第4話:動力なき魔法の給湯システム
木枯らしが吹きすさぶ裏庭。
私が魔法で作った石造りの加熱室では、ルークがかき集めてきた火の魔石が、赤々と熱を帯び始めていた。
魔物から採れる低純度の魔石は、火力が弱く、王都ではほとんど見向きもされない。
せいぜい暖炉の火種に使われる程度の半端物だ。
だが、石管を通る水をじわじわ温める熱源としてなら、十分すぎる働きをしてくれる。
「温かい水が上へ行って、冷たい水が下へ戻る……?」
ルークは震える手で、自分の頭を抱えた。
「すげぇ……。王都の魔術師どもは、なんでもかんでも魔力で無理やり動かそうとする。だけどお嬢様は、世界の理そのものを使って、勝手に湯が巡る道を作っちまったんだ……!」
彼が感嘆の声を上げた、まさにその直後だった。
ゴボッ……ゴボボボッ……!
石造りの浴室の中から、くぐもった水音が響き始めた。
私が急いでドームの中を覗き込むと、浴槽の底に開いた石管の口から、大きな気泡とともに温まった湯が流れ込んでいる。
「おおおっ!? 出た! 本当にポンプも水車もなしで、お湯が出てきやしたぜ、お嬢様!!」
ルークが興奮して叫ぶ。
石の浴槽は、少しずつ湯で満たされていった。
ドーム状の浴室の中に、白い湯気がふわりと広がっていく。
外は息が白くなるほどの寒さだというのに、この浴室の中だけは、春先の陽だまりのように暖かい。
冷え切った指先が、じんわりとほどけていく。
「完璧だわ……!」
私は湯気の中で、思わず拳を握りしめた。
湯加減は、だいたい四十度。
熱すぎず、ぬるすぎない。
泥だらけの体を沈めるには、まさに理想の温度である。
しかも、川沿いの浄水設備を通した水を使っているため、あの泥臭さはほとんどない。
王都の浴場に比べれば簡素だが、今の私にとっては極上の湯だった。
「……見事です、ヴィクトリア様」
入り口のところで腕を組んでいたレオンハルトが、信じられないものを見るような顔で浴槽を見つめていた。
「たったあれだけのクズ魔石で、浴槽一杯の湯を作るとは。薪をほとんど使わず、湯を運ぶ人手もいらない。これなら、兵舎や野営地にも応用できるかもしれない」
「ええ、まあ、そうですね。それじゃあ、私はさっそく入浴しますから」
私は辺境伯の軍事的な呟きを適当に聞き流し、彼らを外へ追い出そうと扉に手をかけた。
私の頭の中はすでに、泥だらけのドレスを脱ぎ捨て、この温かい湯に全身を沈めるという至福の光景でいっぱいになっていた。
やっと。
やっと、人間らしい生活ができる。
絶対に働きすぎたくない元社畜令嬢による、執念のお風呂タイム。
その極上のひとときが、いよいよ始まろうとしていた。
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