。
目標は、これまでの一・五倍。
果たして本当に届くのか。
次の普請でも、長吉たちの挑戦は続きます。




