序章 ナーストロンドの悲劇-第2話 決断
——同時刻。
帝都、軍令部本部。
「第八艦隊、第十三哨戒駆逐隊『霧雨』より緊急報告を受理しました」
「情報参謀、要点のみ」
「は」
「IFF不一致の大型艦二。巡洋艦級・駆逐艦随伴」
「停船命令、応答なし」
「機雷散布確認」
「当方駆逐艦一、接舷行動中に被撃沈」
「現地、交戦状態」
「記録、再生」
映像が立ち上がる。
警告射撃。
直後の照射反応。
拡散する光点。
接近する艦影。
そして——閃光。
途切れる。
「以上です」
「補足は」
「IFFは断続的かつ規格外。識別不能。
通信は遅延・欠落。統制の一貫性は確認できず」
総参謀長が口を開く。
「編成は軍事的。行動も同様か…」
「機雷散布を含め、敵対行為は明確」
一拍。
「……陛下、侵攻と判断せざるを得ないかと」
白雪は短くうなずく。
「時間は」
「現地は交戦中。ナーストロンドは要衝。突破を許せば内側が開きます」
「——議会を通す」
帝都、議場。
「第八艦隊よりの報告は以上である」
読み上げが終わると同時に、ざわめきが広がる。
「IFF不明の艦隊が、機雷を散布し、我が駆逐艦『浦風』を撃沈……」
「事実であれば、明白な敵対行為だ」
「待て」
一人の議員が立ち上がる。
「識別不能なのだろう。
通信も不完全。状況も断片的だ」
視線が集まる。
「我々は、たった一隻の報告だけで、全面的な軍事行動を決定するのか?」
一瞬、空気が緩む。
だが——
「では問う」
別の議員が遮る。
「機雷を散布し、駆逐艦『浦風』を撃沈した存在を、何と認識すべきだ?」
言葉が詰まる。
「……それは——」
「不明か?」
間髪入れない。
「不明であればなおさら危険だ」
「ナーストロンドを抜かれればどうなる」
別の声。
「内側は開く。防衛線は崩壊する」
「時間がない」
さらに畳みかける。
「交戦は既に始まっている」
議場の空気が変わる。
慎重論は、まだ残っている。
だが——
「確認を待つ余裕があるのか?」
静かな声が落ちる。
誰も即答できない。
「我々は、侵攻の可能性を前提に動くべきだ」
「違った場合はどうする」
先ほどの議員が食い下がる。
「その時は、その時に是正すればいい」
短い沈黙。
「だが、遅れは取り戻せない」
それが決定打だった。
議長が口を開く。
「本件を帝国領に対する武力侵害の可能性ありと認定」
「自衛権の行使として、当該宙域での軍事行動を承認する」
一拍。
「異議は」
完全な否は、出ない。
わずかな逡巡。
だが、それだけ。
「可決」
木槌が打たれる。
<ノクトゥルン帝国皇帝 皇白雪>




