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猫の紳士と翻訳家の異種恋愛物語  ~獣人と人間の恋愛の行方や如何に~  作者: トリ寝る
5章

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57 飯

 私はしばらくその部屋でのんびりとした。


 今まで考えていた最悪の展開と比べたら、ここはまるで天国のようにも思えた。暇ではあるが、今までずっと体が固まっていて、それがリラックスできるのがとても気持ちよかったのだ。


 ベランダの外に竜が飛んでいるのを見ていると、ふとドアが開いた。


「おい、一つ頼み事だ。」

「は、はい。何様でございましょうか!」

 

 そうあわてて振りかえると、ヨシノワールさんも驚いたのか若干はねていた。


「これから昼食なんだ。だが俺はこの城の昼食が嫌いだ。だから食ってくれ。」

「えっ……えと、いいのでしょうか」

「大丈夫。俺の指示だし、そん時は「最初の晩餐です。」とかそれっぽいこと言っとくよ。このことは秘密でな?」


 ヨシノワールさんは口に指をあてて、シー、と指示した。

 私は跪き、お礼をした。


「は。ありがたき事でございます」

「おう、じゃこっち来て。」


 言われた通りに私は部屋の外に出ていく。するとまた窓が締め切っていて、カーテンがかろうじて開いているだけであった。さっき注意したのにな、と悲しい気持ちになっていると、外からノックがしてきた。


「奴隷が行く。」


 とだけ言って、私に行って来いと耳打ちをした。


 言われた通りに外に出て対応をすると、食事を持ってきたウェイターさんが鼻をつまみながら言った。


「こちらヨシノワール様のお食事でございます。トルクとチョングスープのパスタです」


 フラッペ?チョングスープ?


 あまりわからない単語が並んでいたが、とにかくその食事が入った台を引き継ぐと、入る直前で止められた。


「あ、あの、鼻栓要ります?」


 やはりこの部屋の匂いの事で、私が鼻栓をしていないのに驚いていたのだろう。


 しかし私の鼻は臭いのには耐性があるのだ。


 窓を閉め切り、日光も入れずにただひたすら1本の蝋燭をともして、窓もたまに開ける程度の密室、という点では全く同じであった。


「いらないですよ。」

「そ、そうなのですか……ではがんばって……あはは」


 その人は笑顔の奥で私の事を少し引いているようにも見えた。実際そんな気持ちになるものわからなくもないが、やはり露骨すぎて少し気になってしまった。


 そういえば、私の部屋にも誰か入ってきたとき、あんな顔をされたような。と思い出す。


 引きこもりの時から、ひきつった愛想笑いに親近感を覚えるくらいになってしまっている。


 なので今回も親近感を感じた。


 中に入り、「持ってきました」というと、ヨシノワールさんは隠し部屋のドアを開けてくれた。


「中を見たらなんで苦手か、わかるよ。」


 部屋に入る前に、そう怪しげに言われて、不信感を抱いた。


 部屋の中に入るとすぐにドアを閉められた。そして私はベッドに座り、その料理を覆っていた蓋を取った。


 だが、言っているほど不味そうな見た目ではなかった。チョングはいわゆる魚で、トルクは魚の卵だ。つまりは魚を砕いてパスタにまぶしただけのものであった。


 なんだ、おいしそうじゃんと思い一口食べてみると、鼻の中に生臭さが突き抜けてきた。それにより一気に襲い掛かってくる吐き気に顔を歪ませ、鼻を摘まみ何とか耐え、やっとの思いで一口飲みこんだ。


 感想としては、魚の内臓を下処理もせず、ただ大雑把にあまりものを混ぜたような料理だ。

 なるほど、これならまずいと奴隷に押し付けてくる訳だ。


 しかし砕いた魚のパスタなどこんなところに出すか?と私は疑問に思った。男爵ならもっとおいしいものを要求できるのではないか、と思ったからだ。こんなあまりものでなく。


 意外と貴族も貧乏なのだろうか。と思ってしまったが、あの持ち物から考えるとそうでもない。

 実際ここにある使われていないベッドも豪華でとてもいいものだし、しかもダンベルなんか庶民には買えない高級品だ。

 後者は需要がないのもあるが。


 それなら……いや、やめとこう。


 そんな考えで気を紛らわせながら、何度も吐き気に襲われながらも、完食した。


 隠し扉をノックし、ヨシノワールさんに食べきったことを報告すると、とんでもなく驚かれた。


「あの生臭いの食べたのか!?すごいな!」


 私は照れながらそれを廊下に持っていく。


「はい、何とか……主様は何か食べなくても大丈夫ですか?」

「あぁ。奴隷に持ってくるパンの方がうまい。それを食う」

「そうなのですね。」


 そこで、「ところでなんでこんな料理が来るのですか?」とでも聞きたかったが、奴隷には関係のないことかと思い、寸前のところでやめた。


 何かあるのか?と聞かれたが私はとにかくはぐらかし、部屋へと戻っていった。


 部屋の匂いはまた前と同じ汗臭く、じめっぽい匂いに変わっていた。


 それは引きこもってた時代の私の部屋を思い出させた。

 あぁ、帰りたいなぁ。


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