50 王の悩み
あのバカ!と王様は頭を悩ましていた。
部屋中をうろついては落ち着かない様子で、考え事をしてはうーんと唸った。
そのきっかけとなったのは、とある事件のことである。
そう、カイラたちのことだ。
とある知らせが先ほど入った。突然兵士が巻き物を持ってきて、「大変です!」とその巻き物を渡してきた。そこのなかに書いてあったのが、マンダさんが奴隷となりエーテルに強制送還されるらしいという知らせだ。
私はそのことを聞いては耳を疑ったが、兵士の慌てっぷりからどうやら事実なようだと察した。
そのときはすっかり頭を抱えてしまったよ。
カイラよ、なにをしているのだと。
犯人として特定されているそのゾウの獣人やそれに関連していた獣人たちは、警備員が捕まえて既に刑務所へ入れられているらしい。
最初は宝石の値段のおかしさから通報されて、詐欺の容疑でつかまったのだが、のちにその事実が判明し、今現在裁判員の人が罪状に悩んでいるところであった。
だが今私が悩んでいるのは、マンダさんが無くなったことによって出てくる影響だ。
正直私はこのままほっとくという選択肢もあった。奴隷になっても買い取れば良い、などと考えていたのだ。
だがしかし、国交にかかわる事態だ。
「あいつら何やってんだか……ったく、エーテルと戦争はしたくないし……でもマンダさんきっかけで交渉持ちだすのもなんか変だし……マジでどうしよう、こういう時にアイデアが浮かばないんだよな……たく俺ってやつは……」
まるで誰かに話しかけているようなひとりごとは、廊下にいる兵士たちに恐怖をあたえた。きっとイライラしているから話しかけない方がいい、などと思っているのだ。
実際イライラしていた。しかし他人にではなくて、私自身に。
力になれない無力な王であることを嘆いていたのだ。
マンダさんはとても大切な存在である。
しかし元から管理はあちらにある。人間の国で生まれた人間であるから当たり前の事。
こちらの国交の問題になるからちょっとマンダさんを解放して話を聞いてもらえませんか?とも言えない。絶対に断られるだろう。
相手に利益もないし、そもそもあの人間の王様、あんまりこちら側の話を聞かないしな。
唯一話が伝わるのがマンダさんだけである。
他はあまりにも無責任で、話を聞く気すら感じない。耳の穴かっ掘じって聴けよ、といったらずっと耳の穴を掘っているような感じだ。
どうして今まであの国は生きてこられたんだ?ってたまに疑問に思うこともある。
……マンダの翻訳は素晴らしい。人間のニュアンスもすぐに変換して私たちに聞かせてくれる。脱帽だ。しかしそのマンダは今や奴隷だ。これからはその素晴らしく面白い翻訳をきけないと嫌気がさしてくる。
今頃カイラはどうしたんだろうか。村の掟を破ったとか聞いたが……きっとそのせいだろうな。
首でも切ってしまおうか。
いや落ち着け。そうしたらマンダさんのメンタルがやばい。あの人が潰れるといよいよ戦争を仕掛けて強制的に話をつけるしかなくなる。話が聞かないなら殴るしかない。
そうなったら、今の不安定な軍勢的には危うい。勝ったとてファランも半壊状態になるだろう。考えるだけでも恐ろしい!
今すぐにでも地面に伏せて赤子のように駄々を捏ねたい。しかしそんなことこの年齢でしてたらほんとに壊れたと思われる。
威厳を示さなければ。やだんねぇとか言ってる場合か、
この王バカ者! (大バカ者と王バカ者をかけた懇親のギャグ。)
と、そのタイミングで頭痛がしてきた。脳みそがどくどくと動いている。
……休むか。たまには散歩でもしてみよう。
「おい」
「は。」
そう虚空に呼びかけると、すぐに召使が入ってくる。相変わらずきっちりとしたスーツが似合っている馬獣人だ。
「私は外へ行って散歩をする。最近どうも疲れているようだ。」
「承知しました。……王宮内のみですか?」
「あぁ、そうだ。なるべく城内を歩くつもりだ。それと中庭も。」
「承りました。では護衛を呼んでき——」
「あぁあぁ、ちょっと待て。」
すぐにドアの外へ出て護衛を呼んでこようとした召使を呼び止めた。召使は驚いた様子でドアの前に立っていた。さすがの動きだ。とても早い。
「城内だけだし、護衛はいらないよ。それと、今は一人で歩きたい。」
俺がそう話すと、執事はまだ驚いた様子のまま、こちらに歩いてきた。
「しょ、承知いたしました……私としましては少々不安ではございますが、あなた様がそうおっしゃるのなら、護衛はなしでお散歩へと行かれるということで。」
「そういうことだ。では早速向かうとしよう」
そうしてドアに向かい、召使の横を通って廊下へと出た。あえて何も持たずに、手ぶらで30分ほどぶらぶらするつもりだ。
しかし、まだ何かあるのか、口ごもっていた召使に呼び止められた。
「王様!やはり言わなければならないことが!」
「なんだね、早く行きたいのだがね。」
わざとイライラしている素振りをした。言っていることは本心であったが。
だがしかし、止められた直後の言葉が相当早口であった。焦っているのであろうか。とにかくこれは何かありそうだ。
「最近、城内で「人間の匂いがする」という報告を聞きます。もしかしたら人間とかかわっている獣人が城の中にいると思われるので、お気をつけてください。」
「ほぉ、人間の匂いか。スパイかな、私は鼻がいいから、匂ったら気を付けるよ。」
「は。お気をつけて」
深いお礼をした召使に背中を向けて、待ちに待った散歩に私は出掛けるのであった。
ドアがドン!と軽く閉じたようには思えないくらい大きな音を出して閉まった。




