序章 ナーストロンドの悲劇-第4話 始動
帝都。
軍令部本部。
「ナーストロンド宙域、敵性艦隊の撃滅を確認」
報告は簡潔だった。
「第八艦隊 第一六戦術打撃群、作戦完遂。宙域制圧を達成」
一瞬の静寂。
次の瞬間——
ざわめきが広がる。
「撃滅……か」
「早いな」
「さすが山口中将だ」
記録が並ぶ。
撃沈数。
損耗。
戦果。
すべてが、整然としている。
「損耗、軽微」
「戦果、想定以上」
安堵が、空気を緩める。
「……ほぼ無傷で殲滅、か」
誰かが呟く。
わずかに、違和感を含んだ声。
「続いて、事後調査報告に移ります」
情報参謀の声が、わずかに硬くなる。
空気が、引き締まる。
「第八艦隊による残骸解析の結果、戦艦級艦体より非軍事構造を多数確認」
ざわめきが、止まる。
「内部区画は高密度に分割。居住区画に類似」
「また、回収された漂流物より、個人用品および生活物資と推定される物品を確認」
沈黙。
「総合判断となりますが……」
「当該艦隊は、移民船団、またはそれに類する非戦闘船団であった可能性が高いと推定されます」
誰も、口を開かない。
先ほどまでの熱は、完全に消えていた。
「……以上です」
誰も否定しない。
だが、誰も認めない。
後に、この一連の出来事はこう呼ばれる。
——ナーストロンドの悲劇。
執務室。
静寂。
外の喧騒は、ここまで届かない。
白雪は、一人だった。
机上に広げられた報告書。
その内容は、変わらない。
紙を閉じる。
音が、やけに大きく響いた。
しばらく、何も言わない。
やがて——
「……違う」
白雪の声は、静かだった。
「侵攻ではない」
沈黙。
「だが……」
視線が、わずかに揺れる。
「もう、止まらない」
遠くで、歓声が上がる。
勝利を伝える声。
祝賀の準備。
「勝ったのではない」
白雪は、ゆっくりと目を閉じた。
「始まってしまったのだ」
その言葉は、誰にも届かない。
廊下。
閉じられた扉の外。
小さな気配があった。
息を潜め、動けずにいる。
少女は、その言葉を聞いてしまった。
理解はできない。
だが、忘れられない。
それが、雪乃だった。




