32 心強い友 猫
店を出た瞬間、横の店で見たことある豚の姿が見えた。
あれは、ゲーシュさんだろうか。少しふてぶてしい豚の姿に、はっきりと見覚えがあった。
なんて悩ましい時期に出くわしてしまったんだ。
この現状はゲーシュさんに伝えるべきか、それとも秘密にして一人で淡々と探していくかの2択がすぐに頭に浮かんだ。伝えたとしたら怒られるのは確定するが人手が増えてとてもたより強くなる。
一人で淡々と探すよりもメリットはとてもでかいはずだ。だが彼女を無くしてしまったことを伝えたくないもどかしさがある。だが、それで見つからなくなったらどうしようとも頭に浮かんだ。
私はゆっくりとゲーシュさんに近づき、声をかけた。
「あのぅ……ゲーシュさんですか?」
「はい、あ、え?カイラか?……マンダさんは?」
すぐにゲーシュさんは振り返り、私は答えることはできなかった。周りに人がいてなかなか話ができなかったのだ。
こうなるのは予想済みだ。
私は、「話はちょっと裏で」と言ってゲーシュさんを路地裏に連れ込んで、またいい感じの長椅子があったのでそこに座り、ホテルから出てからの出来事、私の推測ををすべて話した。
「……なるほどな。そりゃ急がないとな」
慌てると思ったが、以外にもゲーシュさんは冷静沈着であった。
それ以降考え込んでしまったが、怒っているというわけでもなさそうだ。
むしろ助けることを優先して怒るとかどうでもいい感じか?なんと心の広い人だろう。どなることもしないし、いろいろと私の事を非難する様子もない。
「とりあえず、お前は落ち着け。大事な石をなくした子供の頃みたいだぞ?」
「え、あぁわかった。とりあえず落ち着く。」
比較的落ち着いているつもりだったのだが、ふとそう言われ呆気にとられた。
深く吸って、長く吐くを繰り返していると、そこで心臓がバクバクと大きく鼓動している音に気が付いた。いままでこんなに心音が大きいことはなかなか無かったのだが。
「そうか……慌ててたのか、私は」
「さっきの話してる途中も舌が回ってなかったぞ?」
「本当か、それはすまなかった。」
「いいんだ。そんな頭を下げないでくれ。彼女が攫われていなくなって焦るのわかる。」
私は顔を膝につくのではないかというくらいに近づけて、謝罪の意を示した。
ゲーシュさんはその顔を持ち上げようとした。
「まずは今は落ち着いて冷静に整理しよう。たぶんその中に、答えがある。」
「わかった。」
もう一回、ひー、ひー、ふーーと深呼吸をした。深く吸って長く吐くのを意識しながら。
私は一旦情報を整理しながら一つ一つゆっくりと言っていく。
「まずは、彼女がいなくなった場所は、あのゾウの店主の宝石屋だろう。」
「あそこのか?確かに態度は気味悪かったところもあったが、まさかあの人が」
「そうだ、それに、事件は目撃者もたくさんいたと思う。だが、たぶんだれも助けられなかった。」
「たくさんいるって思う理由は?」
考えながらそう返してくる。私は記憶を探った。
「えと、カフェの中で兄弟みたいな人が話してたんだ。追っかけてたら人ごみに消えてどっか行ったって。この町はだいぶ人が多くて混んでるところも多いし、猫獣人の視力は伊達じゃないから、相当いないと見失うことはないはず……だから人がいると仮定して、事件の瞬間はたくさん目撃者がいたんだとおもう。」
ゲーシュさんは少し話を頭の中で噛み砕き、理解して頷く。伝わったか心配になったので、どうにか伝わって安堵した。
「ふむ。たしかにあそこ人多いもんな、そりゃ見てる人もいるか。」
「そう。だから見てる人もいると思うんだ。それにもう連絡してるなら警察も来ていると思うし。」
そのことを言うとゲーシュさんは目を見開いて指を指してきた。
「ん?警察ならさっきみたぞ?買い物をしている最中に。覆面のトラが。」
私は思わず口に手を置いて息をのんだ。
「本当か!?」
「あぁ、その警察がどこ行ったかわかんないが、探して聞いてみるのもよさそうだ。」
その知らせを聞いた瞬間私は希望の筋道がつながったようなきがして、思わず立ち上がってしまった。行動せずにはいられなかったのだ。
だがその手をゲーシュさんが思いっきり握って引き留めた。
「ちょちょ待て待て!このまま警察に直行したら相手に察知されるかもしれない!相手は鼻も聞いて耳もいいゾウだぞ?警察もそれを考えてこの辺りにいないんだと思う。たぶんだがな、だからもうちょっと作戦考えようぜ?な?」
その必死さに私は我に返り、素直に従った。彼の言い分が実に理にかなっていたからだ。
確かにゾウの獣人は耳が大きい分よく、鼻も長いのでその分細かく嗅ぎ分けられるようになっている。警察はそれを知っているだろうし、近くにいないということは、言っている通りだろう。
こっちは相手には察知されていけない作戦を企てているのだ。
自身のむねを叩き、無理やり落ち着ける。バン!という音と鈍く広がる痛み。
「すまん。やっぱり焦っちゃうな……」
「焦る気持ちもわかるが、今は作戦会議だ。絶対に、必ず彼女を救おうじゃないか?」
親指を突き立てながらそう言った。
私はその言葉に絶対的な信頼を感じた。ゲーシュさんも彼女のことが心配であるのがはっきりとわかったからである。
「ああ」と返事をして話を続けていく。
「とりあえず、その現場を見た人を募集したいところだが……どうやって聞き出すかが悩むな。あそこの近くで話すとゾウに見つかるし遠くに行ったらちょっとまずいんだよなぁ……」
私も頭を抱えて一緒に悩んでしまった。
さっきも一人で考えたときにそうであったように、やはり簡単に作戦がなかなかいいものが思いつかないのだ。
ジャスさんも呼んで一緒に考えるのが吉だとすぐに思ったが、今どこにいるのかわからないので探す手間もあるのが難だ。だがこの二人だと何も思いつかない時間で時間が只経ってしまう。
そもそも聞き出さなくても、その事件に直接かかわっておらず、かつ日常生活でもする質問を投げかければいいのではないか?と思ったが、それも二人だとだいぶきついし、結局ジャスさんを呼ばないと私たちに勝ち目はなくなってしまう。
今はジャスさんを探すべきだろうか。あの人体がでかいからわかりやすいし、頼りになる。
「なぁ、ジャスを探すのは?人数がいたほうが探しやすいしもしもの時に戦力になる。」
「ジャス?……あのでっかい狼の人か。いいんじゃないか?」
私が聞くとゲーシュさんは暗い顔を一瞬したが、それをごまかすように笑顔で肯定をしてくれた。
何か思うところもあるのだろうか、とも考えたが、今はそんな暇はあまりない。
「よし、じゃあ探しに行こう!」
また決心がついて立ち上がると、今度はゲーシュさんも飛ぶように椅子から立ち上がった。
「やっぱり。……焦らないで、落ち着いてな?」
ゲーシュさんは私に向かって舌を鳴らして指差しをしてきた。
「わかってる」私はイラついてそう強めにいってしまった。
「念のためもう1回深呼吸しとけ。」
言われるがままに、深呼吸をもう1回した。表通りの動物の匂いと、裏通りのじめじめとした湿気の匂いが混ざり合って鼻に入ってくる。
それでまた落ち着いて、冷静になり、やっとふたりでその裏路地を出た。
ジャスの行方は全くわからないが、ホテルの近くにいるはずだろうと予想して早速出発することにした。
早く見つけていろいろと考えが欲しい。ジャスなら地下通路や闇市のことも詳しいはずだ。
あの地下通路はもともとジャスが教えてくれてものだし。
今の俺の心の中には、早く見つけないという焦りが最優先事項へと変わっていった。




