17 杖の夢
短めです
「……ん?」
私は、夢を見た。
眼の前で杖が踊っている夢だ。一人で鼻歌を歌って、体をゆらゆらして踊っている。老木を削り出して油かなにかが表面にしみ込んでいて、黒光りを放っていた。頭には黄色の宝石が付いて、それが黄色い光を強く放っていた。黒光る体もあの光の反射。
なんなのだろうか……楽しそうだ。あの中に混ざりたい。と私は思って走り出した。足音はきゅっきゅとかわいらしい音であった。
「なにしてるの?」
私が声を発すると、幼女の声が出てきた。
不思議に思って手を見ると、大体5歳くらいであろう子供の手が見えた。見覚えのある手であった。これは……5歳くらいの私、まだ純粋なセシア・マンダだ。
杖は、薄っすらと見える顔らしき部分をこっちに向けて私のことを見ている。宝石が輝いてとってもきれいだと改めて思った。
「やあ君、こんなところでどうしたんだい?」
杖は、思春期くらいの若々しいはきはきとした声であった。意外な声でびっくりしたが、表情には出ることはなかった。わたしは着ていたシャツを握りながら話した。
「私、迷い込んじゃったの」
「そうかい。どっちの方向から来たかわかる?」
「ん」
私は後ろを指差した。さっき私が歩いてきた方向だ。その先は暗闇に包まれていたが、かすかにその方向から風を感じた。外なのか、魔法的な風なのかわからないが。
その方向を見て深く頷いた杖は、私の頭を見えない手で撫でた。硬いゴツゴツとした手であった。
「あっちの方向はサウス、南だね。とりあえ、僕と一緒にゴー?」
「うん!」
元気に返事をして、見えない手と私の手をつないだ。やはり硬いゴツゴツの手であった。だが温もりを強く感じた。
私はそれになんの疑問も抱かなかった。
杖が顔もなく話しかけてくるのにすら違和感を抱かなかった。この夢の中が全部自然な流れで出来ているのだと無意識に感じ取っていたのだ。
だが、一つだけ思っていることはあった。
これは、私の記憶の中なのだと。
その記憶は、私が封印をしていたのかは定かではないが、この夢を見るまで思い出せなかった、昔の記憶。おそらく米粒のような細かい雪の降る寒い日であっただろうか。
杖といっしょに道を歩いていると、私は急に恐ろしくなって泣いてしまった。この暗闇がいつまでも続いているのがとっても怖かったのだ。
泣いていると、杖の人が透明な腕で私の体を持ち上げ、赤ちゃんのようにあやしていた。ぐるぐると回したりもして、私を飛行機のように演出しようとしていた。
私の体を遠心力が引き起こす風と重力感が包み込む。放り出しそうなその感覚がとても楽しくて、その恐怖は一瞬にして無くなった。
杖の人も私がキャッキャと笑う姿をみて一緒に笑っていた。表情は見えないし笑い声も聞こえないが、なんとなくそんな感じがした。
「随分と強い子だね。僕子供あやすのしょうみ得意じゃなーいのに」
「わたしえらい?」
「うん!とってもえらえぞ!」
「やったあ!!」
地面に着地すると、褒められた嬉しさを発散するように地面を飛び跳ねた。すると足の裏が痛くなった。そこで、そういえば私、裸足だと気付いた。
ジャンプのしすぎて足が痛くなってしまい、歩くのが少し遅くなってしまった。
「……大丈夫かい?」
「うん、わたしつよいから大丈夫!」
「そうかそうか!でも私もいること忘れないでね?急いでいるんだ」
「うん」
「それに、なにか目的を忘れてないかい?」
「なぁに……え?」
杖の人はそう言うと、パッ、と居なくなってしまった。
「杖さん!つえさああん!!」
私は泣き叫んだ。
パッと霧散した様子もなく、一瞬で消えてしまった。
暗闇の中に急に放り出されたのだ。どこに行くかもわからなくなってしまった。
このまま死んでしまうのかと思う程追い詰められ、泣き出してしまった。だがしゃがみこんだ私の姿はいつのまにか大人になっていた。
杖はどこに行ったかと思えば、それは本当の杖となって私の背中に背負われていた。




