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お助けキャラに憧れて転生した俺、他人がピンチの時しか最強になれない ~ただし平時は体力3なので、生活が成り立たない~  作者: 中原九尾


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19/21

第19話 仇と飲む酒

 朝、街じゅうの壁に紙が貼られていた。


――――――――――――――――――

【討伐依頼】

対象:通称『黒く燃えてる方(口の悪いほう)』

特徴:黒い仮面、黒い炎、高所より出現、口が悪い

嫌疑:北の関門を襲った黒い軍勢との関わり

賞金:金貨100枚(生死を問わず)

依頼主:グレンツ領主館

――――――――――――――――――


 賞金首になった。


 俺は貼り紙の前で、しばらく動けなかった。


「兄さん、落ちこんでる?」


「逆だ」


 声が震えた。


「追われる身だぞ。正体を隠し、世間に誤解され、それでも人知れず誰かを助ける。お助けキャラの最高の型だ。『奴は敵か味方か』と噂される段階に、ついに入ったんだ」


「生死を問わずって書いてあるよ」


「そこもいい」


「いいんだ」


 俺は炭のかけらを拾って、通称の横に正しい名前を書き足した。


 常闇に君臨せし孤高の覇


 紙の端に着いた。ここでも収まらない。


「兄さん。手配書に自分で名前を書く賞金首、いないよ」


 言われてみればそうである。袖でこすって消した。覇の字だけ残った。


 ペルネッタは貼り紙を1枚はがして、金額の所を指でなぞった。


「金貨100枚って、銅貨で1万枚だね」


「そうだな」


「兄さんの借金は421枚」


「……そうだな」


「銅貨3枚の兄さんが、仮面つけたら1万枚かあ」


 彼女は俺の顔をじっと見た。


 値踏みの目だった。人買いの時より、真剣な値踏みである。


「売るなよ」


「売らないよ。発動してない兄さんを連れてっても、3枚って言われるだけだし」


 売らない理由が、それだった。


「それより、もう来てるよ。本物が」


「本物?」


「賞金稼ぎ。ラザールっていうの。黒い炎の魔族だけを10年追ってる男。腕は本物だって。昨日の晩から『錆びた錨』に泊まってる」


 情報料は75枚だった。借金は496枚になった。


 黒い炎だけを、10年追う男。


 これは、あれだ。


「復讐者型だ」


「ふくしゅうしゃ」


「過去に何かを奪われて、仇を追い続ける男だ。最初は主人公の敵として現れる。だが誤解が解けると、いちばん頼れる味方になる。お助けキャラの近縁にあたる」


「兄さんの親戚?」


「遠い親戚だ。見に行く」


「自分を殺しに来た人を?」


「敵を知らずして様式は語れない」


「それ、誰の言葉」


「今つくった」


   *


 酒場『錆びた錨』は、川ぞいの古い店だった。


 ペルネッタが経費として銅貨3枚をくれた。つけである。499枚になった。500の手前で止まっているのが、かえって落ち着かない。


 店の奥に、その男はいた。


 30歳前後だろうか。黒い外套を着ている。左の頬から首にかけて、古い火傷の痕があった。壁に立てかけた大剣は俺の背丈ほどある。杯を前に置いて、1人で黙って飲んでいた。


 本物だ。


 どこからどう見ても復讐者型である。火傷の痕。大剣。1人酒。壁を背にした席。全部そろっている。


 俺は隣に座った。


「隣、いいですか」


「……何だ、坊主」


 低い声だった。こちらを見もしない。


「黒い炎の仮面を追ってるって、聞きました」


「だったら何だ」


「俺も追ってます」


 初めて、目がこちらを向いた。


 暗い目だった。10年、同じものだけを見てきた目だ。


 その目が、俺の腕と肩を見て、すぐに興味を失った。


「賞金稼ぎか。そのなりで」


「いえ。研究を」


「研究」


「32年ほど」


「お前、いくつだ」


「17歳です」


 男は杯に目を戻した。変な子どもに構う気はない、という背中だった。


 ここで帰っては下見にならない。


「あの。黒い炎の人って、どんなふうに現れるんですか」


 男はしばらく黙っていた。


 それから、杯を見たまま言った。


「高い所から現れる」


 心臓が跳ねた。


「必ず日を背にする。逆光で顔を見せない。偉そうな口をきく。殺す前に、必ず一言ある」


「分かってますね!」


 立ち上がっていた。


 男がぎょっとして俺を見た。


「そうなんです。高い所と逆光は基本なんです。なぜ高い所かというと格好いいからで他に理由はありません。それで偉そうな一言ですよね。あれは短いほどいいんです。『遅かったか』とか『見ていられんな』とか。あと去り際。去り際はどうですか。何か残していきますか」


「……焼け跡を残す」


「それは残しすぎですね」


 男は杯を置いた。


「坊主。お前、奴を見たことがあるのか」


「……遠くから、何度か」


「どこで」


「鍋の前とか」


「鍋」


「猫の木の下とか」


 男の眉が寄った。


「俺の追ってる奴は、鍋など相手にしない」


「最近、するようになったんです」


   *


 それから1時間、俺たちは話しこんだ。


 驚いたことに、話が合った。


 ラザールさんは10年かけて、黒い炎の魔族の出方を調べ上げていた。どの高さから現れるか。日の位置はどうか。何を言うか。どう去るか。


 全部、俺の32年の研究と同じ項目だった。


「月の夜は必ず東側の屋根だ。背に月を入れるためだろう」


「月の逆光は夕日より弱いんですよね」


「ああ。だから奴は、夕暮れ時を好む」


「西を背にするわけですね」


「分かってるじゃねえか」


 ラザールさんは俺の杯に酒をついでくれた。薄い麦酒である。受け取れた。平時の俺は、人からもらった酒を飲める。


 転生して初めての酒だった。苦かった。


「お前、変な坊主だな」


「よく言われます」


「奴のことを話す時、嬉しそうな顔をする」


 しまった、と思った。


 嬉しいのだ。自分のことを、こんなに詳しく調べてくれた人がいる。記者は5秒で手帳を閉じたのに、この人は10年である。


 ただし、殺すために調べている。


 ラザールさんは火傷の痕を指でなぞった。


「10年前、村を焼かれた」


 声の調子は変わらなかった。変わらないことが、かえって重かった。


「女房と、娘を」


 俺は杯を置いた。


「黒い炎の中で、奴は笑ってた。顔を見た。忘れるものか」


 笑えなかった。


 復讐者型だ、と俺は朝に言った。遠い親戚だ、と。


 型ではなかった。目の前で、人が話している。


 ただ、1つだけ引っかかった。


「顔を、見たんですか」


「ああ」


「その魔族は、仮面をしてましたか」


「……してない」


「じゃあ、仮面の人は別人なんじゃ」


「仮面など、いくらでもかぶれる」


 ラザールさんは杯をあおった。


「黒い炎をまとう者を、俺は他に知らん。10年探して、やっと見つけた手がかりだ。違うなら、斬ってから確かめる」


 斬ってから確かめられては困る。


 困るが、言えなかった。俺がその仮面です、あなたの奥さんと娘さんを殺したのは別の人です、と。言えば正体が割れる。言わなければ、この人は俺を斬りに来る。


 代わりに、別のことを聞いた。


「復讐が終わったら、何をするんですか」


 ラザールさんの手が止まった。


「……考えたこともない」


「じゃあ、終わったら、またここで飲みましょう。次は俺が奢ります」


「金、あるのか」


「ないです。つけで」


 短い音がした。


 ラザールさんが鼻から息を吐いたのだ。笑ったのだと気づくのに、少しかかった。本人も驚いたような顔をしていた。


「坊主。お前、奴の出る場所が分かるのか」


「だいたい分かります。誰かが困ってる所に出ます」


「日当10枚。案内しろ」


 10枚。


 花屋の配達が4枚だった。その2倍半である。


「やります」


 即答した。


   *


「自分を殺しに来た人の道案内をして、日当をもらうの?」


 橋の下で、ペルネッタが粥の匙を落とした。


「10枚だぞ」


「兄さんを見つけたら、兄さんは斬られるんだよ」


「見つからなければいい。俺が案内するんだから、俺のいない所へ連れていけばいいんだ」


「兄さんが出る所に、兄さんはいるでしょ」


「……」


「考えてなかったね」


 考えていなかった。


   *


 翌日から、俺はラザールさんを連れて街を歩いた。


 昼すぎに、板が出た。


――――――――――――――――――

【登場可能です】

対象者:鍋

理由:2分後に吹きこぼれる見込みです

場所:グレンツ、食堂

――――――――――――――――――


 いつもの鍋である。


「ラザールさん。ちょっと、厠に」


「早く戻れ」


 路地に駆けこんで、木箱によじ登った。2回落ちた。発動して、鍋の蓋を取って、女将さんに「今日こそ食べていきな」と言われて、断って、消えた。


 落ちた先は、井戸の中だった。


 下町の井戸である。引き上げてくれたのは前と同じ人だった。今度は何も聞かずに桶を下ろしてくれた。慣れられている。


 引き上げてもらって戻ると、ラザールさんが食堂の前で歯ぎしりをしていた。


「くそ。今、ここに出たらしい。ひと足遅かった」


「そうですか」


「お前、どこに行ってた」


「厠に」


「濡れてるぞ」


「深い厠でして」


 ラザールさんは俺を上から下まで見た。それ以上は聞かなかった。聞きたくなかったのだと思う。


 2日目は、猫だった。同じ木の、同じ猫である。あの猫は学ばない。


「ラザールさん。厠に」


「またか」


「腹が弱いのか」


「体力が3でして」


「腹の話をしてる」


 戻ると、ラザールさんは木の下で空を見上げていた。俺は鶏小屋の羽根を頭につけていた。


「お前がいなくなると、奴が出る」


 ばれた、と思った。


「……気配を読まれてるな」


「え?」


「奴は、お前が俺のそばを離れた隙を狙ってる。お前は奴に見張られてるんだ。心当たりはあるか」


「……あると言えば、あります」


「囮に使えるな」


 ばれていなかった。


 記者には野次馬と言われ、賞金稼ぎには囮と言われた。この街の人は、誰も俺を疑わない。疑う値打ちもないらしい。


   *


 3日目の夕方だった。


――――――――――――――――――

【登場可能です】

対象者:石工4名

理由:8分後に採石場で落石が起きる見込みです

――――――――――――――――――


 鍋ではなかった。


「ラザールさん。街の東の採石場です。たぶん、出ます」


「なぜ分かる」


「……勘です」


 走った。ラザールさんは大剣を背負って、俺の3倍の速さで走った。俺は途中で置いていかれた。置いていかれたのは都合がよかった。


 採石場は山を切り崩した崖の下にあった。切り出した石が大小さまざまに積んである。


 高い所だらけである。


 しかも、石が段になっている。階段と同じだ。関門以来、2度目の階段だった。


 登った。落ちなかった。


 崖の上で、岩が動くのが見えた。下では石工が4人、気づかずに鑿をふるっている。


 飛んだ。


   *


 仮面。マント。黒い炎。夕日は真後ろである。


 落ちてきた岩を左手で受けた。家ほどの大きさがあった。その下で、石工が4人、口を開けて固まっている。


 逃げてください。早く。


「去れ。長くは持たぬぞ」


 持つ。いくらでも持てる。口が勝手に急がせた。結果としては正しい。


 石工たちが這って逃げていく。1人が足をくじいていて、遅い。


 その時、背中で声がした。


「10年だ」


 ラザールさんだった。


 大剣を抜いている。切っ先が俺の背中の真ん中に向いていた。夕日の中で、火傷の痕が赤く見えた。


「10年、探した」


 人違いです!


 俺じゃありません。顔を見たんでしょう。仮面を取ったら全然違う顔ですよ。3枚の顔ですよ。


「貴様の刃が向かう先は、我ではない」


 人違いです、がそうなった。


 弁解のはずが、何かを知っている者の台詞になっている。


「言い逃れか」


 大剣が来た。


 速かった。10年ぶんの重さが乗っていた。


 右手の指でつまんで止めた。左手は岩を持ったままである。足元では、足をくじいた石工がまだ這っている。


 すみません。今ちょっと手が離せないんです。あとにしてもらえますか。


「後にせよ。今は手がふさがっている」


 仇に待ってくれと頼まれた男の顔を、俺は初めて見た。


 その時だった。


 空気が、熱くなった。


 黒い炎は熱くない。俺が注文したのだ。熱くもないし明るくもないし何も燃えないやつで、と。


 それなのに、熱い。


 採石場の入り口に誰かが立っていた。


 背の高い男だ。灰色の肌をしている。仮面はない。細い顔に笑いがはりついていた。そしてその体から、黒い炎が立ちのぼっていた。


 俺のと同じ色である。


 ただし、足元の草が焼けていた。


 本物だ。


 熱くて、物が燃える、本物の黒い炎だった。


「探したぞ」


 灰色の男は俺を見て言った。


「我が王と同じ匂いのする者よ」


 王。


 魔王のことだ、と分かった。俺の強さは魔王と同じである。注文書にそう書いた。


 ラザールさんの大剣が、俺の指のあいだで震えていた。


 俺を見ていなかった。


 灰色の男を見ていた。


「……お前だ」


 声が、割れていた。


 灰色の男は初めてラザールさんに目を向けた。少し考えて、思い出したように笑った。


「おや。あの村の生き残りか。まだ生きていたとは」


   *


 ラザールさんが灰色の男に斬りかかった。


 俺の指から剣を引き抜いて、ひと跳びで間を詰めた。速かった。


 届かなかった。


 黒い炎が壁になって、ラザールさんを弾き飛ばした。外套の裾に火がつく。転がって消したが、灰色の男はもう手を上げていた。


――――――――――――――――――

【登場可能です】

対象者:賞金稼ぎ1名

――――――――――――――――――


 今、発動中である。


 それでも板が出た。案件ごとに、高い所からの登場が必要だからだ。


 左手に家ほどの岩を持ったまま、俺はいちばん近い石材によじ登った。岩を持っていると登りにくい。


 飛び降りた。


 2人のあいだに着地した。


 灰色の男の炎が俺に当たった。


 熱くなかった。俺の体に届く前に、火のほうが散った。


 さて。


 俺は左手の岩を、そっと地面に下ろした。石工は全員逃げている。


 ここは採石場だ。


 まわりにあるのは、切り出した石と、これから切り出す山だけである。門もない。畑もない。長屋もない。壊していけない物が、1つもない。


 転生して初めてだった。


 加減しなくていい。


 殴った。


 拳は灰色の男の横を通りすぎた。目が慣れていないので、はずした。


 後ろの山が縦に割れた。


 割れ目は頂上まで走って、向こう側の空が見えた。切り口は鏡のように平らだった。


「……脆い山だ」


 山のせいにするな。


 灰色の男の笑いが、消えていた。


 2発目は当てた。当てたというより、つまんだ。襟首である。最強の敵を前にしても、体はこの持ち方しか知らない。


 灰色の男は俺の指の先でもがいた。炎が俺の腕をなめたが、何も起きなかった。


 倒せる。


 指に少し力を入れれば終わる。


 入れなかった。


 後ろに、ラザールさんがいる。


 大剣を杖にして、立ち上がろうとしている。10年である。この人は10年、この瞬間のために生きてきた。


 それを、通りすがりの俺が終わらせていいはずがない。


 魔王を倒すのは主人公の役目だ、と俺は女神様に言った。


 仇を討つのは、仇を持つ者の役目である。


 灰色の男を地面に押さえつけた。


 ラザールさんを振り返った。


 あなたの相手です。どうぞ。


「貴様の獲物だ。好きにせよ」


 ラザールさんは俺を見た。


 それから、押さえつけられた灰色の男を見た。


 大剣が上がった。


 灰色の男は最後まで笑おうとしていた。そして俺に向かって言った。


「王は、もう貴様を見ているぞ」


 大剣が落ちた。


 灰色の体は内側から崩れて灰になった。風に散って、何も残らなかった。


   *


 採石場は、静かだった。


 ラザールさんは、灰の散った地面を見下ろして立っていた。


 泣いてはいなかった。笑ってもいなかった。10年かけて登ってきた梯子の、いちばん上の段がなくなったような顔をしていた。


 終わったら、何をするんですか。


 考えたこともない、とこの人は言った。


 何か言いたかった。


 終わりましたね。お疲れさまでした。約束、覚えてますか。次は俺が奢るって言ったやつです。あの店で待ってます。


 駄目だ。


 それを言ったら、酒場の坊主が俺だと分かってしまう。言うな。飲みこめ。茶の時と同じ失敗をするな。


「……終わったな」


 ここまではよかった。


――――――――――――――――――

【解決を確認しました】

【退場します】

――――――――――――――――――


 指先が透けていく。


 ラザールさんが顔を上げた。何か聞こうとしていた。お前は誰だ、と。なぜ俺に討たせた、と。


「さらばだ。次は、我が奢る」


 言ってしまった。


 茶の時と、まったく同じ失敗をした。


 夕日の中に黒い炎がほどけていくあいだ、俺はずっと、口を縫いつけておけばよかったと思っていた。


   *


 落ちた先は、採石場の石切り穴の底だった。


 水がたまっていた。腰まであった。


 這い上がって、採点をした。


 高い所。石材。階段状。10点。


 逆光。夕日。10点。


 到着。8分前。10点。


 戦闘。山を割った。初めて加減しなかった。爽快だったので12点。


 台詞。最後の1つで0点。


 頭を抱えた。


 ペルネッタは採石場の外でロバと待っていた。


「山、割れてたね」


「割った」


「石工の親方が喜んでたよ。1年ぶんの石が切れたって。切り口がきれいだって」


「加減しなかったんだ」


「初めて役に立ったね、兄さんの加減しないやつ」


 ロバの背に揺られながら、俺は灰色の男の言葉を考えていた。


 我が王と同じ匂いのする者。


 王は、もう貴様を見ている。


 北の関門の黒い鎧も、あの男の手の者だったのだろう。魔王が、俺を探している。


 魔王と同じ強さで、と注文したのは俺だ。魔王に「貴様、いったい何者だ」と言ってもらえるかもしれないから、と笑って。


 言ってもらえそうである。


 あまり嬉しくなかった。


「それより兄さん。あの賞金稼ぎ、どうするの」


「どうする、とは」


「酒場で待ってるんじゃないの。約束したんでしょ。次は奢るって」


「……聞いてたのか」


「窓の外で。経費出したの、あたしだから」


 行かなければならない。


 約束である。お助けキャラは約束を破らない。


 ただ、今日あの人の前で、仮面の俺は同じことを言ってしまった。次は我が奢る、と。


 ばれる。


 今度こそ、ばれる。


「奢る金は」


「ない」


「つけね。15枚」


 借金は514枚になった。500を越えた。


 その晩、俺は『錆びた錨』の戸の前に、長いこと立っていた。

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