65 向かい途中
ここから視点の移動上の関係で3人称になります
カイラ一行のファラン組は、その自然にはそぐわないくらい綺麗な馬車に乗って、エーテルへと続く道をゆっくりと進んでいた。
馬車を運んでいた馬車は、足が速いことが特徴な野生のドラゴンを使っている。口に枝を加えさせ、馬車を頑丈な紐で引っぱって動くような仕組みであった。
その後にもいくつか馬車を並ばせ、どれも大きくきれいな装飾が施された馬車がずらりと並んでいる光景は、相手の国に十分その威厳を示すのに良い材料となっていた。
ファランまではかなりの時間がかかるため、会議が終わる頃には太陽は昇りきってしまっているであろう。と馬車の運転手は覚悟を決めた。
その間、カイラの心はずっとバクバクと激しく体を打っていた。どくん、どくん、どくんと。王様をそれを察してはニヤニヤと静かにカイラのことを見守っており、まるで初めて公の場で話すときのようだと考えた。しかしそれに反してゲーシュとカイロは外を眺めてはいろんな生物に景色を見つけて、まるで旅行に行く子供の用に楽しそうにしており、緊張感のかけらもなかった。いや、このくらいリラックスしていてもきっといいのだろう。と王様は心配に思いながらもその二人の邪魔をすることはなかった。
馬車の中は窓を開けていないと密閉されたあたたかな空間で、今のような暖かい天気にはまったく合わないものだ。窓を開けていないと暑くて溶けてしまいそうなほどに。実際兵士がその中へと入ってくると、暑っ!と言ってはそとに逃げ出していく。そしてうちわを持ってきて慌ててこの馬車の中の暑い空気を外に追い出して中に外の新鮮な空気を入れる様子を、王様は何度も見てきた。しかも毛皮の多い獣人は汗をかくこともできないため、涙と口呼吸でその熱さを体の中から追い出すしかなかった。
今回の馬車に乗っていた人たちも、そのうち馬車の中が暑くなってきては汗をかいたり、自分のことを服を引っ張って仰いだり、外に顔を出しては少しでも涼しい空気を欲したりと色々そういくふうをすることになった。飲み水もその中にあったが、飲んでもほとんど体が同じ温度なため、ただの味のない水になる。こういう時に、キンキンに冷えた氷水があればな、とそこにいる皆が思ったが、そう思った頃にはもうエーテルが見えてきているのであった。
大きな山を越えて見えるそのエーテルの景色は、まさに絶景であった。
山の上から白に近い色をしたレンガ造りの城壁が、街中にある様々な建物を囲み、なんとその中に草原まで広がっていたりと、その中に世界を詰め込んだようなものであった。ファランと比べると大きさは3倍も広く、その街を初めて見るゲーシュとカイロは興奮で、窓から飛び出しそうな勢いで外を見て、「ファランだー!」とさけんだ。
「これ、落ちるぞ!」
とカイロが言って二人の腰辺りの布を掴む。
案の定、二人は落ちそうになって半分パニックになったが、カイラのおかげで馬車の中に引き戻された。
「あっはっは!」
王様はその光景が面白くて、豪快に笑った。
「何をしているのだか。王様の前という自覚が全然足りないのじゃあないか?」
カイラが睨みを利かせながら二人に向かって注意をすると、二人は顔を俯けて元気のない返事をした。もう王様とも仲良しになってしまったゲーシュとカイロはすっかり気が抜けてしまっていたのだ。
「まぁ今回は許すが、今度は俺の威厳を損なわないように十分注意しろよ」
「はい!了解しました!」
「承知しました!王様!」
肘をつきながら呆れてそう言った王様に、二人は硬く背筋を伸ばして元気に返事をした。気が抜けているのが完全に戻っていると感じた王様は、何も言わずにただ口角を上げた。
王様は顔を出し、運転手に話を聞く。
「なあ、あと城まで何時間かかるんだ?」
「この距離なら30分ほどで着きます。少しおやすみになられますか?」
「いや、いい。それに相手も、この距離ならこちらに気づいているだろう。」
「わかりました」
そういうと運転手は手綱を握り、軽く波を立たせた。
すると馬車の速度が若干上がり、ドラゴンのきゅるきゅるという鳴き声が聞こえてきた。
「すみません、少し速度を上げますね」
「おう。だが俺らのことも考えてくれよな」
「もちろんですとも。常にあなた方様のことを考えて安全運転で居させてもらいます。」
「頼もしいな。じゃよろしく」
「はい」
そういうと運転手は嬉しさを感じながら手綱をまた何回か波打たせ、馬車が激しく揺れない程度に抑えつつも、その速度を少しずつ上げた。
しかしその揺れは馬車の中では大きな差を産んでいた。その微妙な揺れが、ゲーシュの胃に直撃して、吐き気を催したのだ。
「少し速度を落としてくれ。一人酔っている。」
「あっ!すみませぬ!」
運転手は慌てて手綱を引っ張り、ドラゴンを制御した。そして少しゆっくりになり、カイラが背中をさすってあげてからしばらくするとゲーシュの馬車酔いは治った。
「よし、酔いも治った。このまま進んでくれ。」
「了承しました。」
そういって前を振り向いた運転手は、安心して、汗もかいていない自分の額を拭っていた。




