68 違和感
顔に汗をながしながら、カイラは息を吸って答えた。
「私といたしましては、それもやはり普通の認識の違いだと思います。獣人は人間よりも体が大きな分、やはり狭い所や細い足場、人間と同じ環境だと息苦しい者もいます。
しかしそのことは事前にこちらも予測しておりまして、きちんと注意も何回としたのですが、それでもやはりわからない人も、残念ながらいます。そこは人間も同じはずです、何度言ってもしっかり把握しない人に。どうか、そこをわかっていただきたい。」
そこで人間の王はその話に自分が引き込まれていると気付き、納得させられていることに気が付いた。冷静で、わかりやすい例えに聞きやすい話し方。人間の王もそれを練習してきたはずであるが、すっかり忘れていたものだ。
少し心が揺らいだ。そして、獣人の話を聞いてみようと、この時思ったのだ。
カイラもそのことを感じ取り、一瞬文章を切り顔を見て少しうれしく思った。
しかし、そこでロードロールのとある言葉があたまによぎる。
とあるひ彼は言っていた。獣人は昔理不尽に人間をしつけ、奴隷にした!という噂が。それになるのが、王は急に恐ろしくまったのだ。
だが、今回の話を聞く限り、そのことを必死に予防しようとしているように思ったという。
そんなことを考えているとは知らず、カイラは続ける。
「……今言った通り、これから直していくべき違いなのでございます。なので、こちらの話をしてもよろしいですか?その違いを正すかもしれない、移民についての、話を。」
少し語気を強めにカイラは言ってみる。王様もそれには反応しなかったが、若干カイラのことを無理や過ぎないか?とは思っていた。人間の王も仕方ないと思い、これまで予定であった苦情を話す予定をすべて捨て、きちんと話を始めた。
ここで王様は、その人間の王の目が若干変わって、見開いたことに気が付いた。
「ええ、今は話を聞きましょう」
ロードロールもそれに気づき、これはまずい、と王に口を出そうとした。
だが立ち上がってもそこには、軽蔑の視線しかなかった。
どうやら、場違いであるらしい。
「少し、外へ居てくれないか?ロードロールは。」
と冷静沈着に言われ、「わかりましたぁ」と明らかにけだるそうにしては、その場を去っていった。荒々しくドアが閉められた後に、王は息を吸って話し始めた。
「移民のことですね。えー……私といたしましては。不安な点として、少々そちらの治安について伺いたいのです。これまでの歴史を見る限り、かなり獣人が人間に対して悪さをした、その分獣人も人間を避けた、という記録が残っているのです。戦争みたいな。
その中には残酷なものだったり不可解なものだったり。私はそれが再発するのがとにかく怖いのです。
それに今まで何度も触れてきたと思いますが、結局その部分がまだ足枷のように私に引っかかっているのです。まだ。」
人間の王はわかりやすくため息を吐いた。
カイラは、その言葉が聞きたかったと思い、事前の想定通りに事が進んでいることに気が付いた。
王様は今までの国会のことを断片的に思い出していた。
確かに過去のことを学んでからかなり不安に思われている時が人間の王には多くある。
それに今までファランの方でも対策は考え、今までの国会でもそれを提案した。
そういえば、やっとそれが受理されたのが前回の国交、マンダとカイラが出会ったときだ。
確かその時はマンダの翻訳家として初めての本番だったはずだ。その前も翻訳の仕事はあったが、独学だったのもありその正確さは低かったという話も聞いた。それがいざこの場に出てみるととてもいい翻訳家であったのが第一印象だ。ここまでを王様は思い出していた。
人間の王は、それ以降続けた。
「以前まで、国交はかなりめんどくさい物という解釈でした。お互いに言語は伝わらない中での会話は大変ですし。でしょう?」
「……そうですね。かなり自分たちも苦戦をしました。」
一体何の話だ?と思いながらもしっかり聞いた。
「しかもあなたたちが提案したものは人間のサポートや食糧支援、土木作業などの力仕事ばかりでした。そんな事足りております。」
「なんですって?」
カイラが、翻訳を通さずに人間の言葉でそう言った。驚いて机をたたき立ち上がりながら。
「カイラ!?」と王様がおどろいて制止しようとしていたが、もう遅かった。
本人も、まずいと思ったが、王様はただ
「おっと、そういえばカイラ様は人間の言葉を話すことができるのですね」
「はい、少しだけ」
今度は拙い人間の言葉でカイラは喋った。しかしそこで齟齬が起きてしまった。
「少し!……ってどのくらい?」
そこでカイラが回答に悩んでいると、マンダがそれに耐えきれずに発言をした。
「発言をしてもよろしいでしょうか。」
「おや、奴隷は喋っちゃいけないはずだが……まあいい、今回だけだぞ。」
「ええ、カイラ様はだいたい学び舎卒業——中学中盤レベル——程度のレベルであれば、少し戸惑いますが会話ができるというくらいです。その他の獣人は学び舎2年ほどのレベルでございます。なので会話をするなら私を通してお願いしたいところです。以上でございます。」
「ありがとう。わかりやすいね。」
マンダはそう真顔で感情無く言うと、すぐに元に戻った。
人間の王はそれにうれしく思ったようで、うんうんとうなづいていた。
カイラはあまりにも一瞬のことだったが、ただしかったこともあり黙っていた。
「すみません、逸れましたね。ええとなんでしたっけ」
人間の王がそう言って悩むと、王様が今度は机に肘を置き、手を組んで人間の王のことをはっきりとまっすぐ見て言った。
「失礼、いくつか訂正をさせてもらってもいいですかな。」
「あぁ、どうぞどうぞ!」
王はそれに気づくと、翻訳も通さぬまま意味を理解し、手で先にどうぞというジェスチャーをしていた。カイラはそれに気づき、王に代わりに伝えた。
そして王は椅子に座りなおしながら言い始めた。
「えと、先ほど話していただいた国交の件でございますが、「あなたたちが提案したものは人間のサポートや食糧支援、土木作業などの力仕事ばかり」とおっしゃっていましたが、私たちは他にもいろいろと提案をしました。」
「そ、そうだったのですか?」
「はい。前回がうまくいったのもたぶん、こちらの意見が正式に伝わったということになります。」
「……なるほど。」
人間の王様は開いた口が塞がらない状態であり、そのまま固まってしまった。しかしすぐに冷静さを取り戻し、言葉を続ける。
「……あっと、ということは……お互いは意見を言っていたが、それが伝わっていなかったと。まさかそんなことは」
そこで、王様が口をはさんだ。今にも言いたくてうずうずしていたのだろう。
「一つ、私は聞きたいのです。」
そういって、王様はマンダのことを指差して、こういった。
「今までの翻訳家の人は、一体何を言っていたのですか?」
この時点で王は、何か共通点があると読んでいた。




