序章 ナーストロンドの悲劇-第5話 開戦
数光年離れた宙域。
テイア連邦。
中継映像。
壇上に立つ男。
背後には、破壊された艦の映像。
「これは、悲劇である」
「我々の移民船団は、新天地を目指す途上にあった」
映像が切り替わる。
損傷した船体。
内部区画。
漂流する残骸。
「そこには、家族がいた」
「子供がいた」
「彼らは武器を持たぬ、ただの市民だった」
一拍。
「最低限の護衛と、防御装備はあった」
「だが、それは航行の安全を確保するためのものに過ぎない」
声が強くなる。
「帝国艦隊は、それを理解しながら攻撃を行った」
「結果——」
「多数の民間人が犠牲となった」
沈黙。
「これは、許される行為ではない」
「我々は、この蛮行に対し」
「断固たる対応を取る」
歓声。
怒号。
「同胞の命を、無駄にはしない!」
怒りが、場を支配する。
その結論は、すでに決まっていた。
戦うべきだ。
そして——
この映像が帝国に届くのは、数年後のことである。
帝国。
街頭。
大型スクリーンに映し出されるのは、断片的な情報。
ナーストロンド宙域での戦闘。
連邦艦隊との交戦。
詳細は、不明。
ざわめき。
「……連邦の艦隊と戦闘があったらしい」
「侵攻だったんだろう」
「先に撃ってきたのは、連邦なんだろ?」
「だったら——」
言葉が、続かない。
少し離れた場所。
「……戦争、になるのかな」
誰も、すぐには答えない。
「分からない」
「でも……」
「怖いな」
沈黙。
だが、その沈黙は長く続かない。
「やられたんだよ、俺たちは」
「連邦は最初から仕掛けてきた」
声が重なる。
不安は、次第に塗り潰されていく。
「なら、やり返すしかない」
感情は、一つに収束していく。
怒り。
議会。
円形議場。
ざわめきは、重く沈んでいる。
「……事後調査の結果は、すでに共有されている通りだが…」
「非軍事構造。居住区画。生活物資」
「民間船であった可能性は、否定できない」
沈黙。
壇上、軍務大臣。
「第八艦隊の報告によれば——」
「当該艦隊は、戦艦級の構造を有しつつも、内部構造は非軍事的要素を多く含む」
「同時に、機雷および武装の存在も確認されている」
「また、連邦は本件を“虐殺”と定義し、対外発表を行った」
それだけを述べる。
沈黙。
やがて、閣僚が口を開く。
「……ならば、結論は明白だ」
「我々の艦は撃沈された」
「第八艦隊所属、駆逐艦浦風——轟沈」
「これは、動かしようのない事実だ」
「さらに連邦は、我々を“虐殺者”と断じた」
「事実関係の確認もなく、だ」
「彼らは、すでに我々を敵と定義した」
声が重なる。
白雪が、静かに立つ。
「ならばこそ」
「我々は、慎重であるべきだ」
「誤認の上に、さらなる誤認を重ねれば——」
「取り返しがつかなくなる」
だが——
反応は、鈍い。
「では、どうする」
「沈黙するのか」
「非難を受け続けるのか」
「浦風は沈められた」
「我が兵は、死んだ」
その事実が、空気を支配する。
先ほどの閣僚が、低く言う。
「もはや——」
一拍。
「対応の問題だ」
沈黙。
やがて。
結論は、一つに収束する。
戦うべきだ。
その判断は、疑われなかった。
西暦2532年
帝国暦225年
ノクトゥルン帝国は、テイア連邦に対し、宣戦を布告する。




