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猫の紳士と翻訳家の異種恋愛物語  ~獣人と人間の恋愛の行方や如何に~  作者: トリ寝る
4章

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48 作戦開始 / 護衛の会話 猫


 馬車は森の中を進んでいた。狙い通りである。


 あの後、一旦村の入り口の横に集合した。トンとトロは、耳栓があることを確認して、また付けた。

俺も一緒につけなおしたが、改めてつけると耳の中が閉まって少し痛んだ。


「これさっきより大きくないか?」

「そんなことないよ、奥に詰めすぎなだけでしょ」


 言われた通りに耳栓を少しだけ手前に引くと、その痛みは治まった。ほんとにただ奥に詰められすぎていただけのようだ。こりゃ恥ずかしい。


「……よし、行くか。」


 と私はごまかすように言う。


「ああ、早ければ早いほど間に合うしな!」


 ゲーシュさんがその言葉にこぶしを振り上げて賛同してくれた。何とかごまかせたようだ。


「エーテル初めて行くからちょっと怖いけど、がんばるわ」


 とトン。緊張して体をもじもじとさせていた。これからとんでもない強敵と戦うことになるのだから、緊張をする気持ちもわからなくもない。


「報酬お待ちしてるぜ」


 そう笑ったのはトロだ。

 親指と人差し指で丸を作り、明らか金を要求している。


 こんな大変な仕事をするのだからしっかりと対価を払えよ、という意思表示だろうか。


 それを私は「わかったよ」と軽々承諾してしまった。結局ゲーシュさんの財布から出るというのに。だがゲーシュさんは何も言わなかったので、大丈夫だろう。


 それぞれがそれぞれのことを言いきると同時に、その救出作戦は開始した。


「じゃあ、マンダ救出作戦開始」


 おー!という掛け声もなく、ただすぐに一斉に走り出し、森の中を駆け巡っていく。


 その音と光景は、まるで風を切る魔法のようで、村の入り口で警備をしている獣人が見えなくなるまで見とれていたという。



「……。」


 そこは気まずい空気で包まれていた。


 お互い馬車が揺れる音を聞き、壁の木目に目を凝らしてなぞっている。


 この馬車は内側は黒い塗料が塗られた薄目の板と、衝撃を吸収する裏起毛が使われていて、その広さは人が3人寝そべる、また4人が十分な広さを持って座ることができるほどの大きさであった。


 大きさは変わらないのだが、道の荒れ具合に沿って揺れ、特に地面が石の道であると細かい揺れが常に襲い掛かって酔いを誘ってくるひどい馬車であった。


 見た目だけは豪華で、おそらく金を躊躇なく飾りに使っているとんでもない代物である。おそらく私たちが向かう先は王宮とかそういう豪華なところなのだろう。


 そしてその中で私は、立つこともできないような、鉄格子の檻に入れられていた。足も全く伸ばせず、長い時間いると健康な腰でも痛めてしまいそうな、硬い檻であった。


 私はそこで何もせず静かに足を抱えて壁を向いて、さっきも言ったように壁の木目を視線でなぞっている。


 他の奴隷と話しても多分外には聞こえないのだが、私は何か一言喋ったら叩かれそうな気がしてたまらないので、話しかけようにも話しかけられない。なので私は黙っている。


 一方、私の後ろに乗っている豚獣人は、暗い顔をしていて目もどこか虚ろである。私と同じように壁の木目を見て暇つぶしをしているのだろう。


 そして時々独り言を言う。「兄弟に迷惑かけたなぁ」とか「どうやってここから抜け出そう」とか。私もそう考えたが、結局今は待って流れに身をゆだねるしかないと思った。


 だって護衛が怖いんだもん!!!と心の中で誰かに訴えかけるかの如く叫ぶ。


 明らか金で作られている、高級そうな、仰々しいくらいに威圧感を放ちながら光り輝く鎧を着ているし、筋肉質で体も大きい。腰には軽く体を貫くであろう鋭く長い剣が鞘の中に仕舞われている。そんな者が5人もいるのだ。さすがに恐怖が勝るものだ。その威圧感がすごすぎて私の体が圧縮するかとも思ってしまった。


 早く彼が助けに来てくれないかな、と願いながら壁のシミをなぞり終わり、また最初からやる。これで3週目くらいだろうか。


 と、そこで鎧を着ている一人が話をし始めた。


「今回の奴隷は静かっすね」


 エーテル語を話していて、エーテルの人達だとすぐにわかった。


 その瞬間、しばらくエーテルの言葉を聞いていなかったからか、懐かしい気分になって、目線が止まった。


 ちょうどいい。このまま何か情報がないかを探そうではないか。


「そうだな。っていうかなんでこんなところに国交さんがいるんだかね」

「商談ミスったんじゃないすかw」と半笑いで言った。

「いや、商談自体は成功らしい。失敗だったらそもそもエーテルが終わるだろ。ファランが突っ込んできて。」

「終わるって言うてもらても、なんで終わるんですかね」


 そこで数秒沈黙が続いた。


「……そりゃあ、ファランの王様が怒ったらエーテルにいる獣人になんかするだろ。」

「なんかって……魔法とやらでですか?」

「あぁ、察しがいいな。宝石か何か持っていて、そこからなんか謎の力が飛んでくる、とかしてなんか指示出すんじゃないか?」

「……さてはなんも知らないっすか?」

「そうだ。それっぽい予測を立ててお前は騙されるかなと思ったんだ。」

「なんすかそれ、つまんないっすよ」

「抜き打ち検定みたいなものだと思え。」と男は咳払いをする。明らかごまかしの咳払いだろう。

「ちなみに……?」

「合格だ。」

「よっしゃ」


 地面を蹴るような音が聞こえる。その後少しの間だけ静かになり、また話し始めた。会話の節々に鉄がぶつかるような音が鳴る。鎧が擦れる音だろうか。


「んで話逸れましたけど、なんで、いるんですかね。国交さん」


 私の話のようだ。国交さんと呼ぶということはたぶん結構上の立場だろうか。


「なんか……いるな。誘拐でもされたんじゃないか?あんな猫紳士の夫に見捨てられたとかで。それかはぐれて誘拐されたとか?」


 少し言葉に詰まったようだ。ごまかすようにハハハと笑った。


「それっぽいですね」

「ああ、だろぉ?ぽいだろ?」

「そこは天狗になるところじゃないっす。」

「げ」


 天狗か。神話本で見た、鼻が長くて羽の生えている赤い天使だろうか。


 よく得意技を自慢をする生物で、それをたとえとして言っているのだろう。


「まぁ、当たってたら猫紳士が無能だったってことだな」

「それもそうっすね。妻忘れて一人でどっか行くなんて。」


 事実は私の方が先にどっかへ行ってしまっていたのだが、他者から見ればそれも彼の無能さになってしまうのだろう。


 イラっとしてしまったが、何とか頭の毛を引っ張って抑える。


「それにしても、静かっすね森の中は」

「おい、油断はするなよ。無能だとはいえ、相手は獣人だ。それにあの町は誰でも冒険者を雇える冒険者ギルドとかいうものもあるらしいから、たぶんそこで味方も作ってることだろう。」

「先輩の感、ですか?」

「ああ、状況的に考えて一人で突っ込んでくるということはまずないだろう。それでも十分つよいけどな猫紳士は。」

「先輩が襲われそうになったら俺が助けますっす!」

「頼もしいな。」


 そこで二人が笑いあって会話は終わり、またガタガタな道が続いていく。少し坂になったのか檻が少しずつ床を滑って隣の檻と軽くぶつかった。


 そこで気になったのか兵士が覗いてきたが、何も異常がないことを確認してまたドアを閉じた。その一瞬だけでも外の明かりに照らされて、輝く鎧が見えた。恐ろしくなって鳥肌が立ち、身震いがする。


 それからまたしばらく静かな時間が続いた。


 早く助けに来てくれないかな。


「というか、なんか奴隷を運搬してるころになんかいませんでした?」

「あぁ、一応追い払ったが、心配なところだ。小柄な犬獣人で、そこでその豚と一緒にいた。」

「だから杖持った豚抱えて戻ってきたんですね」

「そうだ。おそらく魔法使いだが、物理には弱いようでビビって小便漏らしてた」

「おもろいっすね」


 まさかの後ろの豚獣人にそんなことがあったなんて。なんてかわいそうなのだろう。

エーテルの言葉なんて獣人には到底わからないであろうし、これから大変だろうな。と後ろにいた豚獣人を見た。


 すると、ばれないように静かに泣いていた。


 それにつられて私も泣きそうになった。


 ……いや、泣いた。


 今まで何とか耐えていた涙腺が一気に崩壊したのだろう。


 私も静かに泣いた。鼻もすすりもせず、ただ涙をこらえていた。


 ああ、早く助けに来てくれないかな。と何度も心の中で繰り返した。


 その間いろいろな気持ちが心の中に渦を巻き、私の神経を掻きまわしていく。

 若干の混乱状態にまで陥っているのであったが。


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