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猫の紳士と翻訳家の異種恋愛物語  ~獣人と人間の恋愛の行方や如何に~  作者: トリ寝る
5章

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47  1日目

 ……空を飛んだことはあるだろうか。

 私はある。2つ重なった檻の中でただ体を丸めながら、空を飛んだことがある。

 きっと、こんな経験私だけではなかろうか。

 あぁ、とんでもなく怖い。ここから落ちたら確実に死ぬという恐怖と、そのあまりの進む速さによる恐怖で無になりかけていた。

 いや。実質無であった。とにかくこの時間が早く終われとひたすら願った。


 想像よりは短い時間で、城に着いたが、とにかく長い時間飛んでいるような気がした。

 城に着いたときには朝日がすっかり昇ってしまっていて、少しその日がまぶしい。

裏口から入るようで、私と檻は車輪付きの台に置かれて、布をかけられた。そして横には荷物が置かれている。そのメンツは私とも顔なじみがあったため、私が奴隷になってしまったことに大変不思議そうな顔をしていた。無理もない、国のお偉いさんが帰ってきたら奴隷になっている光景を不思議に思わない人などいないだろう。

 私はそいつらを睨み返して、少しすっきりとした。

 バックを檻に向かって乱雑に投げられ、何とかそれを掴む。中には大事な書類も入っているのになんという扱いか!と文句をいいたくなかったが、言おうとした瞬間に持っている槍で刺されそうだ。

 そして城の中に入っていくと、階段に差し掛かり、私は屈強な男に檻ごと持ち上げられた。手錠をして階段を登らせるのを想像していたので、思っていたよりは楽であった。ただし扱いが乱暴でそこら中ぶつけた以外は。

 赤いカーペットを敷いてあった真っ白な大きいらせん階段を登り、別の塔に移動してまたらせん階段を登る。そうして目的地である主人の部屋の前まで来ると、檻が置かれて、扉がノックされた。

 中からは微かに喘ぎ声が聞こえている。

「ヨシノワール様。新しい奴隷を連れてきました!」

「おう、入れ。奴隷だけ」

 そう中から大きく低い声が聞こえた。唸るようにも聞こえる。

 すぐに私は檻から出された。上が開き、そこから梯子が下りてくる。何が起きるのかわからず怖いが、言われるがまますぐに上がった。

 そして、ドアの前に立たされ、ドアを開けて「入れ」と言われた。

 ドアの向こうからは汗臭い匂いが霧のように出てきた。この中に入るのに少しためらったが、再度入れと脅され入らざるを得なかった。

 中に入ると、そこはだいぶ異様な空間が広がっていた。

 中にはベッドがいくつかあり、服が乱雑に置かれている。床には綺麗に丸く整えられた石や、両端が丸く膨らんでいる棒があった。

「おう、とりあえず座れ。」

 その筋肉質な男、ヨシノワールは、部屋の端っこで、通常より細いベッドに寝転びながら、丸い石を3つほど付けた棒を持ち上げて、汗まみれになりながら、喘ぎ、それを持ち上げていた。

 筋トレ、だろうか。

 私はとっさに、地面に足を巻いて座った。

「そこじゃなくて、椅子あるからそこ座って。」

 指を刺した先にはなんと貴族が座るような豪華な椅子があった。戸惑いながらもそこに座ると、汗でしめっていた。座り心地は最悪だ。

「マンダさん、だよな」

「え、あっはい。」

 筋トレしながらその男は言った。

「あんたにはお世話になってる。奴隷みたいな扱いなどしたくないんだ。ほらあの時も助けてくれたじゃんか。翻訳の力で。」

「い、いつですか……?」

「すまん、忘れた。でもあんたに恩を感じてるんだ。あのままだったら、あなた、動物みたいな扱いするどっかの地方のやつらに買われて、一生エーテルに戻ってこれないとかもあったんだからな。」

「ひ、ひぃ!」

 その事実を聞いて私は背筋が凍るほど恐ろしくなった。もしあの会場にヨシノワールさんがいなければどうなっていたことか。

 だがしかし、そこで私はヨシノワールのイメージが想像と違っていることに気が付いた。想像上のヨシノワールは傍若無人で人の心などあるわけのないやつだと聞いていたのだが、今は良心で私を救ってくれている。

 私はそのことを訪ねようとしたら、先読みされているようにヨシノワールさんが先に話し始めた。

「あ、俺の事いい人って思ってるかもしれんが、悪いイメージが強すぎてそう思ってるだけだ。俺は実際、筋トレにしか興味ない。筋トレをできない危機を救ってくれたから、お礼に救い返しただけ。」

「そ、そうなんですか……助けていただき本当にありがとうございました。」

「えぇ……よいしょ、いいってことよ、王宮の翻訳家さん」

 私は深く礼をして感謝をした。

 すると筋トレ中のヨシノワールさんが、一瞬だけ腕を止めて、親指を突き上げてこちらに向けてきた。そしてすぐに筋トレに戻った。

「ふんっ!」と持ち上げると、少しそこで耐えながら、その棒をゆっくりとおろして地面に置いた。そして私に、「おい!水を取ってきてくれ!」といった。

「はい!」私はすぐに水を取ってこようかと思ったが、どこにあるかわからず迷ってしまった。

「廊下に出てすぐにウェイトレスがいるはずだ」

 そういいながら汗を拭き、筋肉を確かめていた。

私は「はい!」と返事をして部屋の外へと出た。言っていた通りに、さっきはいなかったウェイトレスさんらしき人がいて、タイヤ付きの台に水が入った大きな瓶があった。

「すみません、水をください」

「はい、これどうぞ」

 そうしてその大きな瓶いっぱいの水を部屋の中に持っていくと、ウェイトレスはそのまま外へと行ってしまった。鼻周りを手で払いながら。

 部屋の中へもっていくと、すぐにヨシノワールさんが手を伸ばした。

「持ってきました」

「おう、ありがとう」

 勢いよく飲んでいき、あっという間にその水は無くなってしまった。

「ぷはぁ!やっぱ運動後の水はうまいなぁ!」

 とても気持ちよさそうにヨシノワールさんは言った。汗を拭い、体の筋肉を確認する。今日は腕を鍛えたのか、特に腕を確認していた。

 これはあれか、

「どうだ、俺の筋肉は」

「すごいと思います」

 実際とてもすごかった。その大きな筋肉は引きちぎれて今にも破裂してしまいそうにも見えた。肩は驚くほど丸く整っていて、お腹は6つに割れている。それに腕も通常の3倍は太いであろう。足も太ももとふくらはぎの部分が風船のように膨らんでいた。

 きっとこの匂いもその筋肉を作った努力の集大成なのだろう。

「あぁ……ちょっとこの部屋やっぱ臭いよな」

「えっ……」

 ここで私は答えに迷った。

 いやいや全然!と言ってもおそらくお世辞のように聞こえてしまうし、正直に言ってはもっとダメなことになると思ったからだ。だが何か言わなければ……しかし何も思いつかなかった。

「よし、窓開けるか。」

「あ、私が開けますよ。」

「おっ、気が利くな、ありがとう。」

 私はすぐに窓へと走っていった。カーテンをゆっくりと開けると、日差しが徐々に部屋の中へと広がっていく。そして窓もゆっくりと開ける。すると外に向かって勢いよく風が吹き荒れた。

 数秒ほどで、その部屋はさっきよりはだいぶマシになった。外の香りを久々に感じて、とてもきれいに感じた。

「たまには窓開けるのもいいなぁ」

 哀愁漂わせながらそう言った。

「このまま1時間ほどすれば空気の入れ替えもできるかと思います」

「1時間!?1時間もここを開けてなくちゃいけないのか!?」

 そこで急に声を張り上げられ、私は少し委縮したが、ここは黙り込むところではないと思い、そのままためらいながらも続けた。

「え、えぇ……そうしないと病気になってしまいます」

「びょ、病気か……」

「そうです。熱中症とか、風邪とか、体の防御機能がすり減ってしまうのです」

 これはどこかの本で読んだ知識だ。締め切った空間は病気が通常の3倍は繁殖がしやすく、その分病気にもかかりやすくなってしまう、ということらしい。

 ヨシノワールさんはうるさいとも何も言わずに私の話を聞いてくれた。通常なら話を聞くはずがないのだが、ヨシノワールさんが優しすぎるのだろう。

「気を付けないとな……病気なんかになったら筋肉が弱っちまう。」

 想像とは違って、結局筋肉のことを考えているだけであった。ほんとに頭が脳筋であるのだろう。すべての意識が筋肉に向かっているようだ。

 だがしかし、今まであんなにじめっぽい部屋にいたのに、なぜに病気にならなかったのが心配になるレベルだ。

 色々心配していると、筋肉を磨いている間にふと何かを思い出したかのようにした。

「あ、部屋に案内しなくちゃだな。」

「部屋?」

「そう。奴隷専用の部屋。」

 これはとてもうれしいことが起きた。なんと自分専用の部屋があるのだという。てっきり奴隷は部屋の隅っこで邪魔にならないようにひっそりと眠るしかないのであろうと思っていたが、どうやら違っていたようだ。

 私は返事をして、その後ろについて行った。

 奴隷の部屋は、その部屋の奥にある隠し扉の向こうにあると言って、壁を押すと、いとも簡単に壁が45度回った。2人なら余裕で通れそうなほどの扉を入ると、閉められてまた壁と同一化した。

 するとそこには、驚きの景色が広がっていた。

 木のベッドに赤色の装飾とカーペット、それに金色の時計と大きな窓まであり、まさに豪華な寝室のような部屋であった。

「ちょっと物は乱雑だけどね、他の奴隷より居心地がいいと思うよ」

「こんな豪華な部屋、ありがとうございます!大切に使わせていただきます。」

「あぁ、今日1日は疲れただろう。俺は筋トレしてるから、もう寝てもいいよ。どうせやることないしね。」

「は、ははっ!」

 思わず兵士のようにして返事をしてしまった。その姿に何を思ったのか、思わずヨシノワールさんは吹き出した。

「あはは!そんなにかしこまらなくても!」

 だが私はその体制を崩さなかった。なぜなら私はヨシノワールさんに奴隷とは思えないほど待遇をよくしてもらっているからである。

 この部屋もそうだし、向こうでの出迎えの対応とか過去のことを覚えていてくださったのはこの人が初めてだからでもある。

「んじゃあ……面を上げよ。」

 今度はそうかしこまった声で恥ずかしがりながら宣言した。私はそれでやっと顔を上げることができた。

 ヨシノワールさんの屈強な体つきが目に入る。やはり目を惹かれる筋肉をしていて、明るいところで見るとまたさっきと違ったような感じ方をする。

「ではゆっくり休みたまえ。」

 私はそう言われ、一安心した。ヨシノワールさんにそう言ってくださってとてもうれしかったからである。

 隠し扉を開き、部屋を出ていく。すぐにその扉を閉じて、その空間は静かになった。

 窓の外からは鳥のさえずりが聞こえる。

 それにしても、まさかこんな場所がお城の中にあったなんて、と私は驚愕していた。ひとたび外を見れば、町の景色が一望でき、さらにその外の森や鳥たち、空で狩りをしているドラゴンまで見え、まるでお姫様気分になったかのようであった。

 貴族はこんな景色を毎日見ているのか、と私はうらやましく思った。

 その時、扉が少し開かれて、「忘れ物」とヨシノワールさんがバックを置いた。私はすぐにそれを受けとりお礼をすると、すぐにドアが閉まる。

 中身を念のためチェックしておくと、ファランの王様との大事な書類に、杖、帽子、いざというときの布、薄い布、包帯、そしてちょっと忍ばせてあった小物に、買った宝石まで全部残っていた。

 あ、そういえば。今日宝石が家に届くはずであった。私たちはまだ家に帰っていないのでおそらく受け取り不可になるであろう。そうしたらもったいないことに商品はもらえなくなってしまう。

 さらわれてしまって仕方のないことではあったが、どんぐりとの交換という破格の値段で買ったのでもったいないな、と思った。


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