49 事後会議 猫
その頃カイラたち。
順調に怪我も体力も回復し、もうすぐにでも出発できるような状況になった。
みんなの腹も満たされたようだし、エーテルまでもそんなに時間がかからない。
しかし、彼女はエーテルの中に入ってしまった。エーテルに獣人は基本的に入ることはできないため、私たちは彼女を救い出す術を失っていた。
なので私たちはその場からは動かず、話し合いをすることにした。
「どーすんだこれ。ファランの王に頼むか?国交を開けーって。」
とゲーシュさんが冗談交じりで言った。
「いや、この事態がファランの王にバレたりしたら戦争になりかねない。それだけは避けたいんだ。俺は。」
と、そこでトンが何かに気づいた。
「あれ、一人称変わってんじゃんか」
「真剣な時は俺になるの、昔から変わってないな」ゲーシュさんはふひひと笑った。
「な、なんだよ急に……俺とか私くらい、いいだろ……それよりもマンダを救い出す方法だ。」
「あ、あの、一ついいか?」
そこで、カイロが手を挙げた。少し言いにくそうだ。
「いいよ」と私は快く承諾した。まだ話の続きであったが、カイロの言うことなら何かありそうだと思ったのだ。
「思ったんだが、結局戦争は回避できないと思うな。」
「な、なんで?」
「マンダさんって、確か国の重要な人だろ?エーテルの。しかも国交面で。そんな重要な人を奴隷にしてしまったのは、まぎれもないあのゾウで、獣人だ。今はそれが隠蔽されているとはいえ、遅かれ早かれそのことがばれて、戦争を仕掛けてくるでしょう。」
「そうだな……だがしかし、ヨシノワールが買い取ったんだ。結局人間の方に戻ったし、カイラさんたちが出会う前の状態に戻って、結果オーライになって表沙汰にならないまま終わるんじゃないかと思う。」と、そこでトロが答えた。
「そうなったら最悪だな。」
「あぁ、最悪だ。」
そうなったら私はもう、二度と彼女に会えなくなるだろう。
基本的に奴隷は外に出ることは許されないはずだ。特に前であった人間関係なども断ち切られ、奴隷を奪う可能性のやつらとして警戒されるだろう。
だが、その事実は、ファランの王も許さないはずだ。
せっかくの交流の機会が、無くなってしまうのだから。
「実際ファラン側がどう思うか……」
「国交が失敗した、程度じゃ終わらないのか?」
「あぁ、そもそもファランの交流のきっかけはいくつかある。それはまだ国として土地が小さくて、獣人が住む土地が無くなる危険性が出てきたんだ。それでファランと国交を結んで獣人を迎え入れてもらおうという魂胆だ。それともう一つが、人間の生産能力だ。獣人は手が大きかったり身長が小さかったりして、だいぶ差が激しい、だが人間はだいたい一緒で、大きな差はない。だから高い金で雇って労働力として雇おうっていう魂胆だ。だいたいこんな感じ」
私は心底丁寧に話したつもりなのだが、あまり理解できていないようであった。
「うーん……」
「社会の授業?」
「久々に長話したな、お前」
思わずため息を吐いてしまった。
わかったと思われるのはカイロだけだ。さすが馬車の作戦を考えただけある。
「簡単に言うと、1つ目が土地がないからエーテルに貸してくれって頼むのと、2つ目は人間を雇って仕事の効率を上げようとしてるから。」
「あぁー、なるほど」ドンがうんうんとうなづいていた。
「本当か?俺は1しかわからなかった」とゲーシュさんは肩を上げた。
「何となくだけど俺もわかった」とトン。
「わかんないのはゲーシュさんだけか。まぁいいか。」
何か伝わる方法はないかと悩んだが、結局諦めた。
まさに社会の授業を行う宣誓の気持ちはこんな感じなのだろう。
いくら説明してもわからないなら、どうすればいいのかこっちまでわからなくなる。
「すごいな。やっぱ頭がいいんだな」
「お気楽ですね!ゲーシュさんは!」
「それが俺のモットーだしな」皮肉なことに気づかずに親指を立てられて私はイライラとした。この事態の深刻さがわかっていないのだろうか。
「一応理解はした方がいいと思うよ。」とトロさんが言った。
「うーんなんというか、理解はしてる。でもなんというか……」
「なんか違う気がする?」
「それだ。だが気のせいだと思うし、いいか。」
「いや、結構重要かもしれないから、あとででもいいから教えてくれないか?」
少し悩んでゲーシュさんは自信がなさげに答えた。
「まぁ、思い出したらその時に言う。」
見るからに暢気ではあるが、意外と色々と考えているのかもしれない。と無理やり自分の中の考えを捻じ曲げた。
「とりあえず、そんな感じだ。んで、これかだはどうするのか、もう一つの案を考えよう。」
「はい!」
トンが元気に手を挙げた。全員が見て、トンは委縮してしまった。だが後に引けないドンはなんとか口を開いた。
「えっと……そう、人間たちは夜目が効かないから、夜に入って潜入捜査とかどうだ。なんか魔法とかで透明になるか、ばれないようにするかして。」
「透明魔法はあるが、持続時間が圧倒的に足りない。長く続いても10分くらいだ。ばれないようにするのも……人間は予想よりも耳がいい。マンダだって悪口言ったらすぐに怒ってくるし、他の人だって陰口にすぐに気づく。」
「地獄耳というやつか。」
あぁそうだ、と返す。まさに地獄のような耳を持っている。
「ただカイラさんの声がでかいだけじゃないの」と嘲笑するようにドンが言う。
「いや、ほとんど口パクみたいなもんでも反応するんだ。」
「へぇ~不思議。なんでなんだろ……。」
ドンはそれを聞いてすぐに納得してくれた。
「まぁそんな感じで、ほとんど潜伏するのは無理だと思った方がいい。特に夜となると他の物音もしないしな。」
「護衛とかはいないの?」
トンが諦めずに聞いてくる。正直城の中は昼の頃しか見たことがないので、夜のことはあまりわからないので、話しても推測になってしまう。
「……あんまわからん。だがあの城だ。おそらくいる可能性は高い。」
例え暴力的な政治をして民から恨みを買っている貴族でさえ、いまだに死なずに地位を維持できるほどの治安だ。その護衛力は確かなものであろう。
「そうか……うーむ?」とトンは作戦を拒否されて悲しそうにしていた。仕方ない。今回は情けなしで行かせてもらう。実際に失敗したら大変なことになるからだ。
今度はカイロが静かに手を挙げた。
「奇襲作戦が無理なら、やっぱりファランの王様に報告するしかないんじゃないかな。思ったんだ。むしろこの事態を今隠して、その後に大ごとにして解決できないときに王様にバレてしまったら、って考えてたんだ。」
私はその考えを聞いて、背筋が凍り付くような思いをした。他のみんなも同じ思考で、トロに至っては震えている。
「あ、それかもしれない。」
ゲーシュさんがそう指をパッチンと鳴らしながら言った。
「確かにそれもそうだが、戦争にはしたくない。どうしても、だ。」
私は手を握る。心の中では戦争のことを避けきれないと考えていたが、それでも一筋の希望を何とか絞り出そうとしているのだ。
戦争で、マンダを失わないように。
彼女と離れ離れになった今、相手に何をされるのかわからない。人間は悪にまみれているのは知っているし、それが戦争になったら爆発するのも知っているのだ。
そのことは、事前に防ぎたい。
だがそれがうまく口にできなくて、こぶしを握り締めては手に爪の跡を残していた。
カイロが悩みながら言う。
「どちらにせよ戦争になると思うけどなぁ……さっき言ったファランの土地が無くならないように国交をしているなら、失敗したら無理にでも取りそうじゃないか。って思ったんだが。」
「さすがにファランの王もそこまではバカじゃない。ファラン以外の他の国もあるしな。少し遠いが。……例えば近くにロストフレイという小さな町がある。しかし歩いて5日はかかるので断念してる。ファランは一つ山を越えただけだし、歩いて3時間、長くても5か6時間だ。」
「そりゃファラン取りたいわけだ。こんなに便利な町、他にない。」
「そういうこと。そこはわかるんだなゲーシュさん」
「地理は得意だからな!」
ゲーシュさんは胸を張って答えた。お馬鹿なのか頭がいいのかわからない人だ。相変わらず。
「そう。ちょっと話が逸れたな……結局、ファランの王に言うしかないのだろうか」
「俺はそうだと思う」とカイロ
「同意だ。」とゲーシュさん
「考えたけどそれ以外わっかんねぇや」とトン
「言うしかない。人間の情報がもっとあればなぁ」とトロ
「それが一番早いと思う。」と、ドン。彼だけ血気盛んであり、ナイフで空をつついて突き刺す練習をしているようだ。
俺は、その結果に仕方なく従うことにした。
みんなで相談したことであり、これ以上私が何か思いついても、すぐに否定されるだろうと思ったからだ。
一筋の希望は、完全に消え失せた。
「はぁ……」
思わず大きなため息が漏れてしまう。この結果が悲劇となるか、喜劇となるか今の私にはわからないでいた。そのせいで、とにかく不安だった。不安で不安で、心が押しつぶされそうになった。
「んじゃああと一つだけ聞いてくれ。」
続きを言おうとしたが、涙が出てきたのか息が詰まる。なので言葉が途切れ途切れになってしまった。
「マンダは、生かす。それだけは、みんなで守ろう。ここのみんなで。……よろしく頼む!!」
私は……いや俺は、深い礼をして、みんなにそう頼み込んだ。
すぐに、「もちろんだ!」とみんなの声が返ってきた。
その一言により、私はこの人たちをとても信頼できると思った。そして、ここの人達に全力で尽くしたいとも思った。
はっきりと、固い絆で結ばれた俺たちは、笑いあった。
「お前泣きすぎじゃないか?目が潤んでるぞ」
「あぁ、うれし泣きさ。」
「よかったな。みんなで、マンダを取り返そうな!」
「だねー。大変な道のりにはなるけど」
「そうだね」「あぁ」
肩を組み合い、向かい合ってそう誓った。
その瞬間、一筋の希望がまた出てきて、いくつも重なったような感覚がした。
希望は、まだ終わっていないのだろうか。




