28 思考を巡らせて
だが、……こんなことがあって良いのだろうか。
私はその気持ちが心の中でモヤモヤとしていた。
つい私は、廊下に出た瞬間から、病室のベッドへと一直線に向かった。少し早足になりながらも、彼はそれについてきてくれた。
そして私はすっかり元気なはずである体で布団へと戻り、彼はその横に昨日の夜と同じ位置で座った。
すると、急に涙が目から垂れてきた。
心の中でひそかに疲れていたのだろうか。私の中で複雑な気持ちが絡まりあっている。
「大丈夫かい?どこか痛いのか?」
彼が肩に手をかけて優しく声をかけてくれた。
「なんか、逃げちゃった……ごめんね」
「逃げた……?」
彼が首をかしげる。別に傍から見ればそんなに逃げている様子もなかったのかな。
少し落ち着きを取り戻し顔を見ると、すぐに目線をそらされ、ため息をかけられた。
口角は上がっていたが、その死んでいるようにみえる目を私は心配した。
たぶん疲れきっているのだろうと思うが、もし私に何か思う節があるのか、とつい考えてしまう。すると彼の感情がわからず怖く感じ、私はそれ以上話す気にはなれなかった。
そのあと、沈黙がしばらく続いた。
その間私は考えていた。さっきの検査結果のことについてが主だ。
MPが高い、とみんな言っていたが、きっとそのせいで魔術師になれとか誰かから言われるのだろうか?もちろん私の意見もいくらか聞いてくれるだろうが、それでも「ならない」と言ったらみんなは悲しむだろうか?
今の私の仕事は国交異種族交流長なので、国をまたに掛けて行動する。なので、十分魔術師と兼業することも可能だろうし、むしろその方が得ならことが多いのかもしれない。
例えば、ファラン以外の言ったことも無いくらい遠い国と交流をするとき、冒険者の役割を減らすことができたり、人数を削減できるかもしれない。そうすればお金が増える。盗賊の襲撃とかもあるし私は忙しくなることだろう。
よく言えば「今までにない活躍出来る。」
悪く言えば「今まで以上にこき使われる」だろう。
そんなのやだ。だるい。と心のなかできっぱりとその考えをやめてしまった。あまり深堀してもいいことがないことは一旦後で考えるのだ。いつかそのときが来るのだから。
なんにせよ、私はこの能力をどう思っているのだろう。悪いことだろうか、それともいいことなのだろうか。あまり自分の心の中がわかっていなかった。なんの効果があるのかもまだわかっていないのであり、どちらとも言えない状態であったためだ。
あまりにも無知である。
魔法使いになるとしても、どんな魔法が使えてどんなメリットに反映されていくのかがわからない。
あまりにも、無知である。私自信が無能かと思えるほどに。
私は気がつけば頭を抱えてグシャグシャに髪の毛をかき乱していた。
「大丈夫か?」
さすがに彼が沈黙を破り、心配そうに声をかけてきた。
そこではっと気づき、少し心配をさせてしまっていたことに気付き我に返った。すぐに申し訳なくなってうつむき、手のひらを見る。髪の毛がいくつか抜けて、手のひらについていた。よほど激しくしていたのだろう。
「ごめん、ちょっと取り乱しちゃった。」
彼は頷き、肩に手を置いた。
「うん……なんとなく、落ち着かないのもよくわかるよ。俺だってあんなの見て正直戸惑ってて……気持ちは同じだと思う」
彼は急に語り始めた。肩から手を外し、いつも通り身振りを使いながら話している。
私は膝を抱えてその上に顎を置いて、彼の話に耳を傾けていた。その時だけは、外のお祭りのようにも聞こえる商店街の音は聞こえなくなり、雑音がすべてなくなってその彼の声だけがはっきりと聞こえてきた。
そして私は察した。真面目で真剣であり、本音の時の彼である、と。
私はそのまっすぐな彼をしっかりと見た。
「……俺は、MPがあんたにたくさんあるとわかった今、仕事が増えて会う機会が少なくなっちゃうのでは?冒険者のような仕事をもし君が引き受けてでかけてしまったとしたら?とか色々な疑問が頭の中に渦巻いているんだ。いつ死んじゃうかわからなくて、ただ、仕事もろくにできなくなってしまうと思うくらいには心配をしているところもある。嘘みたいだけど本当さ。それくらい心配なんだ。(彼はここで深く息を吸った)……その状態になれば引き籠って、3日もすれば廃人になっているだろうな。うう、それでも仕事はしなくちゃいけない時だってある。そのときは体を奮い立たせて、君のことを思っているよ。もし、もしだが、冒険者みたく護衛とかついて遠くに行く時には、私のことを忘れないで欲しい!ただ私には君以上の人がいないのだから!それと」
「ちょちょちょちょっとまって!!なんか別れ話みたいになってる!!」
「え……………………あ」
彼がヒートアップしてきて涙を流すくらいに必死になって訴えかけてきていたので、 これはまずいと慌てて制止してしまった。
彼はすぐに自分の発言を脳内で高速で振り返り、やっと気づいた瞬間顔が引きつった。
今さっきの彼はまるで病みとデレを繰り返す「ヤンデレ」のようで、あまりにも愛が強すぎていたのだ。目がハートにもなって、こちらにも前のめりになろうとしていた。
私はそのあとなにか言おうと思ったがなにも出なかったし、出せなかった。
「……ごめん」
耳を手で畳んで塞ぎ、自分の言動を悔いていた。少しの沈黙があったあと、深呼吸をして彼は続けた。
「ごめん、ちょっと取り乱した。どうしても妄想が進んでしまうな、ハハ」
彼は頭の後ろを書きながら笑った。顔が赤くなって恥ずかしがっている。
「妄想って……ははは。」
私はその笑顔で緊張感が解け、そこで気が抜けて体の力も抜けた。
ため息を吐き、そのままベッドに横になった。不思議なことに、何か塊が取れたかのようにすっきりとした。
リラックスして深呼吸をする。彼もそれに合わせて同じように深呼吸をしていた。
胸が膨らんでいるのがよく分かる。彼の姿はとても筋肉質で、少しぼろい上着がよく似合っていた。
「たまにそんなことあるよね、そんな感じでどうしても妄想しちゃう瞬間。」
ついぼそっとそう言った。
それは今思ったことなのか、ずっと思っていて話せなかったことなのかはわからない。だが、長い間心のなかに引っ掛かっていて、なんとなく話したくなったのだ。彼を落ち着かせるため。
「ああ」とだけ彼は返した。その声には色々な感情が重なっているように見えた。
そこに、病院の人がノックをして来た。さっきの竜人さんとはちがい、今度は猫獣人だった。
「あ、あのさっきお渡しし忘れてしまいましたのでこちらを……」
少し気まずそうになにか持ってきたようだ。その手の中には1枚のカードがあった。木製だがやけに固く、叩くと金属のような音がした。
さっきの彼が持ってきたのとは違うカードだ。




