19、事件です、事件です。2
何処かで聞いたことのあるような気がする。魔法の念話は少し苦手だ。
『誰?』と私が返すと、壁からかすかに衝撃が聞こえた。
『あ、え?!あの、私お帰りの際にあなた達に話しかけたものです!えっとあの、城の!』
少し記憶をたどると、その姿をやっと鮮明に思い出した。
黒猫のメイド服を着たシスターだったか。
どうしてここで聞こえるのだろうと思ったが、距離的にも外からではなく、言っている通り隣の部屋にいるようだ。
「あーあの時の」
『助けてください!私あの男の人に攫われてるんです!』
「えっ??」
『入口に突き飛ばされた男の人に、私攫われてしまったんです!』
泣き叫ぶような声が頭に響く。
頭痛が出てしまうほどだ。
杖なしで魔法を使っているのもあるが、そもそも耳元で叫ばれているような感覚と似ている念話は苦手であり、その影響で魔力消費がどうしても多くなってしまう。
「それはわかったけど……いつ?」
『あなた達に話しかけて去ったその後、清掃の業務を頼まれてお城の入口を掃除していたら、急に床に魔法陣が現れて、気がついたらここで拘束されてたんです!』
彼女は慌てていて早口であった。私はそれが不思議でならなかった。
その魔法陣をかけた人物は、彼も感じることすらできないくらい隠れるのが上手い手練なのだろうか。
もしかしたら彼の言っている「人間の匂いがした。」というのはこの魔方陣のことを感じ取っていたのだろうか。
真相は怯えて幼児退行している彼にしかわからないことであった。
「えええええ!?あの後!?」
『そうです!助けてください!』
「わかった、けど少し待っててね」
そういって私は結局彼らとご対面するしかなかった。
あきらか和解という道はないように見えるため、戦うしかないのだろうか。
それに私に特別な力はない。杖があるだけだ。
しかし室内のため魔法は使えない。
彼のように筋力もあるわけではないが、なんとなくその動きだけは毎日見ているので少しは覚えることができていた。
それを使えばもしかしたらそいつらも一掃できるのかもしれない。
また外に出ようとすると、ドアに衝撃が走った。
それに外から押されているのか、なかなかドアを開けることができない。
「なんなのこれ……」
と私が嘆いていると、ドアの前から声が聞こえてきた。
「おいおいおい、形勢逆転だなぁ?」
男の人の声だ。
さっき壁にぶつかって尻餅をついていたときの弱々しい声とは違い、ケラケラと笑って馬鹿にしているようだ。
その時私は殺意が湧いた。
あの男は普通に女性に刃物を向けるのだと、直観であるが感じ取った。
ドアを何回も開けようとするが、その女性の体重でびくともしなかった。
「ふざけ、ないで……」
かろうじて出た声の後、血を吐き出したかのようなくるしい咳が聞こえた。
「ふざけてるのはお前だ。いつも俺の言う通りにしない、いつも怪我すると危ないからといってキスすらもさせてくれない。そしてセックスまでも性病がどうたら出させてもらえない。そこでちょうどいい。いいか。お前は犬だ!俺の犬だ!」
高らかに笑う男の声は、ホテル中に響いたであろう。
「この……クズが……やはり最初からその目的だったかああああああああああああっ!!」
ドアの前で繰り広げられる惨劇、わたしはそれをドア越しにして足がすくんでしまった。
だがまだ作戦は途中である。諦めたら目の前で人が死ぬかもしれない。
それに、むしろこっちのほうが誘導できて好都合かも?
私が怯えて耳を塞いでいると、ドアの向こうから頭の上にかけて刃物が貫通してきた。
廊下から悲鳴も聞こえ、思わずひいっと声を上げてしまった。
それに腰も抜けてしまってすっかり立てなくなってしまった。
部屋の中を見ると彼の顔が見える。恐怖で動けないでいるが、しっかりとこちらを見て心配をしてくれているようだ。それに壁の向こうに助けて欲しい人がいる。
私が動かなければもっとつらい思いをする人がいる。
と体に叩き込みながら立とうとすると、不思議と体が治り、体があつくなってきた。
もえたぎってきた。
まだドアの向こうからバンバンと叩きつけられる音がする。
人の声がしてきて、それで人がやっと集まってきているのだと考えた。
そこで、危機感を持ってドアから離れた後、すぐにドアが開かれた。
横ではなく縦にドアが抜かれてしまった。
やつだ。さっき暴れててたやつが入ってきたのだ。
入口にはさっき廊下で彼に怒っていたであろう女性が、血だらけで酷い有様に鳴っていた。
私はそこでその姿をみて部屋の隅っこに吐いてしまった。それが近づいてきていた彼の足に当たると、その足で私は蹴られた。
「ついでにお前もだ!」
脳みそが大きく震え、視界も横に倒れてしまう。また腰が抜けて体に力も入らず、その後は彼の為すがままだった。
「さっきはよくも見逃してくれたな……これだから女は」
といいながら髪の毛を持ち上げられる。
痛いが、体がさっきの攻撃で麻痺しており、抵抗できる力が残っていなかった。
男は無言でナイフを取り出し、私に即座に刺そうとした。
きらりと私にむけてナイフが光る。そして視界全体が涙か何かで眩んでくる。
死ぬ……!と思った瞬間、目の前が真っ黒になった。
ナイフを刺そうとした男に、黒いものが飛んできたのが見えたのが最後の光景だった。
横には、禍々しく顔を歪ませていたカイラがいた。
ぶちギレている。




