第245話 そこにこれがあるといいと思わねえか?
「あむ……おっ! これ、歯ごたえがいいな」
「はい、これをもって帰ったら、料理の幅が広がるってうちのお母さんも喜びそうです」
初めてのパスタ料理は、カイン隊だけでなく、一緒に泊まることになったカルトゥ隊(カルトゥの町の隊商、カルトゥは地球のウズベキスタンのサマルカンドあたり)の人たちにも概ね好評のようだ。
「でよ……」
台所にいたカルトゥ隊のおじさんが、カイン隊の副長さんのところで話をしている。ちらほらと聞こえてくる内容から、どうもパスタ麺がいつから手に入るかを尋ねているみたい。
隣で、塩野菜パスタを美味しそうに頬張っているリュザールの腕をつつく。
「ねえ、行かなくていいの?」
「あ、うん、あの人には副長の方がいいんだ。馬が合うらしいからね」
確かに、相性がいい人の方が商談もうまくいきやすいのはわかるけど……
「でも、日付の打ち合わせをしているよ」
「大丈夫じゃないかな。副長もカレンダーを持っているし、パスタ麵を売るためにはまとめるための紙が必要だとも伝えているから」
これから販売予定のパスタ麵は、一般的にスパゲッティと呼ばれる形状のもので細長くて折れやすい。折れてバラバラになったものでもこちらでは買ってくれると思うけど、安く買いたたかれたら行商人さんたちが損をしてしまう。だから、形状を保ったままにできるように紙で束ねようとしているわけ。地球のようにね。
「それで、ソル。今日バザールで聞いてきたんだけど……」
お、台所で聞きそびれたやつだ。箸を置き、リュザールの方を向く。
「いや、そこまで畏まらなくてもいいかな」
よかった。悪い知らせってわけではないみたい。
でも、内容を聞く前に副長さんがリュザールを手招き。
「あれ? ゴメン、行ってくる……」
カレンダーを使っての取引には、まだリュザールの助けが必要なようだ。
念のために聞き耳を立てて……
「え? 麺を大きな箱に入れて? いや、荷馬車の振動で折れるんじゃないかな」
ん? 日程の話じゃないの。
「綿や織物を下に敷いたらどうだ。どうせ一緒に運んでいるだろう」
「それなら振動は抑えられそうだけど、まとまってないと売りにくいでしょう」
そうそう、こちらにはまだ秤がないから量り売りもできない。
「別にまとまってなくても、困らねえだろう。麦とかそうしてきたし、目分量で行けるぜ」
麦……そういえばそうだ。麦は麻の袋に入れて取引しているけど、袋に入れる量は行商人さん次第。それでも工房に集まってきた麻の袋、大きさはそれぞれ違っていても、中に入っている麦の量はだいたい一緒なんだよね。
「わかった。ちょっと待ってて、工房の責任者に聞いてくる」
リュザールがこっちにやってきた。
「ソル、聞こえてた?」
うんと頷く。
「地球と同じにしないといけないって思っちゃってたね」
ほんとそうだよ。こちらでは、これまでも地球の知識が無くても生活できていた。それを便利にするためとはいえ、無理に地球に合わせる必要はない。ずっとそのつもりでやってきたつもりだったけど、どこかで地球に合わせないといけないと思い込んでいたのかも。
「それで、紙無しならパスタ麺の量産はすぐにできるの?」
「うん、硬貨と引き換えに集めた小麦がたくさんあるし、織物部屋の仕事も落ち着いてきているから人繰りもなんとかなると思う」
「それじゃ、一か月後は?……無理か。来月の後半くらいには?……わかった、第一弾を持っていけると伝えてくる」
リュザールは副長さんたちのところに……あ、カルトゥ隊のおじさんがカレンダーを出して待ってる。
「えーと、この日以降なら大丈夫みたい」
副長さんも一緒になってカレンダーで指さし確認。
「今日がここだろう。んでもって、コルカを出発するのがこの日。22日か23日にカインに着いて、次に出発するのがここあたりで、コルカ到着が2月の2日ぐらいか。それからまたカインに帰ったら、リュザールの結婚式があって……」
「お、リュザール、お前結婚するのか!」
「そうなんだ」
「で、いつだ?」
「2/14だね」
2/14は地球の暦では5/3。ゴールデンウィークの後半が始まったあたり。
「そりゃ、めでてえ。母ちゃん養うためにしっかりと働かなきゃな」
うんと頷くリュザール、期待しているよ。
「で、こいつはここにいつ届く?」
リュザールの陰になってよく見えないけど、たぶんカルトゥ隊のおじさんは自分のお皿に乗ったスパゲッティ麺を持ち上げているんだと思う。
「えーと、この日、17日くらいにカインを出発かな」
「カインからここまで7日ぐれいだったよな……ちゅうことは24の日。よし、俺たちもその日に合うように来るから、他に売らないでくれよ」
「おいおい、結構な量になると思うが、そんなに仕入れて捌けるのか?」
「いやな、俺んとこに若いやつがいるだろう」
リュザールと副長の視線が、先ほど台所にいたカルトゥ隊の若い行商人の方へ。
「あいつの実家は隊商宿をやっていてよ。今度そこで飯を出すことにしたらしいんだ。そこにこれがあるといいと思わねえか?」




