49 決行!1 猫
私たちは森を進んでやっとの思いで馬車を見つけた。
そこまでの道のりはとても長いものであった。
ファランからすぐのところは道の外も通りやすかったのだが、途中から高低差があったり草木が増えてきたりなどの様々な障害物があった。
その中でも、草木が一番の厄介者で、足を取られることが頻発したのだ。
特に厄介なのがツルだ。いくつも輪っかが作られて、大抵そこにピンポイントで引っかかることが多い。しかも焦れば焦るほどそれが絡まっていくのがもう嫌になるほどであった。
真ん中の通りを行ってもよかったのだが、砂利道が多くて足音がしやすく、敵の位置がどこにあるかも不明なためにわき道を通って行った。
そんな地帯を乗り越えて、やっと馬車の頭が見えてきた。まだ全体は見えないが、護衛も近くにいるような気配を感じる。
「いたぞ!」と小さな声で耳栓から聞こえたときは今すぐに叫びたいと思ったが、ここで叫んだら一巻の終わりだ。私たちはいったん止まり、森の中で馬車を遠くからしっかりと見つめる。
すると、一番に木に登って上から見ていた私に、矢が飛んできた。それは私の左目を狙って飛んできて、ギリギリで避けたがこめかみの少し下辺りに浅い傷ができてしまった。
どうやら既にバレているようだ。やはり相手も只者ではないのだ。
「戦闘体制だ。もうバレてる。」
すぐにそれを報告すると、続々と驚きの声が来た。
そして誰かが打ち上げた音の鳴る矢がその後すぐに宙に舞う。相手がこちらに気づいた合図であろう。
戦争の開始であった。
また矢が飛んでくる。今度は左足を狙ってきた。何とか足をあげて躱したが、そこでバランスを崩して木から落っこちてしまった。
落下し、着地をしようとした所に、急に透明な板が出てきた。そしてその下を矢がかすめた。恐ろしくて鳥肌が全身を包む。
目の前を見ると、さっきまでいなかったトロがいた。
「トロ!」
「危ない所だった」
どうやらそれはトロのものであったようだ。その場ですぐに感謝をしたいところだが、また次々と矢が飛んでくることを見越して、すぐに別れた。
避けるときに目を瞑ると、トロは消えていた。これが魔法か、と感心をしながら私は馬車に向かって走っていく。
4つ足を使って段差も軽々と超えていく。
途中矢が飛んでくることもあったが、それも集中して避けるを繰り返し、慣れることができればなんていうことはなかった。
馬車の近くで数回爆発音がし、煙が上がった。それと人間の苦しそうな声もする。
誰かが馬車の近くを攻撃してくれたのだろう。それも複数も。
きっとトロだろう。
とんでもない力だな。と私は思った。
矢がしばらく止まると、今度は後ろから気配を感じ取った。
振り向くと案の定鎧を着た屈強な男がいた。男は目だけ見えるが感情が全く見えず、真顔でこちらに剣を振ってくる。
縦に横にと流れるような剣さばきで首や関節などを狙われた。その間男は常に真顔で、冷静沈着さがうかがえた。
少し流れが大きかったのか、一瞬だけ突きの体制に入った。そこを私は見逃さず、しゃがんで鎧にこぶしを振るった。
だが鎧を凹ませるくらいにしかならず、肝心な体にはダメージは入らなかった。
やはり装備の差が大きすぎるのだろう。こちらのこぶしは赤くなってひりひりと痛んだ。
ところがその剣士はその一発で一瞬の間だけ怯み、また剣を振ってきた。
私から見て右から左に軌道が通り過ぎていく。それと同時に私は足に力を入れ、男の右後ろについた。
「うおっ!!」と男が声を出す。
そこだ、と思い背中に覆いかぶさると、一番外れやすいであろう頭の器具を取ろうと鷲掴みにして持ち上げた。だが残念なことに鎧にくっついているらしく、男のあごと脇に引っかかってしまった。
そのあとすぐにその場から離れ、少し距離を取る。
背中に覆いかぶさっているとき、確かに近くに気配を感じたのである。どうやら最初の男は私があごを一気に上げたせいで舌を強く噛んでしまったようで、麻痺している。
それを見ていると、「てやぁっ!」とまた後ろから声がした。振り向くと今度は、先ほどとは違う男がいた。今度の男は持っている剣先が細くて長く、縦に切り込んできたところをギリギリ避けることができなかったために肩から胸上部にかけて浅い傷ができてしまった。
「へへ」とそいつは笑っている。
剣以外は先ほどの男と同じようだ。特段早い剣さばきに、豪華な鎧。
「おらぁ!」と威勢のいい怒鳴り声を発しながら、私に向かって剣さばきを見せつけてくる。
かなり速度は遅かったが、その剣には重さがあった。まるで空気を切り裂きそうである。
速さはこちらの方が上のようである。しかしあまり差がないようで、避けていながらも時々服が切れることさえあった。
剣が細いため細かく動かしやすいのだろうか。
私は一旦距離を取り、木の後ろに避難した。それに気づいた男はすぐさま駆け寄ってくるが、そこには私はいない。慌ててどこに行ったか辺りを見渡し、上を見たときにはもう遅かった。
私は木の上からその鎧の頭に向かって、落下速度も追加しつつ、両手を組み後頭部を強く地面にたたきつけるように、殴った。
カァン!と森の中に異様な金属音が鳴り響く。その後に男は鎧の隙間から血を流して倒れた。
脳しんとうを起こすだけにしておこうかと思ったが、鉄も激しくへこんでいるし、少し強すぎただろうか。死んでしまったのかもしれない。
まぁいい。私の目的は彼女の奪還だ。
馬車の様子を見に近くの木に隠れながら行くと、馬車を守る弓矢を持っている人がその馬車の上にいた。あの人が最初に弓を打ってきた犯人だろう。
念のため後ろを見ると、最初の男がさっきまでうつ伏せで顔を抑えて悶えていたのが、今は頭の装備を外して横向きに倒れていて、口からは血を流していた。舌を切って窒息でもしているのだろう。
「コ、コ、ココ」という苦しそうな声が聞こえるため、まだ生きている。
殺しはしたくないので少しの間そのままでいてもらおう。
すでに一人やっているのだが。
馬車の方に駆け寄っていくと、少し高い崖になっていて、その下にまた一人同じ格好をしたような兵士がカイロさんと戦っていた。
ゲーシュさんは陰で見ているだけである。
だが時々耳栓をつかって誘導している声が聞こえた。きっと戦闘では役に立たないと思っていて、遠くから見ていることに専念しているのだろう。
私はちょうど戦っていたのでその指示にはなかなか気づかずにスルーしてしまっていた。
するとこちらを見たゲーシュさんが耳栓に向かって指示を出してきた。
「カイラ!弓!」
そう聞こえたとたんに矢が半壊した馬車の影から飛んできた。
私はそれを横に避けて間一髪でかわした。頬毛が削られてしまったようだ。
飛んで行った矢が木にぶつかった瞬間、その木に大穴が開いた。
弓を打つ兵士の前に檻があり、そこの中に彼女がいる。
作戦は今のところ、順調だ。




