26 山頂の村
馬車に揺られながら話していると、時間があっという間に過ぎ、村に着いた。
その村は想像より大きく、活気にあふれている。第二のファランと私は呼びたくなるくらいにメイン通りに人が集まっていた。だがファランと違うところは、屋台ばかりが多く、明かりも見たことのない丸くかわいらしい明かりが何個も紐に吊るされていた。
それは独特な雰囲気を醸し出し、道幅により奥行きが感じられる構造は、まさにお出迎えされているようであった。まだ昼であるが、その馬車が付いた場所は薄暗かった。少し日が沈んでいるのもあるし、森の中から木の枝が長く太く伸びてきているのである。
その木の枝を伸ばしている幹もとても太く、門のように2本が両側に立っていた。その周りは柵で囲まれていて、それに土とチクチクとした丸いトゲが無数についている。
馬車から降りる前に警告表というものを現地にいる虎の騎士からもらった。
その中には次のような内容が書かれていた。
「1,人間殺し、または誘拐に注意しなければならない。」
「2,人間は身内以外との会話は最低限に控えること。」
「3,身内、または護衛人である獣人は人間のそばに必ず一人はついていること。ただしそれは村の人ではなく。完全な外部の人間でなくてはならない。」
との通りだ。これを渡されたとき騎士に「人間が来るのは数年ぶりだからうれしい、だがしかしこれを守ってもらわないととても危険になるから気を付けてね」といわれた。とても優しい口調であったので、この村へ警戒していたことが少し馬鹿らしく思えた。
この村の時間の長さを表すように、この紙も色あせている。だが文字は何回も上書きされているのか、濃くはっきりとしていた。
彼もゲーシュさんもその決まりを注意深く読んでいた。
「1は当たり前だし、2も問題ない。3は彼がいる。……つまりは離れないで、獣人と会話をしなければ特にトラブルは起きない、ということか」その紙を指しながら私は言う。
「そういうことだね」と彼も頷いた。
一人行動が好きな私にとってはなんともめんどくさいルールなのだろう。と、だるさを隠しきれずため息を吐いた。
「はぁ……」
「んなため息吐かずに。くっついて行動してればいいんですからね。」
ゲーシュさんが励ましの声をかけてくれたが、その少し憂鬱な気分は抜けなかった。話を聞いていたのですぐに納得はしているものの、やはり一人の時間がないと普段よりきついものがあるものだ。
ふと、遠くから足音が聞こえてきた気がした。それに人混みの中から見覚えのあるガタイのいい狼獣人が走ってきていた。彼の走りがあまりに大胆なのか、人々はみんな彼に注目をしているようであった。だんだんと近くなっていくたびにその足音は大きくなっていく。
やがて影だけ見えていたのが体全体の様子が見えてきた。紺色の毛皮に、筋肉質な体……私はその姿をすでに知っていた。
「お久しぶりです!」
「ジャス!?」「ジャスさん!?」
聞き覚えのある声を聴いて、思わず二人で叫んでしまった。もう店に戻っていて、ファランを出た後に会えるとは思ってもいなかったからだ。
「お久しぶりです!」
私は慌てて挨拶をした。前に大きく頭を振りすぎたせいで髪の毛が前に飛んでいく。
そこにゲーシュさんが不思議そうに聞いてきた。
「おや、お仲間ですかい?」
「はい、私は人間の国で喫茶店を営んでいるジャスと申します。それにしても、お二人ともいい反応ですね。ふふ」
すっかり嬉しそうなジャスさんは上品に笑って私たちを見た。
「じゃ、ジャズ?お、お前なんで、こ、ここに?帰ったんじゃなかったのか?」
彼も相当驚いているのか、うまく口が回っておらず、てんやわんやな状態であった。
「えぇ。あの後、予想より帰りが早くなったため、ちょうどいいしこの村によってみんなの様子を見ていこうと思ったんです。実は元からこの村とは昔ながら深い関係でして。そのあとに帰ろうと思っていたのですが、その送った日の夜にあなたたちの帰り道を思い出して、たぶんここに来るだろうなと思いまして。村の人にお願いして待機してもらわせてもらってたんです。……そしたらこんなに滞在するとは思ってなくてしまってね。この村の事にも詳しいので力になれたらなーなんて。帰ったら古いコーヒー豆を棄てて新しいのにしないと……」
ジャスさんは興奮気味であるのか、早口でいろいろと説明をしてくれていた。用意周到なようだ。
「そ、そんなことが……なんというか、ありがとうございます。」
「いえいえ、そんなかしこまらなくても」
私が深くお辞儀をすると、照れ隠しにいろいろと言っていたが、顔は赤くなっていた。その様子を見て思わず笑顔が漏れ出す。
「それじゃあ、行きましょうか!せっかくなので私が案内いたしましょう!」
とジャスさんが珍しく先導してくれた。なんだか今日のジャスさんは気合が入っていてはつらつとしている。
「気合入ってるなぁ……。俺が案内するかと思ってたのに」
私たちの後ろでゲーシュさんが小さく寂しそうにつぶやいたが、すでに数歩進んでいる私たちに聞こえず無視されてしまった。そして後から追うようにおずおずとついていきながら悔しがった。




