43 聞き込み調査 猫 / 救いの人間
2人の視点が入っています
とりあえず私たちは他の冒険者の人とは別に、獣人に聞き込みをした。
主に現場近くにいた虎の獣人に聞いた。虎に声をかけたほうが、より効率的であるかとおもったのだ。
今更だがこの町には虎の獣人がとても多く、他の動物は少ないような印象を持った。
店に売っているものも茶色のものが多く、虎の毛をモチーフにしたものが多くあった。
中には毛玉回収装置があって、そこに櫛で溶かしてまとめた毛を入れることもあるらしい。
実際それを見かけたときに、毛皮を入れている獣人も見かけた。まずはそいつらに話を聞いてみることにしよう。
と思ったのだが、はっきり見たというのを知っている虎はいなかった
噂程度にはその事件のことを聞いていることを教えてもらったが、特にはっきりとした証拠になるものはなかった。
そのくらいの情報を手に入れられたならまだいい方で、人間の話になった瞬間に聞いてもらえないことの方が多く、中には「うげ、そんな話なんざ聞きたくないね。」と耳をふさぐものまで現れた。
危険を察知したら閉じこもる亀のようだ。と心の中で皮肉にもならない愚痴を言う。
と思う俺も、心のなかでは「んだよもう……」と愚痴を言っているのであった。
そしてある程度の「収穫」をして、ゲーシュさんと合流した。
わかりやすくしょんぼりしている。
「だめだったか。」
「うん、噂しか知らなかった。」
「こっちもだめだった。同じく噂しか知らない。あと人間嫌いなやつが多くて、そもそも人間って言葉出したらぶっ叩かれたぜ……怖かったぁ」
ゲーシュさんがそう言いながらうっすらと赤くなっている頬をこすった。赤くはなかったが、よく見ると荒れているのが見えて気の毒に思った。
私は無視されただけなのでたぶん運がいいのだろう。
「怖いな。でも彼女を探さなくちゃ、エーテルがもしかしたら崩壊する。」
「そ、そんな事態まで行くのか、早くしなきゃだな」
「あぁ、んでこっちが聞き出せた情報は……」
私たちは道を歩きながらその噂について話し合った。
噂はさまざまである。
「神隠しのようにパッと消えてしまった」
「自分から裏路地に入って攫われた」
「盗んだあいつが悪い」などが最も道理が通っていると思われる。
中には「鷲に連れ去られてしまった」などありえない噂もあった。
しっかりとした噂もあるが、ほとんどはネタにされているのだろう。
人間は弱い生き物だという偏見がまだ獣人のなかでは拭えていなかったのだ。
両方の噂を話し終えることには、人間がどれだけこの町に知られていなくて、どれだけ偏見がひどいのかを理解するだけで、何の収穫にもならないのだった。
せめてあの黒猫の少年たちが見つかればいいのだが。
何かいいヒントを持っていそうだから。
だがもう、すでにあのレストランにはいないだろう。
何時間も経ってしまっている。普通ならそれだけの時間店にいたら追い出されるくらいに。
「大丈夫かな、マンダは。」
心配になってうつむいて地面にそう吐き捨てた。
するとその背中をゲーシュさんが優しくさすってくれた。
「大丈夫だ。あの人たちは優秀だぞ!過去に何人も捜索依頼をこなしてきた。いわゆる上級者だよ。そんな人たちに依頼ができたんだ。ゴブリンに金棒みたいな気持ちになってもいいんじゃないか?」
と、やさしく言ってくれた。私は頷き、改めて正面を向いた。
その時、耳栓から声がした。声からするに、カイロだ。
『トンとカイロが合流。カイロは手掛かりが見つからずに苦戦中。しかし裏路地に行って怪我をしているが、命に別状はない。こちらからは以上。操作を続ける。……伝え忘れたけど耳栓を押したらみんなに声が届くようにしてあります。』
「わかりました。」と私は言われた通りに耳栓を軽く押しながら答えると、他の人も同じように様々返答をした。
また次に誰かの声が聞こえてくる。これは、ドンだろうか。
『こちらは、事件現場近くの宝石屋が見える通りにいます。』
「あ、その店の人が彼女を連れ去った獣人だから気を付けて。」
『はい、わかりました。』
その後小さな声で「今から聞き込みをしようとしたんだけどな……あっぶねぇ」とかすかに聞こえてきたので、思わず冷や汗をぬぐってしまった。危ないところだったようだ。
『とりあえず、現場付近を歩いて調べます。』
「よろしくお願いします」
そういって会話は終わった。
皆順調ではあるようだ。それだけわかって私は少し安心することができた。
「言ったろ?優秀だって。」
「あぁ、確かにとても優秀だ。俺らも早く探さないとな」
「そうだな。」
こちらとしても早く探さないと。とその人たちの働きっぷりに感化された。
そうしてまた聞き込みを続けていくのであった。
*
薄暗い檻にもだんだんと慣れてきたころ、腕立て伏せをしている私に見張りが何かに気づいてドアをあけた。
「なにを筋トレなんかしているんだ。出てこい。」
とただ一言だけ私に吐き捨て、私は訛っている足を奮い立たせてその後ろをゆっくりついて行った。何が起こるのかドキドキして心臓が鳴りやまなかった。
決して運動後になるような鼓動ではなかった。緊張をしているのだ。
やがて連れてこられたのは、大きな球場の空間であった。
天井を見上げると、どうやって書いたのか見当もつかないくらいに大きな絵が、ほとんど隙間なく描いてあった。その絵を見上げて私は後ろに倒れてしまって、刃のない木の槍で腕や尻をつつかれてしまった。
「動け。どこを見ている。」
「ぐあーっはっはっはっは!」
その様子を見て目の前にいた誰かが笑った。とても男らしい豪快な笑い声をしていて、それに驚いて飛び上がってしまった。
目の前にいたのは、巨大な筋肉を持った牛の獣人で、鼻に輪っかをつけていて、今にも見えそうなふんどしと腰鎧を付けている闘牛獣人であった。
あまりにもその肉体と大きさにまた見上げて首が痛くなってしまう。それにしても首が動物のように太く、肩もメロンのようだ。
「こいつか。新しいやつは。」
そういって、私の事をよく見る。
舐めるような視線で私のことをじっと見まわし、気味が悪かった。
ここで脱がせられるのかな、となるべく平常心を保とうとしたが、さすがにこの威圧感の前だと息が若干乱れ、鼓動が早くなる。
その後、予想通りに「服を脱げ」と言われたので、怖がりながらも言われるがままに脱ぐしかなかった。もちろん更衣所もないため、プライバシーとかないのか!と思ったが、私は今や捕まった奴隷だし、しかも誘拐されている身だからプライバシーとかどうでもいいのか。とある程度悟った。
かなり謎な理屈であるが、無理やり納得した。そうしないと羞恥心に勝てなかったからだ。
そして肌色と同じ色の下着を半ば無理やり着せられ、金魚鉢のような入れ物の中に入れられた。
その金魚鉢は透明な宝石が溶かされたガラスであり、中はひんやりとしていて、キラキラと所々輝いていた。結構寒いため、ずっといると風邪をひきそうであった。
「よいしょっ」
そしてそのまま押されて運ばれた。ゆっくりとどこかに連れていかれ、急に視界中が明転して、まぶしくて目を瞑ってしまった。
その時に歓声が聞こえてきた。前はみえないが、そこにはかなりの人数がいることがわかった。
目を開くとそこは、ステージの上であった。
かなり大きな会場のようで、席には1席くらいの隙間を明けながらいろんな人、種族が座っていた。獣人も人も、おそらくそれ以外も、その場にいた。全方位に観客がいて、私の事を四方八方から見ていた。ステージ下を見ると、広い空間に丸い大机がいくつも置いてある。貴族の宴のようであった。
コツコツとステージ横におそらく運営者らしき人が赤いユニークな服装をしながら、杖をついて講演台らしき小さなサイズの机の前に立った。そこにマイクがあったらしく、取って乱雑に頭を叩いては、テストをした。
歓声はその人の大きな声により修められた。
「さぁ!こちら世にも珍しい人間の女性です!しかも前職は人間の国でかなり偉い立場の人物だった!らしかったのですが、あいにく捕まってしまったようです。おすすめのプレイ方法は洗脳!こちら1500モアから!」
そう言ったすぐ後から、目元だけを隠している仮面をつけた人たちが、値を言っていった。
お金の単位は人間の国と同じようだ。
そこには、獣人も人間も入り混じっては、ほとんど意味のない仮面をつけて、交流会をしていた。顔をすべて覆うようなものや、目の一部だけを覆うだけのものなど、仮面の種類は様々だ。
これも親から言われたことのあるものだった。
闇市では仮面舞踏会をやっているのだと。
その瞬間、こんな状況であるのにも関わらず、まるでおとぎ話の中に入ったように心が弾んでいた。しかし同時に、私はこれからどうなるのだろう。と虐待や強制労働、洗脳など恐ろしいことを考えて心臓の鼓動と情緒が不安定になっていった。
1500モアという値段でまずは売られた私は、常に観客の舐め回すような視線に曝され、とにかく鳥肌が止まらなかった。それにこの金魚鉢は慣れてくると思っていた寒さがむしろどんどん増してくる。
さらにほとんど裸なため、ただ何もできずに辱めを受けていた。
「1600モア!」「1650モア!」「1700モアだ!」「なら1750モア!」「2000モア!」
じわじわと私に対する金が増えていく。確かモアは1万なため、この人たちは1千万以上の金をかけていることになる。
なんとも恐ろしい光景であろう。
早く彼に助けに来てほしい。そう思ったら涙が出てきた。
だがその涙も珍しいのか、一粒垂れると「おぉー」と観客の驚きの声が上がった。
涙を拭きとると、もしここに彼が入ってきたら、などを想像していた。それを考えていくたび、ここに彼がいなかったのも幸せなのだろうと思えてきた。
ここに彼がいたらば、きっとこの見た目に、まさに目を奪われた状態になってしまうか、もしくは暴れ散らかして殺しをして犯罪者になってしまうであろう様子が容易に浮かんできた。
「さぁさぁ2300モアまで来ましたが?2300!2300!これ以上は出るか?」
司会がはやし立てるようにそう持っている短い棒に叫ぶ。耳をつんざくような高音に会場にいた一部の獣人が耳をふさいだ。だがそんなこともお構いなしに司会者は叫び続ける。
私の耳もおかしくなりそうであった。耳をふさいでも手をすり抜けてくるような感覚だ。
と、その時。
「4000モア。」
客席の男が言った。人間だ。




