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記憶を共有できる僕と私の日常は  作者: 高坂静


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第244話 これもカインの新商品か?

〇1月13日(地球の暦では4月1日)テラ 水の日



 今回の旅の目的地であるコルカに到着したのは、出発してから10日目の夕方近くだった。


「先に行ってて」


 バザールが開催されている中央広場のところでリュザールたちと別れて、残ったカイン隊の人たちと一緒に街の北の方に向かって歩き出す。


 コルカに入ってからこれまでの間で気になったところはなかったけど、改めて街の様子を見てみる。

 避難民が増えている感じはしないな。物資は……それはリュザールたちが調べてくれるか。他は……キョロキョロしていると、手綱を引いている若馬くんが首を摺り寄せてきた。


「もうすぐ到着だからね」


 知らない土地を長い間歩き続けてくれた。ほんと感謝だよ。幼い感じはまだ残っているけど、これから頼りになってくれるんじゃないかな。


 程なくしてコルカ北部にある隊商宿に到着。

 中庭で荷解きをしていると、ひげを蓄えた背の高い青年が近づいてきた。


「お、今回はソルちゃんも一緒なんだね」


「はい、マルトゥさん。よろしくお願いします」


 アラルクのお兄さんのマルトゥさん。前回リュザールたちが来た時には、オバラまで支援ために行っていたと聞いている。ここにいるということは、あちらも落ち着いたということなのかな。後から尋ねてみよう。


「えーと、セムトさんとリュザールの姿が見えないけど……」


「今、バザールの様子を見に行っています」


「なるほど、市場調査だ。ほんと行商人は仕事熱心だね。さて、荷物を運んでいる間にその馬を繋いどこうか?」


「ありがとうございます。でも……」


 若馬を連れて来た理由を伝える。


「そうなんだ。北に住む遊牧民のために……確かに最近見かけることが多くなったかも」


「ここにも泊まるんですか?」


「いや、夕方には街を出ているから、外にユルトを立ててそこで寝泊まりしているんじゃないかな」


 なるほど。


「街での様子はどうですか?」


「疲れた表情の人たちが多いけど、悲観そうな感じはしないな」


 どうしてだろう……おっといけない。若馬くんを休ませないと。


「マルトゥさん、後から話を聞かせてください」







 若馬くんを馬小屋に繋ぎ、荷物を隊商宿の大部屋に運び込んだ後で、荷馬車に積んであった麻の袋を広げてみる。

 干し肉に玉ねぎはある。にんじんは昨日使ってしまった。今日は何を作ろう。小麦粉はあるから……お、そうだ!

 袋の中から紐でくくられた木箱を取り出す。中を開けると、黄色っぽくて細長いものがキレイに並べられていた。そのうちの何本か取り出して、調べてみる。

 うん、匂いもおかしくないしカビも生えてない。今日はコレにしよう。


「夕食を作ってきますね」


 部屋にいるカイン隊の人たちに声を掛け、木箱と人数分の玉ねぎと干し肉、それに塩を持って台所に向かう。

 今日は他の隊商もいるらしいけど……お、空いてる。まだバザールかな。今のうちに済ませちゃおう。

 食材を木製の台の上に置いて、鍋を探す。前来た時には中くらいのものが……あった! あ、でもちょっと早いかも。茹でるのはセムトさんとリュザールが帰ってからの方が……


「ソル」


 リュザールだ。


「お帰り、どうだった?」


「色々とわかったよ。はい、これ」


 リュザールがボウルを台の上に置いて、上にかかっていた布を取り除いた。

 アスパラガス! コルカから西でしか手に入らない珍しい食材だ。よし、これも刻んで一緒に炒めよう。


「ありがとう! 市場に物資は足りているの?」


「一部のものが不足気味かな。肉も欲しかったんだけど、最近は夕方まで残っていないみたい」


そうなんだ。


「それじゃ……」


「詳しくは後から話すよ。お腹ペコペコなんだ。それで、今日は何を作るの?」


 リュザールにカインから持ってきた木箱を見せる。


「スパゲッティだ! みんな初めてだよね」


 確かそのはず。今はまだ試作段階で、何回か工房で作ったきり。それもちょっとだから、今日のメンバーで食べたことがあるのは私とリュザールだけだと思う。


「味付けは……こっちにはトマトケチャップがないから、ナポリタンは無理か」


「うん、チーズやにんにくはあるからカルボナーラはできるけど、今日は野菜と炒めようかと思っているんだ」


「なるほど、確かに最初だから素朴なものがいいかも」


 というわけで調理を開始。


「よいしょ」


 水を入れた鍋をかまどに置き、砕いた岩塩を入れて火をつける。そして、沸騰を待つ間にリュザールと一緒に具材を用意していく。


「スパゲッティは全部使うの?」


「うん、人数が多いから食べてくれると思うけど……余るかな?」


「いや、カイン隊だけでもいけると思うけど、もしよかったら今日泊まる他の隊商にも分けてあげられたらなと思って」


 なるほど。同じ部屋だから、食べる時間帯が一緒になったらそれはなんだとなるよね。


「それなら、野菜を追加した方がいいかも」


 他の隊商の人が何人いるのかわからないけど、少しかさを増やした方がいいだろう。

 リュザールが部屋に追加の野菜を取りに行っている間にお湯が湧いたので、パスタ麺を折らずに入れて、沸騰して吹きこぼれないようにかまどの中の燃料を少し崩して火力を弱める。


 さてと、麺は一気に茹でられるけど、炒めるのは何回かに分けないと無理だな。この麺の量に野菜が追加されるから……3回ってとこかな。リュザールが帰ってきたところで、鍋の様子を見ながら追加で野菜を切っていく。


「麺、そろそろよさそうだよ」


 リュザールが鍋からパスタ麵を箸で1本つまみ上げて、こちらに見せてくれた。

 中心に少し芯が残っている。うん、アルデンテ。

 鍋をかまどから降ろして麺をすくいあげ、三等分に分ける。


 それから、地球で言うところの中華鍋に似た形状の大きめの鍋をかまどに乗せて、温まったところで油を引く。油がくるくると回るようになったら、同じく三等分にした野菜や干し肉などの具材を入れて強火で炒める。その時に、いかに手早く火を通せるかがこの料理のキモ。

 なので、ここからは腕力のあるリュザールの出番。

 リュザールは、具材の入った鍋を片手で振りながらお玉でかき混ぜていく。さすが普段から隊商で料理を作っているだけあるよ。私も力はある方だけど、隊商宿に置いてあるような多人数用の重たい鉄鍋を振るのは、なかなかに骨が折れるんだ。


「ん? どうしたの?」


「いや、男の子だなと思って」


「こっちではね。見てて……」


 リュザールが鍋を縦に大きく振ると中の野菜が宙を舞い、そして鍋の中にキレイに納まった。

 おぉー!


「練習したの?」


「まあね。はい、いいよ」


 リュザールの合図でパスタ麵を投入。

 同時に取ってあったゆで汁もちょっと加えて……こうすると塩味もつくし、炒めやすくもなるんだ。


「相変わらず、いい匂いさせてんな。リュザール、何作ってんだ?」


 顔を上げると、ガタイのいいおじさんとお兄さんが台所の入り口に立っていた。初めて見る顔だけど、リュザールの知り合いなら今日泊まる他の隊商の人たちかな。


「スパゲッティを炒めているんだ」


「す、すぱげってい?」


「なんだそれは?」


「うん、この麺のことをパスタというんだけど、この細長い形状のものはスパゲッティと言って……」


 おじさんとお兄さんがへぇと言いながら鍋の中を覗き込んでいる。


「っと、これくらいかな。ソル」


 準備していた大皿を渡す。


「よっ、よっ、はい。こうやって盛りつけたら出来上がり」


「すげえな。これもカインの新商品か?」


「そうだよ。ただ、売り出しはもうちょっと後になるかな」


 あーあ、というため息が二人から漏れてる。


「ふふ、あとから一皿をキミたちにも渡すから食べてみてよ」


「うおぉ!」

「マジですか!」


「その代わり、美味しかったら次は買ってね」

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