序章 ナーストロンドの悲劇-第1話 接触
西暦2526年
帝国暦219年
ナーストロンド宙域。
恒星光は希薄で、重力だけが確かな境界を描いていた。
「IFF応答、不完全。識別コード一致なし」
第八艦隊・第十三哨戒駆逐隊旗艦《浦風》の艦橋に、報告が落ちる。
スクリーンには二つの巨大な熱源。
戦艦級の輪郭。
その周囲を、巡洋艦級と駆逐艦が取り巻く。
「進路は」
「帝国領外縁、ギリギリを維持。しかし——ベクトルは内向き」
「応答は」
「なし。遅延を考慮しても異常」
短い沈黙。
「停船命令、再送」
発信。待機。無応答。
「……接近する。強制臨検を実施」
艦橋の空気がわずかに張り詰める。
「接舷……ですか?」
「領域侵犯、IFF不明、応答なし。規定通りだ」
撃つ方が早い。
だが、それは許されない。
「相対速度、調整。毎秒約十一マイル以下に抑制」
巨影が、ゆっくりと視界を覆う。
旧式戦艦。
外殻には増設された構造物。居住区。
だが、その内側に残るものは——読み切れない。
「距離、約0.6マイル」
「0.3」
「0.18」
艦は、わずかな推進で姿勢を合わせ続ける。
「接舷位置、固定。アンカー準備」
しかし——
「対象、減速なし。進路維持」
「……止まらないか」
一瞬の判断。
「警告射撃。進路前方へ」
粒子線が、対象の進行方向をかすめる。
意図は明確。
止まれ——という、最後通告。
——直後。
「照射反応!」
「方向——当艦を指向!」
白い線が、空間を裂いた。
「被弾なし。自動防御の可能性——」
言葉の途中で、別の報告が重なる。
「宙域に反応多数! 拡散中!」
光点が、ゆっくりと広がる。
「……機雷」
沈黙が落ちる。
その瞬間だった。
「敵駆逐艦、直上!」
別方向からの熱源急増。
護衛艦隊。
「こちらにロック——」
閃光。
至近距離。回避不能。
駆逐艦の艦体が、静かに、しかし決定的に崩れる。
衝撃も、音もない。
ただ、構造が失われる。
外では、さらに光が増えていく。
味方の、敵の、識別不能の。
そして——静寂。
宙域には、残骸だけが漂っていた。




