42 冒険者たち
一方村内では、大変なことになっていた。
シャスがいないのだ。どこにも。
最初はゲーシュ、カイラの二人で宿泊していたホテルを探すが、部屋にもおらず、トイレにもおらず、正面にもおらず、商店街にもいなかった。
そのあと数時間にわたる捜索をしたがなかなか行きつかず、ついには超高級な値段で、ホテルの正面に会った掲示板に依頼を出すと、たまたま冒険者が近くのホテルに泊まりに来ており、依頼を見てはすぐにやりたいという人たちが出てきた。
この掲示板はこの村特有のもので、依頼を出せば村の人の誰かがその依頼を引き受けてくれるというのだ。
今回の依頼は「人探し」、依頼料金は8モア(8万円)だ。通常1依頼5,6モアなのだが、緊急依頼ということでお金を高くした。差額はゲーシュさんの財布から出るのと、保証金としてその掲示板があった前の店が出してくれたという。ありがたいことである。
だが私は今回、あまりお金を持っていないので見つからなかったら……どうしようか。ある程度依頼がこなされないと、より高いレベルの冒険者を雇うためにもっとお金が必要になってくる。さすがにゲーシュさんにすべて出してもらうわけにもいかない。
縋るような思いで所持金を確認すると、帰りの費用と、財布の角に埋まっていて気づかなかった硬貨があった。なんという奇跡だろう。
依頼金には足りそうなくらいだ。本当に運がよかったと言うしかない。
おもわず泣き出しそうになったが、ここでまだ泣くわけにはいかない。涙をこらえては依頼承諾を静かに待った。
そして祈りが届いたのか、なんとすぐに冒険者が来た、というわけだ。
探し人が専門の犬獣人とゲーシュさんが呼んでくれた豚族の人達が来てくれた。
名前を、犬獣人が「カイロ」豚族は剣と盾を持った、腕の筋肉が目立つ「トン」と、常に何らか魔術の本を読んでいる、深くローブをかぶった「トロ」に、ゲーシュと同じように上半身だけボロボロの服を着た傲慢の「ドン」だ。この人たちは3人兄弟のようで、ドンが一番上でトンが一番下らしい。なぜか私は逆かと無意識で思ってしまった。
「カイロです、人探しは得意なので頑張りたい!」
「トンだ、力こそすべてが俺の合言葉だぜ。」
「トロです、回復魔法が得意で、怪我も痛みなく直すことができます」
「ドンです。……俺も魔法ができる。」
4人全員にそれぞれ自己紹介を軽くしてもらい、時間がないので早速だが依頼をこなしてきてもらうことにした。
説明が終わり、さぁ出かけようと思ったところに、トンがちょっと待ってくれと言った。
振り返り立ち止まると、彼は本を頼りにして、魔法で耳栓のようなものを出した。耳に入れてと言われたので毛だらけの中落ちないように突っ込むと、その耳栓から声が頭に直接発されているように感じた。
「こりゃすごいな。」おもわず感嘆してしまう。
「すごいでしょ?これは《遠隔通話魔法》をその耳栓に付与しただけだよ。」
照れながらもそうすらすらと解説をし始めた。すると
「おお!声が鮮明に聞こえるぞ!」
興奮してトロが声を張り上げた。その声は脳に響くくらいに大きく、鼓膜が破れそうなほどふるえた。
「うう、ちょっと大きな声出さないで、耳が痛い……」
「僕も……」「うっ!」
ドンとカイロが耳栓を外して頭を押さえてしまった。それを見て反省したのか、「すまん」と一言謝ってトロがしょぼんと眉を下げてしまった。
それを見てトンは大笑いしてしまった。
「あはは!まぁそういうこともある。二人分は少し小さくしておくよ。」
「おっできるのか?すごいな。」
何か呪文を唱えると、ドンとカイロの二人分の耳栓が少し光って色が薄くなった。色の濃さによって音量が変わるのだろうか。魔法の天才か何かだろうか?と思ってしまう。
「どう?」
「お、ちょうどいい感じ」「うぅ……」
ドンとカイロが再びその耳栓を付けると、今度はちょうどいい音量になったのか、安堵した表情になった。トロが「これくらいで大丈夫か?」と聞いて、二人は頷く。
ドンはまだダメージが残っているのかしょぼくれていて、それをトロがなだめていた。
なんてうまいこと関係性ができているのだろう。これなら期待ができそうだ。
私は急ぐ気持ちを押さえながら、その一連の出来事を見ていた。そして皆の準備ができたようであろう時で、声をかけた。
「さて、準備ができたようだし、行くか。」
「そうだね」とゲーシュさんがいった。
耳栓をよく詰めて絶対に無くさないようにし、改めて依頼の内容を確認してからすぐに解散になった。
トン兄弟3人とゲーシュさんはすぐに出ていき、私も続いて外に出ようとしたが、そこをカイロさんに止められた。
「あの、カイラさんですよね?」
「え、はい。そうですけど?」
「えと、ふつつかな質問ですが、あなたの彼女さんは人間ですよね?」
「はい。そうですが……」人間が攫われた。とも依頼書には書いていた。
主な依頼はシャスを探すことなのだが、ついでに一緒に彼女も見つけてもらった方がいいのでは、と考えおまけ依頼で書いたのだ。それがどうかしたのだろうか。
「あの、あとで人間の体について教えてもらえませんか?」
「体?顔とか腰回りとかですか?」
そう聞くと、しばらく黙り込んで考え始めてしまった。
これからの獣人社会は人間とのかかわりが多くなってくる。そこで人間を知るために人間の構造を知っておきたいのだろう、という程度に私は思っていた。
だが、思っていた返答とは違う答えが来た。
「いいえ、全部です。」
にやぁ、と興奮して笑顔が止まらないようであった。なめらかな言い方に、なぜか背中に鳥肌が立ち、何らかの変態であろうか。と思わせた。
「ぜ、全部?」
「はい、全部です。」
戸惑いながら聞くと、まさかの即答をされてしまった。
全部、ということはほんとに体の全部の事だろう。まさか彼女のことを知って襲おうとでも言うのだろうか。何となくそんな考えが浮かんだが、そんなわけがないであろう。
私は疑いつつも、胸元で丸く形を描きつつ、質問した。
「全部……乳房とか、あ、あそこも?」
「はい!!」
顔をぐいっと寄せてきた。彼の癖かどこかしらに刺さったようで、また一段と鼻息が荒くなって、尻尾もより一層激しく振られていた。
もしかしたら、とんでもない獣人に依頼をかけてしまったのかもしれない。と私は恐れてしまった。せっかく優秀なのに驚いたものだ。
とりあえず興奮して収まらないようなので、先に落ち着かせてなだめることにした。
「え、えと、落ち着いてください……」
「落ち着いてはいます。あっ、別に私は、そんな人間を舐め回したいとかいう変態犬ではないです。」
そう急に真面目になって、きっぱりと答えられてしまった。
これまた一瞬戸惑ったが、やばい人ではないのがわかったので安心もした。
「い、今はミッションを優先してください、その要件は後で成功したら教えます。」
そういうと、カイロの顔がぱぁっと明るく、輝いて見えた。
「……い、いいですかね?あとで教えてもらっても……」
「いいですけど、し」
「やったぁあああ!」
そこで私の声はカイロさんの喜びの声に遮られ、それがあまりにも声がでかいため、ホテルスタッフの方に怒られてしまった。
仕方なく私たちは、会話をあきらめ、分かれてシャスを探し始めた。
一体どこにいるんだ、こんな一大事なのに。
だが私はまだ知らなかった。
これが人間の国を巻き込んで進む大騒動になるなんて。




