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20 子猫のトイレ

 また……夢を見ていたようだ。

 懐かしい、嘘も混じった夢。


 考え事をしている間に、いつの間にか深い眠りについてしまっていたようだ。

外を見ると朝の横から照らす光ではなく、すっかり太陽が登り上から照らしてしまっているようだった。どうやら結構な時間寝ていたようだ。眠気はなく、スッキリと起きられた。

昨日の晩、あれだけ寝たのにまだ寝れるとは。世程体に負担がかかっていたのだろう。

 私がちょうど起きたタイミングで、ドアが開く音がした。

「マンダさーん、起きましたかね……」

 私はその聞いたことのある声の方向に振り向いた。そこにいたのは、医師の竜人であった。

体は細身だが肩はがっしりとしていて、とても柔らかな表情をしている。夜の時と少し違った表情に見えた。

私に気づくと、すぐに微笑みかけ寄ってきてくれた。

「あら、起きてらっしゃいますね!」

「おはようございます……あの、ここは……?」

 いざ体をおこしてみると、夜見た景色とまるで違うように見えた。なのでつい私は竜人さんに聞いてしまった。

「ここはホテルの療養室です。」

 寝ぼけている私は、目を擦りながら「なるほど」と舌っ足らずに言った。

「睡眠魔法を使って眠っていたらしいですよ。あなたの杖が私に語りかけてきまして……」

「……えっと、ハ?」

「私もあまりわかりません……杖の声なんて初めて聞きましたから」

 龍神さんは私の杖を再度見ると、不思議そうに首をかしげていた。彼にバッグにしまってもらったのに、なぜか今度は私の横に並んで寝っ転がっていた。

 私も杖のことに関しては知らないことが多い。

この杖も、光らせるしか魔法を知らないので、護身用でただ持っているだけだ。

いざというときはこれで人を殴ることだってできると考えていて、完全に鈍器扱いだ。

そんなひどい扱いをしてきた杖がまさかそんなサポートをしてくれるなんて……。そんな「機能」まであるのか。と感心してしまった。

 私はその問題の杖を手に取った。木の感触が前よりザラザラしている気がしたが、その先についている魔法石はかわっていなかった。多分きのせいだろう。

 その石部分を触ると、静電気がピリッと鳴った。すこし強めの電気だったので、怒っているようにも見えた。

 機能とかいうな!ということだろうか。

「ごめんって」

 自然とそう謝っていた。

杖は何も動かなかった。

窓から入ってきた太陽光が反射して当たり、少し宝石部分が明るく見えた。ちょっとだけ心のスキマが埋まったような感じがした。

「どうです?なにか言葉聞こえます?」

「え?あ何も聞こえては来ませんよ……」

 私はさっきのニヤケ顔を見られた恥ずかしさにより恥ずかしくなって、慌てふためきながら否定した。なぜ隣に竜人さんがいるのに、こんな物体に話しかける変な人っぽい行動を取ってしまったのだろうか。私は。

「そうですか……じゃああの声は結局なんだったんだろうな……」

 そう独り言のように呟くと、顎を抑えて悩んでいた。

「ただの疲れじゃないんですかね……」と声をかけてみる。

「いや、一昨日はたっぷり12時間寝ました」

「随分寝ましたね」

 想像以上に寝ていて裏切られたような気持になった。

「なかなか寝れないもので……だいぶ久しぶりに寝られましたね。」

「そうなんですか、医者も大変ですね……」

「そうですね、1日5時間しか寝られないのは体にガタがきやすくて……」

 龍人さんは首と肩を交互に大きく数回回した。

「お疲れ様です」

 と声をかけると、お互いの声が止まり、気まずく思ってしまった。私が勝手に気まずくなってどうする、と自分を鼓舞させる。

「そういえば、お熱とかどこか具合が悪いところはございませんか?」

「はい、特にはないです」

 体中触ったがどこにも痛みはない。肋骨のヒビも今のところ痛むこともなく、深呼吸をしてもなんともなかった。

「わかりました。このあと一応身体検査を受けてもらいますので、その時にまたお呼びします。」

 そこで私は、ん?と引っかかった。

身体検査なんてするのか。今までそんな話は聞いたことがなかった。

「身体検査ですか?」

「はい、そんなにお硬いものでもないですよ。ただ宝石に触れるだけです。」

 宝石に触れるだけ。やはり聞いたことがないものであった。冒険者ギルドとかそういう施設はこの町にあっただろうか?と記憶をまさぐってみたが、ない。私が知っているファランの範囲とは違うところにあるのか、ただ私が見逃しているか。

 罠に嵌められているのかと怪しく思ったが、ここkは疑わずついていくことにする。

「宝石ですか……えと、具体的にはどこを検査するのですか?」

「魔力とか、身体能力とか、思考力とか、ほんとに色々です。」

 個人情報がダダ洩れである。魔力のようなプライバシーなところまで全部晒すのはさすがに怖いぞ。

「そんなのまで計るんですね」

「ファラン内では半強制的にやらないといけないんです、身分証明みたいなものですので。」

 半ば強制的?そんな話聞いたことないぞ。と考えてさらに怪しく思った。

 その場ではわかりましたと返事をして終わり、竜人さんは出て行ったが、やはり怪しさは無くなることはなかった。


 その後しばらく時間が空き、暇だなあと思いながら空を眺めたり、窓に近づいて外にいる獣人の観察をしたりしていた。その窓の先は何回も通った大通りで、昼夜問わずわいわいと賑わっている。いつ休みがあるのかわからないくらいずっと賑わっている。

 さすがにお昼時以外は人が少ないが、それでも道路は直進できないくらいに獣人が多く、夜と昼はまさに揉みくちゃ状態であるのだろう。

 喧嘩はほとんどおこらず、肩がぶつかっても「ごめんなさい」とだけ言って終わる。正直、獣人はもっと獰猛なものだと思っていたが、そんなことはないようだ。ただ見た目がでっかいだけか。

「私なに受けさせられるんだろ」

 そう独り言のように呟くと、ちょっとだけ怖くなってきた。手術を受ける前と同じ気持ちがする。それに、宝石を触るだけと言われたものの、どんな感覚かわからない。のであれやこれやと想像してしまってドキドキが止まらない。

 彼のもとに言ってなにか知ってるか聞きに行ってみよう。そう思い立ち上がると急に強い痛みと便意に襲われた。お腹がきゅるきゅると音を立て、助けを求めているようだ。

「うっ……早くトイレいかないと……」

 幸い、この部屋からトイレまではそんなに距離はない。

 この部屋のドアを出たらすぐ右にあるのだ。そこは竜人さんが教えてくれた。

 漏れそうな中ゆっくりそのトイレに向かって少し屈みながら歩いていると、横の部屋から一緒に誰か出てきた。

 それは、猫の王子様のように凛々しい彼の姿だった。だがしかし、昨日着ていたものとは違う、少し色の薄いものだった。

「あ」「あ」

 2人で目が合ってしまい、少し沈黙が流れる。前かがみの姿勢で薄着一枚でいた私を見て、奇妙なものを見ている顔をしていた。

「何してんの」

「と、といれ……」

と少し苦しそうな声で返してしまった。そろそろ出そうになってきたのだ。

「あぁそういう、急げ急げ」

 急いでうんうんと早く頷き、慌てて部屋から右方向を向いた。

だがそこは男子トイレのみだった。女子トイレはその奥にあったが、なんということだろう。トイレの入口から出るくらいにははみ出ているではないか。 

「だ、男子トイレはいるからちょっとついてきて!!」

「え、ええぇぇぇぇ」

 私は急いで彼の手を取ってトイレの個室へと走っていった。

 そしてそのまま個室に飛び込み、彼に「説明お願いね!」といい、すぐトイレに篭って出すものをすべて出すことに成功した。だいぶ量を出したのでまだ余韻は残っていたが、つまりが取れたようなすっきりした感覚が強かった。

彼は終始戸惑って半分固まっていたが、すぐさま状況を理解してくれたようで、そのままトイレの前に立っていた。

私は体がとても軽く感じた。

「ふいぃ〜すっきりした〜」と言いながらトイレから出ると、彼は仲いい友人を見つけていたようで、廊下に行きその人と話していた。

 その瞬間、私は3人の獣人と目が合った。トイレで談笑中というところだろうか。

 今の私は、男子トイレに入っている不審者に見えているだろう。

 慌てて出て行ってもよかったのだが、その3人に漏れるよりかはマシかなと思って、などいろいろ端的に説明をしたあと、そそくさとそのトイレを出ていった。

 なんでこんなトイレくらいでこんなに大変な思いをしなくてはいけないのだろう、とふてくされて、トイレの外で話している彼を後ろで圧をかけながら待っていた。

 これは許されざる事態である。

 話が終わった後1回腰を突っついた。彼が「ひゃあうっ!」と間抜けな声を出していておもわず笑ってしまった。

彼はつつかれてからすぐに「あっ」と言葉が漏れ出て、すぐにその友人に別れを告げた。だいぶ慌てているなあ、と言うように強くにらんだ。

「……」

 私はわざと腕を組み、怒っているように彼に見せた。彼はそれを見て私の怒りを察知したのかすぐに礼をして頭を下げてきた。

「ごめんって、さっきは悪かった。」

「いいもん、大丈夫だもん。」

 ぷくーっと頬を膨らませてわざとらしくぶりっ子を演じた。だがさすがにわざと過ぎたのか、彼の目が一気に冷ややかになった。

「……もういいだろ、さっさと戻れ」

「ち」

「舌打ちすんな。」

 私はわざとらしく大きく舌打ちをした。流石に釣ることはできなかったか……。

 いつもの彼が私にやってくるようにまんまと釣ってみたいものだが、あいにく彼の感覚が良すぎてとてもじゃないが騙せる気がしなかった。むしろそれすらも予測してくるように行動して、時には反撃もしてくる。

だが悪いような感じはしなかった。言ってしまえばこれは子猫のじゃれ合いと同じなのだろう。



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