38 決行前夜 猫
例えるなら夕暮れ時に少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走ったような気持ちで、買い物をしている人をかい潜り、すぐに宿内の自室に戻り荷物をまとめた。息も絶え絶えになってほぼ過呼吸な状態になりながら準備をしていたため、酸欠でぶっ倒れそうにもなりながらも、急いでバックの中に突っ込んでいた。またマンダの荷物も一部だがあったため、それもバッグに詰めこもうとしたが、あまりにも適当に詰め込んだため、耐えられずに少しパニックになってヤケクソに突っ込んだところで、やっとゲーシュさんが追い付いてきた。
慌てて手を伸ばしてきて、私を制止した。
「ちょっと待て!それじゃあバッグが壊れるぞ!」
「あ」
私はやっとそこで意識が安定してきて、自分が異常な行動をしていることに気が付いた。
息を深く吸って吐き、何とか体を整える。しゃがんで、胸が膨らむのを感じる。
ゲーシュさんにそれを援助するように背中をさすってもらった。
そのおかげで早く落ち着くことができた。
「ありがとう……」
「いいってことよ。こういう場合は落ち着いた方がもっと早く動けるってもんだ。」
私はその瞬間涙がじわじわと出てくるのを感じた。
落ち着いている暇などあるものかと思ってしまったのだ。
「でも彼女が心配でしょうがないんだ!わかってくれよぉ」
半分泣きながらゲーシュさんの胸ぐらを掴んで訴えかけた。その手をとっさに抑えながら。
「ちょちょ、それはわーったから!」
と言われてしまった。こみあげてくる感情を抑え、私は力なく腕を地面にぶつけた。
「くそっ」
そう地面に暴言をぶつけるしかなかった。
その間にゲーシュさんが、無言で荷物を整理してくれているような音が聞こえた。
「ほれ、できた。」
するとものの数十秒でバッグの中にものがすべて入ってしまった。
私はそれに呆気に取られてしまった。持ってきた大きなバッグに二人分の荷物が、さっきまで入らなかったのに、なんとすべてはいってしまったのだ。
私があれだけ詰め込んでも入らなかった杖までも。
思い返せば来た時も、あまりバックの中には荷物が入っていなかったような気がする。今そのことを思い出して、なぜ思い出さなかったのか不思議に思った。
「ちょっとは落ち着いたか?瞳孔が開き待ってるけど」
「ああ、たぶん。すまない、取り乱してしまった」
「ほ、ならよかった。」
私は立ち上がって謝った。ゲーシュさんはそれを見ては、鼻を鳴らした。
「むしろこの短時間でよくそんなに落ち着きを取り戻せるのかこ、っちが聞きたいくらいだぜ、なんてな」
へへへ、と励ますような笑い方をしていた。相変わらず下手なジョークだ。
だがそのおかげで、気持ちが少しだけ励まされたような気がする。
「こういうのは得意なんだ。「自律」って人間の言葉だと言うらしい。自分を律する、って書いてね」
調子にのってこちらも冗談で返そうとしたが、なんだか解説のようになってしまった。あまりうまくいかず、「下手だな~」とゲーシュさんに言われ、乾いた笑いをしてしまった。
ゲーシュさんはリュックを軽くたたくと、私のもとに手を伸ばした。
「まぁいいや、早く荷物背負っていこうぜ、間に合わなくなっちまう。」
その手は手招きをし、私はそれについていった。
そして、その時の姿を、子供の頃の事と重ねた。
公園で遊んで転んで泣いてしまったとき、こんなふうに手を差し伸べてくれたっけ。と一瞬思い出した。
あの時と同じ、優しい二本指の手と、声であった。やはりゲーシュさんは子供の頃と変わらないな。変わったのはその顔のしわの数だけだ。
静かに私は頷いた。
一旦この作品の連載はお休みします
別の作品もありますし、何より修正がなかなか間に合わない……
続きは2週間後とかです! たぶん8月になってしまうかも
その代わりカクヨムにて連載しているホラー小説を書いていきます
よろしくお願いします




