21 骨が折れても獣人はへっちゃら 猫
私はベッドに乗り上げ、そのまま体を動かずに調べた。
服は脱がされ、おなかが丸見えである。風呂以外は滅多に服を脱がないのもあるが、最近肉を食べ過ぎでお腹が柔らかくなっており、脱いでいると恥ずかしい気持ちになる。
触診が始まると、まずは肩から異常がないかチェックが入った。
竜人の指は少しひんやりしていて、触るたびにそこが鉄に触れたように冷たく感じる。
落ち着けと言われても多少無理な場面もある。そちらの方が多いくらいだ。
全体的に軽く押して、肩から胸板、おなかにかけて軽く押されたり触られたりした。
くすぐったくはなかったが、その特有の冷たさが神経を強く刺激する。
特に脇腹とか触られたときには「ひゃあ!」と声が無意識に出てしまった。
「すみません……私冷たいんですよね。体質でして」
私は首を横にふる。全力で否定するように大きく振った。
「……とりあえず続けますね。あと少しです」
戸惑いながら竜人はそう言った。
私がなにか伝えようとしているのを察したのだろうであるが、それがわからないようだ。
やはり口で話せないと、あまりにも伝えることが難しすぎる。
また声を出してもいいのだが、先ほどの痛みを経験するととても喋るのが怖くなっていたのだ。
それに、もっと内蔵に刺さってしまうかもしれない。
あのメイドの猫獣人みたいに念話とかでもできないかな……と考えるのであった。
そのまま診察はすぐに終わり、診断結果は肋骨の骨にヒビが入っているということだった。
それだけであった。ただし息を吸いすぎると肺に骨が刺さるそうだ。
だがそれでも半ば奇跡だと言われるほどらしく、竜人さんに「体が頑丈なんですね」なんて言われてしまった。本当か?とすぐに疑ったがその顔に嘘はないようであった。
私は布団から起き上がろうとすると、またズキッと胸に痛みが走ったため、1回安静にして今度は痛んだ胸側の逆を向き、そのまま足を伸ばしベッドの段差で起き上がろうとした。
そしたら無事に起き上がれるくらいには回復したので、胸を抑え壁によりかかりながら彼女のいるベッドに向かって行った。
ただそのときは、彼女に何もなかった。無事で良かったと安心して、気がつい緩んでしまった。
だが、その後が問題であった。
2度あることは3度ある
トラブルに2度巻き込まれたのだから、次でおしまいだろう。
あまりにも突然すぎて状況を飲みこめきれてないが。
部屋の目の前には群衆がいた。
群衆と言ってもとある人達の様子を見に来た人たちがほとんであった。
目の前にいる犬獣人は、私の事を見つけると、指さしてずっと責め続けていた。
「あんたねぇ!なんで人間なんかといるのさ!人間は悪なんだから!人間なんか滅んじまえ」
「……」
私は一生懸命殴りたいという欲望を抑え、拳を握りしめた。
もちろん爪がすでに生えてしまっているが、手に食い込むほど力は入っていない。
それに殴ってしまったらこちらが悪くなる。
なんとか我慢している状況である。
今私の目の前にいるのは、人間反対派の住民の一人だ。
それも過激で厄介なねちっこいタイプであろう。
見た目は少々年を取りシワがあるおばあさんの犬獣人なのだが、目元に大きな傷がある。
うーうーと唸りながらずっと睨みをきかせてくる。
こやつは厄介なことになりそうだ。
こういう人は今までもいくつか見かけたり対処したりしたが、おそらくこの職業の中で一番大変なのではないかという思いもあった。
「なんで口出しされなくちゃいけないんだ?」
ピキっている、とバカにされそうであるが、出さずにいたらもっと時間がかかりそうなのであるためだ。
それを思い返したらそんなことないと思って悶えるのはしばらく後の事であった。
「は!人間は悪だからだよ!この街にいる人間はだいたい犯罪者とか変態とかばっかで悪だったように、人間なんざ悪の塊なんだよ!」
「……」
あの中に半獣人もいたと知ったらどう言ったのだろうか。
経験上、こういう人たちは全く人の意見をきく気がなく、自分の意見をただ突き通して自分たちの味方を作りたいだけだ。こちらも同じようにしよう。
「いいから……通してくれないか?」
「だめだ!人間とつるんでいる人をここから出すわけには行かない!」
「そうよ!……」
するとその声を聞いた人間反対派の住民がわらわらと集まって、あっという間に壁ができてしまった。
ほぼ思った通りだ。
一体どうして、こう群れて一人を集団リンチするのだろうか。しかもそれが体ではなく言葉で精神攻撃だ。私はまんまとその戦略にかかり、イライラが止まらなかった。
もしかしたら殴ってくるより効いているかもしれない。
烏合の衆なりの知恵か。
だがなにか刺激したら「人間の味方だ!」とこじつけられて揉みくちゃにされてしまうかもしれないと予想した。そうなったら本当に肺に骨が刺さる。
「とりあえず、お前らがその道を通してくれるには、俺はどうすればいいんだ?」
「決まってるでしょ?人間を殺すのよ。それしか無いに決まってるじゃない?わからないの?」
そう嘲笑しながらまくし立ててきた。
「わからないんじゃない?この様子じゃあ人間に染まってるからねぇ」
「きっとそう。そうに違いないわ」
後からその群がってきた人たちが今度は私を嘲笑ってきた。
いかにも真顔を保っているが、口角が上がっているのを本人たちは気づいていないのだろう。
こういうやつは獣人の中でももちろん嫌われている。
そういえば、王様も私が国交大臣だったときに一番頭を悩ませていたこともあった。
過去には王様の前に本当に殺した人間を献上しようとして王城を出禁になった人もいた。
さすがに死体を家の中に持ってくるのは頭おかしいのではないか。
それは当時もそうだった。
その人は刑務所に収容されたが、後に人間を全滅させるためだけに牢屋を抜け出して人間の街に行こうとしたのである。何言っても崩れないその不屈の精神だけが尊敬できるな。もっとその力を他に向けてほしいものだ。




