33 一体どっちの味方なの
一方その頃、マンダの様子。
私はどこへ連れて行くのだろうか。そしてここはどこなのだろうか。またどんなことにまきこまれていくのだろうか。
あんなことやこんなことするんでしょ!エ〇同人誌みたいに!
……という冗談は置いておいて、本当にまずい状況である。あれからほぼ何も食べていないためお腹が鳴って仕方がない。それにすでに攫われてから数時間が経っている。
今は心配やつらいよりも、おなか減っているので何か食べさせてほしい、という生物的な欲求を求めていた。
ぐぅぅとおなかが鳴るたびに、片目が飛び出したトカゲの監視員がにらんでくるのもちょっと恥ずかしい。
「腹減ったのか。レンガでも舐めてろ」
いかにもバカにするようなニヤケ面でそう言ってはただ静かに座っていた。なんだあいつは。いくら暇だからと言って、同じくイライラしてる人にそんなことをいうか!と思ったが、そもそも人を攫う人たちだし、そもそも人でもなかった。それに人を嫌ってる獣人の方が多いのだ。
今までが異常であっただけで。
私は暇で少し頭がおかしくなっていたので、意外なことをして驚かしてやろうと思い、レンガを本当に舐めた。じゃりっという音がして舌がひりひりする。
もちろん土の味しかしないが、わずかに塩気がない気がしなくもない。
そんな哀れな姿を見て監視員にケケケと笑われてしまった。
自分からやったことではあるが、なんだか少しイラっと来る。
本当になんなんだ。人間であるからと、なぜにこうもバカにしてくるのか。従った私も実際はバカではあるが、それくらいおなか空いたという意思表示でもある。
なにかカビたパンとかでもいいので何か食べたい。
次にお腹が鳴ったタイミングで、誰かが重たそうな鉄の扉を押して入ってきたようだった。私はご飯か?と期待したがそうでもないようだ。
「これが新しい人間ですか、珍しい」
「街中で一人で歩いているところを捕まえてきましたそうです!ゾウが。」
「すごいな、街中で堂々とやったのか!女なのに男らしいな!あのゾウは!」
とご機嫌そうにこちらを見てきた。
深いローブに身を包み、顔は見えず鼻先だけちらりと見せている。形状からして狼獣人だろうか。それとも鼻が長いタイプの犬獣人か。ローブからも肩幅が大きいとみられる。筋肉質で、見るからに力がとても強そうだ。
逆らわない方がいいであろう。
だがしかし、なんだか見たことがある気がする。気のせいだろうか。
私の姿を見ると、相手は何かに気づいたらしく、ローブをあげて私の姿を見た。
「ん?これやこれや、あなた様でしたか。」
その顔を牢屋に近づけ、私に顔が見えるくらいにローブを上げ始めた。
何かと思って牢屋から離れてベッド近くにおびえて包まっていたが、その顔が見えた瞬間私は驚きで震えた。
「ジャスさん……?」
「そう。シャスさん、シャス・ナターシャだ。驚いただろう?」
その時は、どんな気持ちをすればいいのかわからなかった。
まさかあれほど親切にしてもらっていたシャスさんが、まさか人さらいをする極悪人の上の存在だったなんて……と思って思わず息をのんだ。
シャスさんは、指を向けてきては爪を見せつける。ギラリと光って、刃物のようであった。
「だが、これからはその呼び方は辞めてもらおう。」
そして指先から魔法を放ち、私を牢屋の入り口に引き寄せた。爪に刺さってしまう!と思い、思わず目を瞑った。
だが寸前のところで爪は引っ込み、それで、牢屋に激しく頭をぶつけ、気絶はしなかったものの頭から血が流れてきて目に入る。
「これからは、「ナタ様」と呼べ。それが俺のここでの通り名だ。」
その目つきは今すぐに私のことを殺すと警告するような殺意を感じた。
瞳孔は震え、輝きは消え去ってしまっていた。あまりにも近いのでよく目の様子が見える。
完全に、悪に満ちた目をしていた。
この人は、誰だ。
「はひ……ナタ様」
私は今にも泣きそうな声でその名前を呼んだ。あまりにも怖かったのだ。まるで巨大生物を相手にしているような、絶対に負けるという確信があった。
小動物がライオンにおびえるような、そんな感じだ。
ここは素直に従うしかないのだろう。そう悟った。気が付けばまた牢屋の端っこでうずくまっていた。
「しかし売り物とはいえ、状態が悪いな。しかも顔に傷をつけてしまった。おい!見張り!」
「は、はい!」
唸るような声で呼ばれ、さっきのさんざんバカにしてきた見張りが、萎縮していた。立ち上がると上半身から下半身までガチガチに固まっており、緊張しているのが丸見えだった。
「こいつにあとで回復魔法と飯をあげろ。傷をつけることは許さん。飯は、パンでいい。」
「人間にですか!?」
「人間だからだ。状態がいいほど高く売れるんだ。意外と好きな人が多いんだぞ?」
「わ、わかりました……」
見張りは敬礼をしながらも、落ち込んだ気持ちを隠し切れず声が小さくなっていた。本当に人間が嫌いで憎んでいるタイプなのだろう。
見張りが部屋から重たいドアを開けて出ていき、重たそうに閉めた。
「私はこの人間の査定をする。お前も出ていけ。」
「は。」
ナタ様の隣にいたローブの獣人は、同じく扉を開けてすたこらさっさと出て行った。
ずっとそばにいる衛兵とかだと思っていたので、一言だけですぐ離れてしまったのは私にとって少し意外であった。
彼が出て言った瞬間、ローブを全部外し、その顔を見せた。完全にシャスさんで、いままで地下通路をエスコートしたり、村で再開したりした時のような優しい顔は、とっくにどこかへ行ってしまったようだった。今の顔は、悪そうにニヤケて、私の事を見ては舌なめずりをする。今にも食べてしまいそうな捕食者の目であった。
私は恐怖で体が固まり、涙さえ出ない。
いつもよりも体が大きく感じられ、その圧もすごかった。
まるで壁のようにも思えるその姿は、私の目をくぎ付けにした。
「こっちにこい。」
そういわれて返事すらすることもできずに、おびえてただ近づいて行った。なぜか魔法で操られたときと同じように頭をぶつけて。その様子に戸惑う様子もなく、私と彼が顔を近づけ合う。鼻息がして、それが生暖かかった。
「……〈ミュートフィールド〉、〈鑑定〉」
そういうと私と彼の頭の周りに泡が2重にかかった。
「よし、これで聞こえないはずだ。違和感もないようにしたし、たぶんバレないだろ」
そう安堵して話した声は、いつものジャスさんの声だった。
「え、えと?」
「動くな。今から端的に作戦を伝えるぞ。」
「え、え?ええ?作戦?」
「脱出のための作戦だよ。よく覚えといて。」
「は、はい」
私はあまりにも突然のことに少し混乱したが、とりあえずはジャスさんの言うことに従うことにしよう。唯々諾々。
まず、ジャスさんは味方。
だがスパイのような事をしているので、仕事上たまに暴力的になったり味方とは思えない行動をすることがあるらしい。そういうときは、私も演技をしろ、ということだ。
そして作戦は……3分程度で簡潔にまとめられている説明を私は一言も逃さずにすべて復唱した。絶対に覚えないと生きては帰れないし、死よりも恐ろしいことが待っているのだと聞いたから。
「理解したか?」
「うん、……して、」
それ以降も作戦の再確認をした。そして間違ってたところは修正して何度も復唱し、記憶の中に埋め込んだ。
しばらくするとピコと音がした。おそらく鑑定が終わったのだろう。
「よし、そろそろ時間切れだ。……何泣いてるんだ?」
「え?なんでだろ」
気が付けば血に交じってわからなかったが、泣いていたようだ。
ナタ様が解除といった瞬間、泡が二つとも弾けた。その瞬間周りの空気の音までもがうるさく感じて、その泡がどれだけ強い防音性があるのがわかる。
「すまん、少してこずった。」
「珍しいですね、ナタ様がこんなに鑑定に時間を割くなんて。」
「魔法に耐性があるようだ。洗脳魔法はあまり効かないと考えたほうがいい。」
「そうなのですか!?こんな人間が?」
「あぁ、たまにいるのだ。人間にもな。だが別に気にする必要はない。獣人には大差のないレベルだ。」
「そうなんですね」
そいつはナタ様が振り返ると、私の方に舌を出してバカにしてきた。ほんとに人間を見下しているやつしかいないんだな……
「さぁ行くぞ、そろそろ。次は狼獣人で大変なのだから早く終わらせたい。」
「は」
そう言って二人なかよく去っていき、それとすれ違うように監視員が入ってきた。さっきの反動で少しイラついているようで、腕を組んでぐちぐちと何か言っていた。
そして舌打ちをしながら人差し指で、こちらに来るように指示をされた。不満ばかり言っていて正直信用できなかったが、ナタ様の圧力が効いていると信じてその監視員さんに近づいた。
「足出せ。」と言われるがままに、けがをしていた自分の足を差し出すと、その部分を荒くつかまれ、片手で持ち上げられもう一方の手で回復魔法のような緑色の光を出した。その光はとてもも暖かくて、心地よかった。
「あと顔。」と言われ、さっき牢屋でぶつけたときにできた頬の傷を、また同じく緑色の光で見事に消し去ってしまった。
「す、すごい……」
私はその緑色の光が手のひらから出ている光景が不思議でしょうがなかった。エーテルでは魔法を使うときに手のひらサイズのでかい宝石を使ってでないと魔法は使えないのが普通であり、それが手のひらから出ているのが信じられなかった。
「魔法だ。」
そうとだけ言って無言で回復魔法をかけ続けた。なんだか照れているように見えて、ちょっとは打ち解けられたかなと思ったが、相変わらず睨まれているので気のせいだろう。
私も手のひらから出るかなとやってみたが何もならなかった。やはり手から出すのは獣人特有の魔法の使い方であろう。
そのあとはまた暇な時間が続いた。ずっと檻の中にいるとさすがに飽きてくる。いつも物語の中で見る刑務所の人達、また監禁された人たちはいったいどうやって牢屋の中を過ごしているのだろう。不思議だ。
「おい。」
しばらく時が経ち、見張りが声をかけてきた。その鋭い目つきはやはり何回見ても怖いものだと感じる。
「今俺のことどう思った?」
「ん?え……そんなの急に言われても」
「どう、思った?」
「え、ええと……正直怖いと思いました、はい」
「怖いか。ふはは。」
見張りは寝耳に水のようで、そう一言発してかみしめるように座っている椅子を片方あげてはカタカタと音を鳴らした。嬉しいのだろうと私は直感した。
「まぁそれだけだ、あんまり静かだと耐えられないからな」
それだけ言ってあとは椅子をカタカタと鳴らす音がその空間に響くだけだった。
コツ、コツ、コツと。
なぜかそれで、私は悪い気持ちにならなかった。むしろちょっとうれしいというか、打ち解けられて凍っている空気が砕かれてきているのだろう。そんな感じがした。
特に何もすることがないので、私は固い床に寝転んで、薄い布の中に包まった。そのかろうじてある毛布は、隙間だらけでほとんど意味をなさないほどに薄い。だが、包まれている感じがして、つけていないよりかは多少マシであった。
おそらく編んだ布とかを使っているのだろう。
そのまま目を瞑ると、彼の顔が浮かんできた。せっかくなので空想でもみもみした。あのふわふわな頭を思い出しながら。
あぁ、一体彼は今どうしているのだろうか。と私は物思いに耽るのであった。




