62 着替えましょう
衣装準備が整ったと報告が入ったので、一旦書類整理を止めてゲーシュさんとカイロを呼ぶ。
カイロは会議自体には参加しないが、その情報収集能力を王様に気に入れられてついて行くことになったらしい。ついでに書記も。
なぜ「ついで」なのが気になるが、そこは緊張しないための配慮と考えておこう。実質やることは同じなのに。
豪華な更衣室に入ると、メイドがその場に用意してくださっていた服を着るだけであった。
私には、上半身のブレザーが腰だけ異様に長いスーツを渡された。大きさもかなり緩めのものであるが、ピンとしてしわもない。驚いたことに何の素材でも固めていないそうだ。
更衣室中で着替えていると、メイドさんが話しかけてきた。
「高級な布は密度も高いため、しわもつきにくいのです。また素材の中には固める成分も混ぜ込んでありますので、頑丈なのでございます」
「す、すごいですね、前までのスーツとは見違えるようだ。」
スーツは、国交の時には必ず着て行く正装のようなものであるのだが、今までのスーツはしわがどうにも抑えられずに、必死に固め材で隠しながら品格を作っていた。
虎のメイドが丁寧に着せてくれて、身だしなみも整えてくださった。
やはり普段からやっているプロは違うな。
そしてその後には、綺麗な姿をした私が鏡に映っていた。あとは顔の毛並みを自分で整えるだけだ。
「ありがとうございます」
「とてもお似合いですよ。」
窮屈な感じもない、腰のベルトがきついような感じもない。指摘するところもなく、完璧であった。
そして私は顔の毛を整えに行こうと別室の洗面台へと向かう途中で、まだ下着しか着ていないカイロと焦りまくっている虎のメイドを見た。
どうやら緊急で衣装を用意したらしく、なかなか合うものが見つからないようで、メイドも大変そうであった。カイロが何をすればいいのか分からずにおどおどしてしまっている。
仕方ないので私は声をかけることにしました。
「すみません!」
「大丈夫ですか?」
「あっカイラさん!その、カイロ様に合う大きさのスーツが見つからなくて!」
「寸法は計ったか?」
「ええ、計ったので合うサイズを選んだのですが、いかんせん腕が長すぎてしまって。時間もないので仕立てもできず……」
「え、折りたたんでもいいんじゃないか?」
「……は!完全に視野から外れてました!」
「はぁ……」
たぶんこのメイドは見習いだろう。袖を畳んでもかなり形がいびつになってしまっていた。
「すみません!」
「あはは……」
カイロも気まずそうに愛想笑いが出てしまうほどであった。
一応カイロ本人にも巻かせてみたが、同じくいびつになってしまっていた。
「うう、人のこと言えない……」
「そんなに落ち込まなくとも」
「メイドとしてこのくらいできないと!」「マナーなのでできないと恥です!」
「ああ同時にしゃべらないで!」
二人の逆鱗にかすってしまった。その気持ちもわかるが、焦ると余計こんがらがるのは仕事上の経験と同じことだ。焦ると物事は何も進まない。
「今回はわたしがやりますね」
「はい、すみません。練習しておきます」
メイドが半泣きでそう言ってしょんぼりとしてしまった。
私はゆっくりとカイロのスーツを腕の長さに合わせて何回か巻いた。するときっちりとした袖ができた。もう片方もずれないように調整しながら、しっかり準備してあげると、カイロはその自分が映った鏡に姿を映してははしゃいでいた。
「きれいですね、この衣装」
「さて、私は行くぞ」
「ありがとうございました!」
そう言ってすぐに洗面台に向かったのであった。




