序章 ナーストロンドの悲劇-第3話 反撃
ナーストロンド宙域。
「第八艦隊 第一六戦術打撃群、戦域に到達」
旗艦 播磨、CIC。
薄暗い空間に、複数のモニターが浮かぶ。
その中心。
不明艦隊の予測進路が、重力場と重ねて表示されていた。
「敵編成、確認。巡洋艦級二、駆逐艦複数。戦艦級二」
小林参謀の声。
「……陣形が乱れています」
モニター上の艦影は、整列していない。
間隔は不均一。
進路も微妙にばらついている。
「統制が弱い。隊形を維持できていません」
「……そうだな」
山口 戦術打撃群司令は静かに応じる。
「侵攻するにしては、不可解だ」
一拍。
「データ照合では旧式……一世紀以上前の戦艦級に近い」
「編成は軍事的ですが……挙動が伴っていません」
「回避機動も遅く、指揮系統の反応も鈍い」
「判断材料が足りん」
短く切る。
「だが、脅威評価は変わらない」
視線を動かさない。
予測進路は、すでに収束している。
「加来艦長 機雷戦用意」
「了解。機雷戦用意!」
「機雷制御リンク、接続」
「諸元入力完了」
まだ、動かない。
ただ、準備が整う。
「……」
山口は一瞬だけ、間を置く。
「——機雷射出」
「機雷群、エンゲージ」
モニター上で、点が動く。
ばらついていた空間に、流れが生まれる。
敵の進路が、徐々に絞られていく。
「よし」
山口は頷く。
一拍。
「巡洋戦隊に通達」
視線は動かさないまま。
「——機は熟した」
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巡洋戦隊旗艦 御嶽、艦橋。
回線が開く。
一瞬の静寂。
「交戦許可が下りた」
友永戦隊司令の声は低く、明瞭だった。
「各艦、突入。初撃目標は事前配分通り。第二目標は追って通達する」
わずかな間。
「——各艦、我に続け」
通信が切れる。
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巡洋戦隊が、加速する。
御嶽が先頭に出る。
主推進が唸り、編隊が一つの軸に収束する。
機雷群の隙間。
計算された進入経路。
そこへ——突入。
「御嶽、軸維持」
スラスターが断続的に噴く。
艦体の向きが、わずかに修正される。
照準は、姿勢そのもの。
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「足柄、右舷前方。目標捕捉」
「足柄、了解」
足柄が軸を外し、別ラインへ滑り出る。
敵駆逐艦が、遅れて回避を試みる。
間に合わない。
「撃て」
光。
駆逐艦の中央が消失する。
遅れて艦体が分断され、慣性のまま崩れる。
「古鷹、次目標」
「古鷹、捕捉」
古鷹が御嶽の後方から前に出る。
進路を横切る軌道。
一瞬、艦首が合う。
「撃て」
駆逐艦の側面が抉られる。
反応は遅い。
装甲ごと、構造が削り取られる。
「加古、左舷外縁」
「加古、了解」
加古は機雷群の縁をかすめるように進入する。
敵巡洋艦が砲を向ける。
だが——
照準が合う前に。
「撃て」
光。
艦橋から後部までが一直線に貫かれる。
推進が止まり、ただ流れる。
御嶽は減速しない。
前方の目標へ、軸を合わせる。
微修正。
誤差修正。
「……撃て」
巡洋艦の外殻が裂ける。
厚い装甲が、意味を持たない。
内部構造が一瞬露出し——
すぐに消える。
「離脱」
御嶽が反転する。
慣性を殺さず、軌道だけを引き剥がす。
古鷹、加古、足柄がそれに続く。
機雷群外縁へ抜ける。
「第二目標、更新」
マーカーが切り替わる。
「再突入」
角度を変え、再び進入。
敵艦隊は、もはや陣形を維持していない。
各艦が個別に動く。
遅い。
すべてが遅れている。
足柄が駆逐艦を追い越しざまに撃ち抜き、
古鷹が回避中の巡洋艦を断ち、
加古が側面から侵入して、退路を潰す。
「……脆すぎる。ひよっこでも、もう少しマシな動きをする」
友永が呟く。
御嶽が三度目の進入に入る。
対象は、戦艦級。
反応は——鈍い。
「……」
一瞬だけ、間。
だが——
「撃て」
光。
外殻が裂ける。
内部が露出する。
構造体。
その奥。
区画。
連続した区画。
規則的に並ぶ——
だが、その認識は続かない。
すべてが光に呑まれる。
残る一隻。
同じく、戦艦級。
回避なし。
反撃なし。
ただ、消える。
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巡洋戦隊は、そのまま戦域を通過する。
減速しない。
振り返らない。
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戦闘は、終わった。
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ナーストロンド宙域。
静寂。
微細な残骸が、重力に縛られず漂っている。
破断面。
焼け焦げた構造材。
剥離した外殻。
その間に——
異質なものが混じる。
薄い布片。
規格外の容器。
小さな、個人用の装備。
用途の分からない生活器具。
誰も、言葉にしない。
「……宙域、制圧」
通信が入る。
「敵性反応、消失」
御嶽、艦橋。
友永は、しばらく何も言わない。
視線は、残骸に向いたまま。
「……帰投する」
それだけだった。




