66 到着と再会
馬車に揺られていると、いつの間にかエーテルに着いていた。
人間の兵士たちに盛大に歓迎をされた。両端には楽器隊が出迎えのために曲を吹いており、かなり盛り上がっている。
そして門を潜り抜けると、その馬車を一目見ようと外に出ている見物客に、建物の窓から不思議そうに覗いている人間たちの姿が見えた。初めて見る人間の大群にゲーシュとカイロは驚き、二人で抱き着いては怖い怖いと小声で言って震えていた。しかしカイラがその顔を窓から見せると、人間はざわめき始めた。
「あ、あれって猫紳士様だよな、エーテルにいるんじゃなかったのか?」
「イケメンじゃない!猫の顔なのにあんなにかっこいい獣人は初めて見たわ!」
「あいつ、たしか翻訳家のマンダとの婚約者じゃなかったっけか」
「いい彼女さんはどこに行ったんだろうな?」
それはいろいろと混ざっており、混とんとしていた。カイラはこの言葉のほとんどを聞き逃さず、右耳から左耳へと流した。人間との交流も多かったかためか、その顔はやはり街中にも広く知られていた。美人でもの好きな猫獣人として。
カイラはそのまま外を眺めて、懐かしいなと感じた。たしか前の時もそうであったと思い出しているのだ。王様も同じで、外を眺めては懐かしい気分に浸っていた。そして前回の会議を思い出しては若干イライラしてしまうのであった。
やがて城門の前に着くと、そこにはまだエーテルに派遣されていた9人の獣人がいた。
久々に会えた顔を見て、カイラは泣きそうになったが必死に抑えて会議への覚悟を決めた。あいつらは、この会議が失敗したらどうなるのかわからない。処刑でもされるか俺らと一緒に追い出されるかだろう。
ゲーシュとカイロも少しずつ慣れてきて、周りのことを気にする余裕も出てきた。だがしかし会議のこともあり、緊張して体が硬いのは変わっていなかった。
カイラは気を紛らわすために、ゲーシュに声をかけた。
「大丈夫か?緊張しすぎると肩が凝るぞ。」
「ああ、大丈夫。このくらいなんてことないさ!」
そういって力こぶを作ってみせるゲーシュの足は、虫の羽のように小刻みに早く震えていた。
「にしては足が震えてるけどな」
「う、うるさい!」
ゲーシュさんはそう恥ずかしさを隠すように言って、そっぽを向いてしまった。カイラはそれを見ては共感をした。俺がもし強気だったらこんな感じになっていたのだろうか、と。
城内に入ると、馬車からカイロ、ゲーシュ、カイラ、王の順番で降りた。
礼儀正しく、背を伸ばして姿勢を正しくし、人間にその気迫を感じさせるように皆務めた。目の前には人間の王がいて、明らかゴマをするように手を揉んでいた。その後ろには大臣や貴族たちが集まっている。
ロードロールもヨシノワールもいたが、その中にマンダはいなかった。
「お久しぶりでございます。ファランの王、ファリア・アーノルド様」
「久しぶりでございます。エーテルの王、シュヴァルツ・エンテネル様」
カイラたちも、王がお辞儀するのに合わせて、一緒にお辞儀をした。かなり深めに。そして一緒にタイミングを読んで一斉に礼を上げた。馬車の運転手さんも、後ろの馬車に入っていた護衛たちも。
「ご足労ありがとうございます。城の中は快適な温度にしてありますので、どうぞお入りください」
王はわざとらしい笑顔を使いながら、大臣を引き連れて城の中へとカイラ一行を誘導した。その間ゲーシュはずっとおもちゃの兵隊のようなぎこちない歩き方をしていて、カイロは落ち着いて凛とした顔をしながらも、緊張して周りをきょろきょろと見ては、正面のゲーシュに少し遅れたりぶつかってしまったりしていた。
城の中は、とてもまぶしい構造をしていた。中に入るとすぐに見えたのは、とても広くて一面真っ白な空間の、真ん中にある台座の上に堂々と鎮座していた銅像であった。上を向き手を伸ばしながらあぐらをかき、天井から降り注ぐ光に手を伸ばしているようである。指先には紫色の宝石が付いていた。
その周りには赤色のカーペットが丸く囲うように敷いてあり、縦横4方向にも洗浄に伸びている。
カイラたちはその上を歩いて、右手側の部屋へと向かっていった。
その先にはかなり大きなドアがあって、横幅だけならカイラ一行が並んで通れそうなほどある。
それの倍以上に縦は広く、かなり大きなドアノブがついている。横にはさっきの銅像と似ているポーズをしている別のちいさな銅像がいた。
ドア——門と言った方がいいだろうか——を城の者大人数で引っぱっては、その大きなドアを開けた。
その中には、横長に大きな机が1つ並んでいて、壁には大きな窓がずらりと並んで太陽の光を満遍なく取り込んでいた。
机の上にはいくつもの蝋燭置きに、会議で使われるであろう資料と白紙の紙数十枚がある。
机の周りには、椅子が何個もならべてあった。遠くから見るとまるでおもちゃのように見えてしまうくらいに。
「改めまして、ようこそおいでになられましたことを、大変うれしく思います。こちらから見て右側に腰かけていただくようにおねがいします。」
そのまま言われた通りに、王、カイラ、ゲーシュ、カイロ、トン、トロ、ドン、そして後の護衛たちの順で席に座った。
その椅子もかなり豪華であり、カイラは緊張でその目の前の物品を見ることができなかった。
金を金づちか何かで手打ちして作ったであろう、均等にへこみが入っている金製のコップに、なんともおもたそうな鉄製の筆記具と硬い半紙が数十枚、絹で出来ているであろうサラサラな机敷き(デスクカバー)、そこには高級品ばかりが並んでいた。
カイラとゲーシュはつばを飲み込み、心臓の鼓動がかなり早まっているのを感じた。特にゲーシュは冷や汗をかき額に汗を垂らしていた。
ぞろぞろとその目の前に人間の大臣や貴族が座っていく。そしてその後ろに留学をしていた獣人たちがいた。
その人たちを見ていくと、後ろの方から小さな女性がきっちりとした王女様のような姿で、列を無視して前の方へとやってきて、王とロードロールの後ろへと着いた。
カイラの目の前であり、カイラはその顔をはっきりと見て、思わず涙を流しそうになった。いや、すでに涙は出かけていて、顔にも現れていたのかもしれない。
人間に何か言われるだろうかとカイラは心配に思ったが、まだ何もなかった。
少し安心して、心の中が暖かくなる。
「今回の翻訳係を務めさせていただきます。マンダと申します。よろしくお願いします。」
その顔は、美しかった。
今まで見た中でも一番の美しさであった。




