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31 カフェで休憩 猫

 中に入ると、ドアについていたベルがちりんと鳴る。

 店員が耳に突き抜ける大きな声で「いらっしゃいませ!」と叫んでいた。

 ちょうど通りかかった虎の店員に、お好きな席にお座りくださいと言われたので、適当に端の方にある2人席に座った。そしてお金と荷物を持ち手部分を椅子の足に通して、椅子の下に置き、私はやっと落ち着くことができた。息を大きく吸って吐くと、鼻から木の香りが通り抜けて、ある程度リラックスして余裕が出てきた。そのおかげで、余裕が少し出てきた。

 さて、どうするか。と私は考えた。

 思っていたよりも壮大なことになっているかもしれない。

 今頃彼女がどうなっているかわからないが、大抵ファランで聞く誘拐は闇市に売り飛ばされる目的か、もしくはただの「飼育」目的か、それとも金か……考えられるのはこの3つだ。だが、人間はなんだか高値で売れるらしいと聞いたので闇市に出される確率が大きいだろうか。という推測をした。

 この3つを中心に考えていくと、いずれにせよ、たぶん傷は多少あろうとも殺すことはさすがにないだろう。

 だがそれ以上は、彼女の行方という過去の推測しかできないので、今どうするか、という現実的な行動に行きつくことができず、ほとんど無駄だと悟った。

 なので色々考える前に、現実的な行動を考えるのは辞めて、落ち着いて現状を整理しようとすると、店員さんが尋ねてきた。

「ご注文は決まりましたか?」

「あぁ、えっと……はい、じゃあこのニードルサイダーで」

 考えに耽っていたので慌ててメニューを開き、すぐに目に入ったニードルサイダーというものを頼んだ。ニードルはエーテルで言うところの、松だ。あの刺のような葉っぱの形状から、ファランの昔の言葉で「とげとげ」という意味のニードルになったらしい。

「ニードルサイダーはレモン味もありますがどうされますか?」

「サイダーだけでいいです」

「わかりました、少々お待ちください。」

 ニードルサイダーのとなりにレモンニードルサイダーというのがあったが、なんとレモンを入れるだけで4ルース(400円)も多くなってしまうのだろう。ファランの周りでは取れないとしても、こんなに高いものだろうか。

 通常のサイダーならまだ6ルース20セクタ(620円)と安いのでそちらにした。

 店員はずっと笑顔で、牙をむき出しにせずとても穏やかな印象を保っていた。とてもいい接客をする人だなという印象がつき、こちらもとてもいい気分であった。

 店員さんが離れ、また私は思考に耽る。

 まだ彼女がどこにいるのかわからないのだから、完全に安心している暇はない。でも……。

「でもどうすれば……」

 この村にはファランのような冒険者が集まる場所、いわゆるギルド的な場所はないと聞いている。あるとしても一応掲示板だけだが、めったに案件の解決はされていないようで、依頼の上に依頼の紙が貼り付けれているところだってあった。おそらく希望はないだろう。希望あるとしてもお金で釣るくらいか。

 はぁ……とため息をついてうなだれていると、ふとした尿意に襲われた。若干だが緊張状態からほぐれたので膀胱が緩んだのだろう。だがジュースを待っているのでこのまま来るまで待ちたいところだ。

 幸い、サイダーはすぐに来た。細い松の枝が丸々一本入っていて、細いストローが炭酸水の中に刺さっていた。「ごゆっくり」と言われ、ありがとうございます、と返すと店員は改めて笑顔でしっぽを立たせていた。

 そのサイダーを早速一口飲み、松の香りが一気に鼻に抜けるような感覚を味わって、そのあとすぐに小走りでトイレに向かった。あと少しで漏れそうなところで、いつの間にか額に冷や汗をかいていた。

 トイレに入るとすぐに用を足した。息を吸い、吐いてまたリラックスをする。そうすると頭が回りやすくなり、いい考えが浮かびやすいのだ。

 その頭でまず思い出したのが、貴重品も何も持ってこなかったことであった。

 椅子の下に置いてあるとは言え、奪われることなど、ファラン内だとどこでも日常茶飯事なのである。この村も恐らくそうだと思い込んで、とにかくそれが心配になり、急いで手を洗って席に早歩きで向かった。

 無事お金は奪われていなかったようだった。思わず小さくよかったとつぶやき安心して、席にまたついた。貴重なお金で帰り道の分もあるのだから大切にしないといけない。


 ……なんだかいろいろと考えすぎてしまって本題に入るのが遅くなってしまう……いつもの私の悪い癖だな。とにかく彼女をどう救うか、の前に!どう攫われたかについて、考えることにしよう。


 彼女は今おそらく、売られる前の牢に入れられた状態、調査の前段階にいると思われる。なぜなら宝石の匂いがまだ新しいもので、強く残っていたからだ。

 おそらくその宝石も彼女が落としていちゃもんでもつけられた、という流れだろう。そのせいで誘拐され、今は檻の中だと仮定しておこう。

 でも街中で堂々と誘拐するか?もししていたら周りに筋肉質で暑苦しい警備員とかなんだがが来ているはずだが……そのような人たちが全く見られなかった。むしろ何も異常がないように感じられたのだ。

 ならば犯行は路地裏か。さっき俺が座っていた椅子があった路地は同じようなところが複数個所あって、確定はしないが、たぶんそこだろう。うん、たぶん、きっとそう。

 あぁ!たぶんとかしか言えない私に腹が立つ!

 確実な犯行ルートを絞り出せたのはよかったが、いかんせん不安だ。

 彼女がもうすでに原形をとどめないほどボコボコにされているとしたら、なんて考えると松ジュースがまるで透明な血液のように見えてしまって、つい逃げ出したくなる。

 落ち着け俺。

 これはサイダーだ。

 普通に飲んでみると松の香りがするおいしいサイダー。

 ただの炭酸で泡立っているサイダー。

 そして一口飲んでみる。……うん、サイダーだ。

 何やってるんだろう「俺」は。

 今自分にできることは、彼女のことを知っているであろう商店街の人々に声をかけて、聞き込みを行うことだ。

 ある程度の誘拐の場所は絞れていて、彼女の向かった方向も微かに香る匂いからある程度方角はわかる。それ以外になにか商店街の店主の誰かが知っているだろうか?おそらく見込みは少ないだろうし、攫った犯人に声を掛けたら私まで攫われてしまう。

 そこから、どうする……と頭を回転させて、他の情報を見失ってないかを確認する。

 だが現状わかっていることでは、彼女の無事を示しているものは何もなかった。


 すっかり消えてしまった。

 猫なのに狐に化かされたような感覚だ。

「はぁ~……」と大きなため息をつくと、私の耳にとある会話が聞こえてきた。


「なぁ、さっきの見た?」

「うん、見た。あれ……ニンゲンだったよね」

 そのニンゲンという言葉を聞いて私は耳をそちらに向けた。一匹は黒猫の獣人で、もう一人は茶色の猫獣人であった。

「そのニンゲンが1人で歩いてるとことみてて、めずらしいなって跡をつけ照ったんだよ。」

「すっげえ!ニンゲンにバレなかったか?観察力がいいって聞いたぞ。それに見えなくても察知できる第六感が人間にはあるって聞いたけど」

「いや、まったくバレなかった!すごいでしょ?」

「すごいじゃん!さすが黒猫だね!」

 むふ~とわかりやすく胸を張ってうれしがっている。しっぽが立ち上がっている。

「んで、そのニンゲンなんだけど、追っかけてたらどっかいっちゃってさー……。結局見失っちゃったけど、声は聞こえたかな、助けてって言ってた。」

「えっ、何それ何が起きたの?!」

「わかんない……人混みだったから見失っちゃってたし……うう、もっと見たかった!」

「裏路地とかに入ったんじゃない?」

「いや、それはないね。だって俺ニンゲン見失った時から路地裏を特にみて一生懸命探したけど、どこにもいなかったんだよね、ほんと不思議でさ。きれいさっぱりいない。」

「ほんとに!?」

 私も心の中でほんとに!?と一緒に叫んでしまいそうになったのを押さえていた。


 とんでもない証言を掴んでしまった。

 その会話はまだまだ続いていきそうだったが、聞いてるとやがて関係ない会話に変わっていった。

 なんと、彼女は白昼堂々と人ごみの中攫われたのか……と私は信じられないでいた。

 だとしたら誰か通報しているのではないか?と疑問に思った。いくらなんでも誘拐されて警察に言わないやつなんているわけがない……と思ったがそういえばここは獣人の村だったな。と思い出して、人間のことなんてほとんど気にしない、または嫌っている方が多いのだろう。と一人芝居で納得した。

「いやそれにしてもどうすればいいんだ……」

 またサイダーを一口飲む。シュワシュワと炭酸が口の中で弾け、舌にその刺激が走る。そのおかげでまた回転して収まらなかった脳が少し落ち着いてきた。だがさすがに焦りは直すことができなかった。

 とにかく私は彼女を救う方法を考えた。情報が少なすぎるのもあるが、むやみに行動して察知されたら彼女に何があるかわからないため、とても困難な作戦、または理想論しか思い浮かばなかった。

 炭酸を8割程度まで飲み切った時、ほとんど考えが尽きてしまった。

 いったん何回目かわからない状況を整理しよう。


1,彼女はいろんな店を1人で回って、あのゾウの店で宝石を手に取ったのかわからないが、とにかく宝石を落としてしまった。

2,その宝石は割れてしまい、その場では大丈夫だよと店主は言った。そのあと彼女が去ろうとすると、損害賠償?だとか言われて、何らかの方法で彼女は連れ去られてしまった。正直よくわからん。(宝石を割ったという理由で裏に無理やり連れていかれて、そのタイミングで気絶させられてしまったのだろうか。)

3,そして今は投獄されている。状態は不明。生存は確実。


 とりあえず仮説としてこんな感じだろうとする。いろいろ考えるとキリがない。間違っていてもいい。とりあえずこれを軸として行こう。

 だがそのあとをどうやって追うか悩んだ。

 心の中は不安でいっぱいであり、そのせいで気絶しそうでもあった。

 もし彼女が死んでいたら、俺もどこかで自殺をしてしまうかもしれない。森の中でけだものに食われて……あぁ、こんな想像をすると反吐が出て探す時間が長くなる。やめだやめ!

 俺は吐き気を我慢して、頭を叩いた。周りから見たら少々おかしい人だが、そうせずにはいられなかった。不安を頭から出し切るにはこうするのが一番早いのだ。

 案の定周りからの視線は鋭い。それを何とか耐えてからサイダーを一気に飲み干すと、炭酸によって喉が焼けたような感触がした。それと入っていた松の1部を飲みこんでしまい、松の苦みが強く口を抑えてしまった。

 そのまま急いで会計を済まして、あまりの気まずさから逃げ出すように店を出た。


俺 → 真剣な時

私 → 通常時

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