56 ロードロールだっ!
いつの間にか寝てしまったようだ。
気が付けばベッドの上で横になっていた。
「おい、お客だぞ。」
「は、はい!」
隠し扉をノックされ、慌てて布団から出ていく。寝覚めは少し悪かったものの、すっきりとはしていたので行動は早くできた。
慌てて出てくると、服装は薄汚れた薄い服とズボンを着てみすぼらしい恰好をさせられた。そのままで、と言われたので、私は仕方なく従うことにした。
「どうぞ。」
閉まっている入り口に、誰かが入ってくる。
「くっさい部屋だな」
口の悪いその人を見てまず目に入ったのは、その黄金の歯であった。すべてが金色に輝いていて、明らか悪い印象を持った。それに目立っているのが金色の腕輪だ。数十個もつけていて、そのすべてが負けじとキラキラ輝いている。
私は最初に、まぶしいと思った。まぶしすぎて思わず手で顔を覆ってしまった。
「こいつか。新しい奴隷ってのは。」
「そうだ。一応俺のもんだから、死なせるなよ」
「あぁ。もちろんさ。優しくなでてあげるよ」
そのねっちょりとした喋り方に若干の嫌悪感を覚えた。そいつは私の元へきては、じっくりとキスしそうな距離まで顔を近づけてきた。
鼻息が荒く、長い鼻毛がいちいち触れてくる。
「ふん、綺麗じゃないか。いいやつを買ってきたもんだ。何円だった?」
「4000万円」
「そんなもんか。安いな」
そういうと、何のきっかけもなく私の髪を触っては頬を殴ってきた。幸いその力は弱く、私はよろける程度であった。
「っち、倒れろよ……」
「そいつは頑丈だぞ。彼氏さんが獣人だったんだと」
「ふん」
少し不満そうであったが、ただ鼻を鳴らすだけでその人は無言でマントを翻しながら帰っていった。
私は殴られた頬を触る。赤くはれているだけで済んだようだ。
少し部屋を離れた様子を伺って、ヨシノワールさんは腕を組んでため息を吐いた。
「はぁ。あいつ舐め腐ってるだろ?自分以外を人間だと思っちゃいないんだ。」
「ものすごい人でしたね」
私は皮肉を込めてそう言った。
「あぁ、ものすごくな。」
ヨシノワールさんもとても不満そうにしていて、私をまねして皮肉っていた。
「といってもな、あれ兄なんだけどな」
「お兄様なのですか?」
「お兄様やめろ、むかつく。んで、とにかくあの人は傲慢だ。人をすぐに殺すし、時には拷問もする。人の奴隷も奪う。」
「恐ろしい……」
「だろ?お前も気をつけろよ。正直あいつから隠すために隠し部屋があるんだから。」
「なるほど、そのために」
どうして隠してあるのだろうと思っていたが、まさかのそんな理由だったとは。
納得したと同時に、不安が襲い掛かってきた。さっき綺麗じゃないかと言った理由が少し気になるのだ。
「一つ質問をしてもよろしいでしょうか」
「ああ、いいとも」
そういいながらまたその人は筋トレに戻った。今度は足を嫌えるべくスクワットをしていた。しかもダンベルを持ちながら。私は戸惑いながらも質問をした。
「私は、あの人に奪われるのでしょうか?」
「いや、それはないんじゃね。ふっ」
え、と思わず声が漏れ出る。あっさりと否定されてしまって呆気に取られてしまったのだ。
「あいつ、都合のいい奴隷しかもらわない。ビンタされたのはその試験。」
「な、なるほど」
時間をかけてゆっくりとスクワットをして、筋肉を固くしぼっている様子であった。
「とりあえず、ピンチは切り抜けたな。」
「よ、よかったです……」
果たしてよかったのかわからなくて不安になったが、一旦部屋に戻ることにした。




