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猫の紳士と翻訳家の異種恋愛物語  ~獣人と人間の恋愛の行方や如何に~  作者: トリ寝る
6章

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63 まだ時間があるので

 そんなこともありながらも準備は終わり、ちょうど馬車の手配も終わったようであった。今は待機場所に馬車と馬を移しているところらしい。


 窓から見えた馬車はかなり豪華なもので、金色の基礎が輝いている白を基調とした馬車であった。土汚れが付く下の部分だけ土に合わせた色になっている。


 その馬車を見ると、マンダを連れ去ってしまった馬車を思い出した。


 また悔しさがこみあげてくるが、すぐにそれは私の闘志へと変わって燃えた。


 私たちは最終確認をするための待機所に向かい、みんなのことを待った。


 最初にカイロが来て、次にゲーシュさんが来た。ゲーシュさんは一般市民という扱いなのでスーツも私のとは違う、液体で固めるタイプのスーツであった。しかしその液体をつけすぎたのか、かなり白光して硬そうなスーツになっていた。


 何とか動いて私の横に座ると、一仕事終えたようにふぅと息を吐き、俺に愚痴るように話した。


「なぁ、スーツってこんなに硬いもんなのか?」

「いや、それはたぶんメイドがミスったものだと思うな」

「なんだと!?まじかよ、あとで苦情入れてやろう!」

「はは、そのうち柔らかく体になじんでくるから大丈夫だよ、それくらい」

「ここまで来るの大変だったんだぞ?最初なんかまるで案山子みたいだったぜ」


 話によると、腕も足も固まっていて、そのまま片足軸で歩かなくてはいけなかったらしく、ここまで来るのにもだいぶ苦労したらしい。


 だから座った時にふぅといったのか。


「大変だったな」

「ほんとそう。」


 二人で一緒にははは、と笑いあう。その案山子のような光景をただ眺めていた。


 するとそこで、王様が入ってきた。


 その姿を見るとすぐに、みんな目を惹かれた。


 その赤くキラキラと輝いている羽織り布に、中にはその赤との差をつけた、腰巻きのある白く長いローブをつけていた。そして頭には、様々な色の宝石がふんだんに使われた、目を瞑ってしまう程にギラギラと輝く赤い王冠をかぶっていて、まさに富の象徴となっているように見えた。


 まさに、王の姿であるとそこにいる誰もが思った。

 しかし、当の本人は少し恥ずかしそうにしていた。


「そんなにじろじろ見ないでくれ。私はこの格好が嫌いなのだ。」

「とんでもない!お似合いですよ王様!ほんとうに!」

「ありがとうな」


 口ではそう言っていたが、席に向かいながらも、若干不満そうに見えた。その言葉をお世辞にでも思ってらっしゃるのだろうか。


 しかしその時は、真剣でまっすぐな、一切おふざけなしの顔をしていて、圧力を感じるほどであった。


「とりあえず、これで全員か?」

「ええ、おそらくは」


 俺は過剰に反応してしまう。真剣な王様を見るとつい固くなってしまうのだ。


「カイラにカイロにゲーシュ、いるな。よしじゃあこれからの流れを確認するぞ」

「はい!」「わかりました!」「了解です!」


 王様は席に座ると、すぐに懐に入れていた巻き物を出しては、その中にまとめてあった一日の流れを読んでいった。


 まず、馬車で2時間ほど荒道を走り、エーテルに着。その時に国の真ん中を突っ切っていくので、ゲーシュとカイロは隠れて、私と王様が見えるところに出て、その威厳を見せつける。


 そうして王城の中に入り、馬車を降りては人間のメイドが案内してくださるのでついて行く。


 ずっとその道なりに進んでいくと、会議室が見えてくる。メイドとはそこでおさらばで、その後は名前が入っている席を探してはそこに座る。


 するとあちら側の王様と大臣が来る。このときに、しっかり胸を張って緊張、もしくは堂々としながら相手をよく観察する。そこで人間の性格の悪さがある程度うかがえるはずだ。


 タバコを吸ってたり机をなぞったり、挙句の果てには笑っていたり。……とまではいかないが、かなり悪いことにはなるであろう、という予測であった。


 そして、今回も翻訳係となるマンダによく注意を向けろ。だが絶対緩まないこと。そこで気を取られて動揺させられてしまう。


 そこからは、カイロの出番だ。

 唯一人間の言葉が直接わかる獣人であるからだ。マンダも何を言わされているかわからないので、そこの隙も埋めるためだ。


「はい、なるべくは奮闘させていただきます。」

「ああ、そこからは……行き当たりばったりだ。結果はわからんが、今言ったことは忘れない用にしといて。」

「了解しました!」「わかりました!」「はい!」

「よし、いい返事だ。」


 王様は真剣な顔からまたいつもの笑顔に戻った。


 その瞬間、私たちも気を抜いてしまいそうになったが、気を抜いたゲーシュさんが「あ!気を抜いたな今!こら!」と半分冗談のように怒られていた。


 その油断が、会議の状況を左右していくからである。しかしゲーシュさんは少し口をとんがらせていた。


「怒りたくなるのもわかる。俺も同じ気もちだからな。ずーっと気を抜かないのは大変だ。しかしな!それでマンダが攫われた。カイラが気を抜いたから、マンダは攫われてしまったのだ。それは紛れもない事実だ」

「申し訳ございません」


 膝に手をついてなるべく深く謝る。しかし王様は優しく言った。

「謝らなくてもいい。すでに反省もしているだろうし、今から自分で取り返してもらうんだ。それに、脳がある以上ミスはあるものだしな。」

「はい……」


 だが若干許していないような口ぶりに、俺はいまいち返事をしていいのかわからなくなってしまった。


 カイロが、ふと何かを思い出しては王様に聞く。


「ところで、王様がいない間の国はどうなるんです?」


 ふと、カイロが聞いた。それを聞いた王様は、そういえばと言って椅子の背もたれから離れた。


「ああ、それなら……誰だっけな」


 少し考えていると近くにいた執事が話に入ってきた。今まで置物のようにふるまっていたので動いた時には心臓がどきっとした。


「確か、副騎士長のフィン・フ・フェント……」

「ああそれ以上はもういい、思い出した。あの名前が異様に長いやつな。ああ。」


 手でその執事の方に向けてはらうようにした。最初の名前だけ聞いてもかなり厄介な名前のようだ。

「にしても、あいつか……あのいつもふっはっはっは!って笑ってる副騎士長だよな」

「そうでございます」


 王様は急にその人のことを再現しようと大きく笑った。私はそれにまた驚いてしまった。


「あいつなら1週間は……持つか?持たないか?」

「裏市によります。攻めてくれば応じると思いますし、何も動きがなければ何もないと思います。しかし王の立場が危うくなることはないかと」

「いーや!あいつはなんかやらかす!たぶん!なんかそんな気がする!」


 突然頬の毛をピクつかせ、起き上がってはそう宣言した。


「……ですが他に任せる人がいますか?」

「いない、な……うん。予定は一週間だっけ」

「そうでございます」

「……伝達してくれ。「裏市とは絶対に戦ってはいけない。必死に防衛に専念しろ」と。それであいつが収まるといいが」

「王様の命令なら……と渋々受け入れると思われます。」


 執事は渋々答えたが、やはり納得がいかない様子であった。王様もそれを察したのか、言葉を追加した。


「それでもいい。まぁ拒否られたら、くびにするとか言ってもいい。」


 そう言って、くびを掻っ切るような動作をした。真剣に、そして有無も言わせないように。


「わかりました、王様がおっしゃるなら。」


 執事は何も言い返さずに、ただそう言って頷いた。

 王様はまた椅子の背もたれに寄り掛かり、体を気楽にして、またカイロと話し始めた。


 その時に、誤字脱字確認が終わったので、王様に話を遮ってしまうことを申し訳なく思いながら話しかけた。


「あの……」

「あぁ、終わったか。お疲れ様、まだ若干時間もあるからゆっくりしよう」

「はい。」


 そういわれすぐに席に戻ると、なぜか疎外感を感じた。ただ今はカイロと楽しく話していらっしゃるだけなのだが、それがどうにも憎たらしく見えた。


 嫉妬だろうか。彼女の心配をしすぎて頭がおかしくなってしまっているのだろうか。


 あまり気にしてもしょうがないが、1度気になると無性に気になってしまう。意識に関係なく自然とその二人に視線が行く。

 もう一人のメイドが紅茶を持ってきてくれて、少し喉が渇いていた俺はそれを一口飲んだ。


 安めの茶葉を入れられただろうか。さっきよりも味が薄く下に沈殿してしまっている気がする。


 そこで俺はハッとした。いつもこんな細かいことは気にしないのに、なんで今気になったのだろう。

 ……ストレスか?


 最近マンダと暮らし始めて体も頭も訛っていて、非常に疲れやすくなってしまっているのだろうか。

 やばいな、俺の体も……少しは、休むタイミングが……。


「……ありゃ?」

「カイラさん?カイラさーん?」


 二人が俺に気づいて声をかける。

 俺は紅茶を飲んでから後ろの椅子にもたれかかった瞬間に、寝てしまったのだった。


 それは意識がぷっつりと切れたようで、まさに気絶するようだった。

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