30 さらわれた先にあるもの
……私は疲れ切っていて、外に出たはいいものの、ただだらだら歩いては商店街の人に不思議そうな目で見られていた。
あぁ、何も買う気力がしない。足も水分不足で久々に攣りそうだ。水分不足かと思い、さっき水を飲んだのだがいったいどうしたものか。あまりにも収まらないため、少し路地裏に入って休むことにした。店と店の間を抜け、日陰の中に入ると一気に空気が変わり、じめっとする。
一体ここはどこだろう。そう思って目を開けると、そこは全く持って商店街じゃなく、牢屋であった。
重たい体を持ち上げて目を擦ると、辺りは薄暗くじめじめしている。鉄格子で中の様子が全部見え、トイレらしき丸い穴が丸見えであった。そしてその横にとりあえず敷いているであろう薄い毛布2枚。私の持ち物もすべて持ち去られていて、何が起きたのかわからない状況であった。
とりあえず、頭が痛いし足がひりひりする。固い地面にずっと寝っ転がっていて肩が凝っているのだろう。
足は起き上がって見てみると、傷跡ができていた。手のひらサイズの大きさはあるであろう。どこで出来たのか全く覚えていない。
さっきまで夢を見ていたのか。路地裏で休憩する夢。しかも現実に続いている変な夢で、やけにリアルだっだ。
「起きたか。」
低いがらがら声が私に話しかけてきた。そこに、薄いボロボロの服を着て手には長い槍を持っていて、明らか不潔そうな鱗をした、片目が飛び出したトカゲがいた。
「だ、だれなんですか!?」
「俺はココの警備員だ。それ以外はあんま言えない規則だ。悪いがね。」
「えぇ……」
完全拒否の姿勢に私は何も言えなくなってしまった。せめてここはどこか、私の荷物はどこに行ったのだろうか、くらいは教えてほしいものだ。
私はいろいろな疑問が涌き出る気持ちを抑えて無理やり冷静になる。どれだけ暴れても、あの槍で一突きされて急所に当たってしまえば、致命傷になりえないと想像したからである。
あの重たいバックの中の重要資料とあの杖が取られていないか心配だ。
どうしたものか……そう私は脳内でつぶやく。このままではいろんなことをされてしまう、
彼の嗅覚を信じてこの事態を察してくれているのを待つしかないのだろうか。
さすがに時間はかかるだろう。彼も今一人だし、私が攫われた事実などその場にいた人しか知らないことであろう。
捕まる直前周りを見ていた時の景色を思い出したが、みな驚きと恐怖で足が動かないような感じであった。おそらくこの裏社会の影響は村全体に広がっている。
私の中にはいろいろな不安が重なって、行動すると何かが起こってしまいそうな気がして仕方なかったため、部屋の端っこで丸まっているしかなかった。
一方そのころ彼は、落ち込みながら歩いていた。
「はぁ……私のバカ!」
お金を持ってくるのを忘れていたのと、出かけてからすぐに、村に入るときの約束を数分で思い出してとてつもなく焦っているところだ。本当に私は何をやっているのだろうと深く落ち込んでは頭を自分で宥めるようになでていた。来ているローブも砂埃で完全に汚れてしまって、もう泣きっ面にビー(蜂)のようだ。
落ち込んでる場合じゃないのはわかっている。
それよりも……。
「それよりも、早く彼女を探さないと!攫われているかもしれない。」
と心臓辺りを叩きながら自分を鼓舞した。太鼓をたたくみたいにどしんと。そこでやっと後悔と変わり気力にわいてきたが、ほとんど証拠やヒントもないので八方塞がりになってしまっていた。
さてどうしたものか。と深く街中で考え込んでしまう。
たまたま裏路地に椅子があったのでそこで休憩をすることにした。少し裏路地に入ったところだが、表からは全然見えやすいところだと思うので大丈夫であろう。
座って、ふぅとため息を吐き、冷静になるように目をつむって深く考える。そうするといつもすぐにアイデアが思いつくのだ。なるべくリラックスするように口をすぼめ、細く息を吐く。
そして空を見上げながら、この周辺のことをマップのようにして思い出す。これまで来た道全部を。
だがそれは大変な作業であり、紙でもあればいいのが今はないため、私の頭の中はパンクしかけていた。
「あぁーー!何てことやらかしたんだぁ!私は!」
静かに発狂した。
あまりにも何も思いつかな過ぎたのと、早く見つけなくてはという焦りもあり、顔を覆い足を地面に叩きつけて悶えるくらい不安であった。涙腺はないが泣きそうになっていた。実際涙腺があったら泣いていただろう。
「はぁ……」と深くため息を吐くと、——何か行動しないと——と何回も心の中で唱え、体を奮い立たせた。彼女が死んでいたらどうしようなどいろいろと考えてしまうが、その気持ちをエンジンにして私は立ち上がった。
表に出ると、そこはゾウの人の宝石屋だった。
「うちの裏でなにしてんだい?」
その大きな体で私に近づいてくると、明らか責めるような口調で話してきた。何か癪に触れるようなことをしてしまったのだろうか。とりあえず冷静にしていたことを伝える。
「かんがえごとをしてたんだ。」
「……ふうん。今度は勝手に入らないでくださいね」
なぜか鋭い目つきでにらみながらも納得はしたようだった。本当にただ独り言を考えてたのだが……たぶんここに重要なものがあったのだろう。
「失礼しました」と私は丁寧に、そして優雅に謝った。するとやっと鋭い目つきが丸くなり、やさしい店主らしい笑顔になった。だがなぜか私はその顔が仮面をつけているように見えて少々不気味に思えるところもあった。
「ところで、宝石買っていくかい?」
「ああ、ついでにみていこうかな。」
そういわれてみた宝石は、緑色の丸いものが多い。おそらくエメラルドか瓶のかけらを削ったものであろう。ほとんど同じ色だが輝きがどれも多少違っている。明らか偽物だろうというのもあれば、本物だと思える宝石もあった。
その中の一つに、くぼみから少しずれていて、多少乱雑に置かれている宝石がぽつんとあった。
これは?と恐る恐る聞くと店主は笑顔で答えた。
「この宝石はちょっと先ほど他のお客さんがぽろっと落としてしまいましてね……売り物にならなくなったのでまた加工するんですよ、あっ、触らないでください!」
位置を直そうと手を伸ばすと、店主さんが優しくその手を叩いた。慌ててごめんなさいと謝り、すぐにその店を後にしようとした。
「すみません、つい気になってしまって」
だがそこである違和感に気づいた。
「……ん?」
その宝石に近づき、においを嗅ぐ。
怪しまれないように、念のため近くのものをじっくり見るような演技もした。
その匂いはどこかで嗅いだことのある匂いだった。いつも持ち歩いていて、なぜか自分のにおいも微かだが感じる。
そこで私は「とあること」に気づいてしまい、鳥肌が立った。
「し、失礼しました」
そのままお辞儀をしながら店の前を去っていった。私の心臓は激しく鼓動して収まる様子を知らなかった。
こんなにドキドキしてるのは初めてだ。イラついているのか、戸惑っているのか。
あの宝石からは……
あの宝石から、彼女のにおいと血の匂いがした。
あまりにも血の気が引いた。まさかあのゾウに何か既にされているのだと確信したからだ。
だがそれ以上の手掛かりがない。
ここで詰めるのは冷静さを失って暴れる子供みたいだ。おさえろ。俺。
と、いろいろと考え自分の怒りをなんとか抑えた。街中で暴れたら大騒ぎになって彼女どころじゃなくなってしまいそうだからなのと、ゾウに気が付いてることがばれたら彼女が殺されてしまう危険性があるからだ。彼女の血がついていたということは、結構無理やりに掴んで運んでいたのだろう。その様子を思い浮かべるだけで脳が沸き立つほどの怒りがこみあげてくる。怒りが鍋から煮沸しそうだ。
だが今は人前だ。せめてどこかの建物内に入ってからいろいろ考えなければ、と思った。
辺りを見回すとレストランらしき焼いた魚の看板があり、そこからちょうど虎獣人が2人ほど出てきた。とりあえずあそこに入ろうと、早足で向かった。




