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猫の紳士と翻訳家の異種恋愛物語  ~獣人と人間の恋愛の行方や如何に~  作者: トリ寝る
2章

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16 路地裏には危険がいっぱい

 やがて道を進むと、メイン通りを曲がり、暗くじめじめとした根暗な雰囲気の裏路地に入った。


 こんなに暗いとエーテルではたまにカツアゲとかがあるのを想像してしまうが、ファランではなにか出ないか心配になる。

 だが彼がいるし、しかも店員さんもいるのでその辺りは心配することが薄れた。


 先にT字路が見えて、そこを曲がると1本道へとつながっていた。


「この先が目当ての工房さんです、さっきの店の真後ろにあるんですよ。」

「ずいぶんと薄暗いところにありますね」

「工房主さんが暗いところが好きなので……」


 店員さんは世間話をしつつ、その工房主のことを教えてくれた。


 その工房主はどうやら獣人でもなく、リスのようだ。リスといったら、あの大きな尻尾に小さな手足の姿に、よく伸びる頬を持つあのリスを想像した。


 だがそんな手先器用に作れるか?と一瞬思ったが、店先に並んでいた宝石たちや毛玉のアクセサリーを作っているといわれると、その器用さに納得がいった。

 またそのリスの工房主は、他獣人との関わりがすくなく、態度も冷たいことが多いそう。


 親戚の人にすら人見知りをするくらいらしい。私と多少は似ているところがある気がした。気のせいだと思うが。


 また、工房は非常に狭く、その中に米粒程の大きさでも数百万円の価値が付く大事な宝石がたくさんあるので、中を歩くときには気をつけろとのことだ。


 私は「はい」と返事をして、その工房に向かって歩いていった。


 店員さんの耳が尖っていくのがかすかに見えた後、前から嫌に卑しい視線を感じた。


「へっへっへ……」


 その笑い声から複数人いるのがすぐにわかった。


 不気味な笑い声が四方八方から聞こえてくる。

 そのあまりの不気味さに気持ち悪いほど鳥肌が立った。


 今すぐにここを逃げたい気持ちもあったが、後ろもすでに塞がれているようだ。


 上を見上げると、そこには人間、それに交じって獣人、めずらしい半獣人もいた。数えたところ、顔が見えるだけでもざっと40人。


「お前らぁ!今日こそは獣人をとっ捕まえてやるぜ!」


 おー!と歓声が上がる。表市場には聞こえていないのだろうかと心配に思うくらいだ。


「人間?!何でこんなところにこんなたくさん!」


 彼がそう言っても、だれもわからないらしく、返答はなかった。


「今回の敵捕まえたら大物だぞ!かかれぇ!」


 1人のリーダーらしき声の高い人物が声を張り上げる。


 私の戦闘技術は、杖の宝石に付与されている電気魔法と通常攻撃魔法しか無い。なにせ家の中に引きこもってずっと言語の研究をしてばかりで、体術とかも学ぶ暇がなかったのだ。


 彼は猫なのでそれなりに反応できそうだが、流石にこの人数は危ういだろう。


 その頼りにしている彼を見ると、毛を逆立て爪を尖らせながらシャー!と威嚇している。さっそくその殺気を強く感じたようだ。


 どこから来ても良いように私も彼のように警戒していると、急に前から赤色にも見える怒りのオーラ的なモヤが充満している。


 店員さんから出ているようだ。私たちの毛全体がその怒りのオーラを感じて逆立っていた。


「あなたたちこれで何回目なのよ!!」


 店員さんが叫ぶと、辺りに衝撃波が伝わった。音速をこの身で感じたようだった。

思わず私も彼も、鼓膜が破れそうに感じて耳をふさいでしまった。


 いったいどこから声を出しているのだろう、この人は。と思いつつもその恐ろしい姿を見ると、さっきの優しい顔とは豹変してグルルルと唸り声をあげていた。


 まさに番犬のようである。


 その声に怯んだ人が何人か逃げていく。屋根の上でトコトコと走っていく音が聞こえた。「ひぃっ!」「にげろぉ!」「やっぱだめだぁ!」という声も聞こえてくる。


「チィッ!覚醒しやがったか」と一人が叫んだ。


 店員さんが足を一歩前に出すと、地面が踏み込んだ勢いで抉れた。威嚇しているようだ。


「私のこと舐めるんじゃないよ!これでも一応元戦士なんだからね!」


 その声は、とてもさっきの人と同一人物とは思えないほどに低く鋭い声であった。すぐに、この人は強いと恐怖を感じる。


「あの役立たずどもがぁ!!もういい、残った奴らで総攻撃だ!後ろの女を狙え!囮にする!」


 といって敵の首謀者らしきやつが私を指さした。


「え?私?」

「下がって。」


 彼が手で私をかばうように向かった。


 やはりこの中で唯一人間である私が狙われるのか。


 彼に頼ってもいいが、流石にこの人数から私を守りながら二人で行くのは厳しいのではないか。


 先ほどの脅しで人数は減ったにしろ、18人くらいは残っている。18人対3人(私は戦えないので実質二人)になるのでだいぶ厳しいことになる。


「心配しないで、俺達が庇うから」

「そうよ!獣人族を舐めてもらっちゃあ困るわ!それに元々私がここに誘導してしまったせいでこんな目にもあってるんだし、責任取らないと!」


 獣人族の二人が私に向かって微笑んでくれた。その笑顔はとてもたより強かった。


 そしてすぐさま私に背中を向け、警戒体制に入った。


 必要はないと思うが、私は雷の杖を持って体を丸めた。

 すぐに対応できるように周りを見渡しながら。


 ちょうどそのタイミングで後ろから警察も駆けつけようとしていたが、やはり店員さんの気圧と彼の威嚇に怯えているのか、なかなか動かなかった。


 それを皮切りに敵たちが目の前に来た。舌なめずりをしていて、格好の獲物を見る鋭い目だ。こんな騒ぎなのにまわりには警備すらいなく、危機を感じた住民が窓を閉めて身を守っているだけであった。


「警察も使いもんにならねぇみたいだな!」


 と挑発口調で舌を出しながら言う。明らかバカにされているようだ。


「黙れ、お前らはすべて私達が倒す。私の妻に近寄るな。」


 彼が低い声で唸りながらそういった。さすが私の夫である。とても凛々しく頼りがいのある背中をしている。

 

 何よりも私を優先してくれているようで、その言葉は安心感があった。

 大きな壁が私を守ってくれているように感じた。


 そしてそれを舐め回すように見ている敵たちが、とても気味が悪かった。


「人妻かぁ~!うまそうだな!野郎ども!やれー!」


 そう叫ぶと一斉に私達にその集団が襲いかかってきた。


 一人が混紡を持って走っていき、店員さんの方に向かっていく。だがその姿に億劫にならずに構えを崩さず、ただ目の前の敵に集中していた。相手が棍棒で殴ろうと振りかざし上げると同時に、その人のお腹を蹴った。ドン!と激しい衝突音がして、まさかの後ろにいた人ごと吹っ飛んでしまって、約3人が地面に倒れた。


 とてつもない力だ。この店員さん何者だよ!と声には出さずに怯えてしまった。


 彼の方にも同時に敵が襲いかかってきていた。鎌のような刃物をもっていて、とても強そうだ。


「伏せろ!」と言われて私はそれに合わせて頭を抑えながら伏せた。すると頭の上を刃がかすめ、間一髪のところで攻撃を避けた。


 その刃は敵の鎌だ。大きく横に振って中距離攻撃をしている最中に彼が素早くその腕の下にはいり、同じくみぞおちを殴ってふっとばした。そのタイミングで同時にもう片方の手を伝って鎌も取り、刺しはしなかったが、首元に刃を突き立てて「指一本触れるんじゃねぇ」と威嚇したら、そのまま怯えて逃げていってしまった。民衆の中に突っ走り、警察に向かって自暴自棄に自首し捕まっていたのが見えた。


 既に4人がやられたことにより、勝ち目がないと割り切った集団の数人が走って自首をしてしまった。持っていた武器も途中で投げ捨て完全に捕まりに行ったようだ。


 彼は奪った武器を持ったまま敵を威嚇し続けた。その鎌は稲刈りの鎌であった。


 残りの敵たちは、他の敵たちに意味ありげな強い舌打ちをし、私達のことを見てはにやにやと不気味な笑みを浮かべていた。やはりその視線の先は……私である。


 さっきのようになればきっと同じく蹴りが付いて終わるのだろう。だがこいつらはさっきの奴らよりもオーラが黒くまとわりついているようで、強いと確信させるものだった。


「ヒィヤッハァーーー!」


 耳につんざくような奇声を上げながら、短剣を持った男が襲ってきた。


 前のやつより足が早く、一瞬で彼の元に近づいてきた。


 ナイフを前に向けて刺そうとしたが、その手を彼が掴み、もう片方の腕を使い、肘で背中をぶっ叩いた。木の枝をおるように驚くほど軽く折れたその腕をつかんだまま彼は離さない。いでででと悶えるやつを横目に、そいつを器用に後ろに飛ばして店員さんに向かってきているうちの一人を倒した。うわぁー!と叫びながら数人吹っ飛んでいく様子は、まるでボウリングのようだ。


 店員さんは走ってきた残りの2人を足蹴りでなぎ倒し、倒れた拍子に開いた股にそのまま蹴り込んだ。


「あひぃん……」


 その盗賊は股間を抑えて悶えた。女性にはわからない痛み、男でドンマイだったな!と心のなかでニヤついた。


 そこでその金的を回避した男が私に向かって駆け寄ってくると、今度は店員さんの拳をギリギリで避け、ついに手が届く間合いに入った。そのまま手を掴まれ連れてかれる、かと思いきや、その手をさらに掴み、店員さんが首元をおおきな口で噛んでしまった。


 犬歯がその手に驚くほど軽く突き刺さり、首からは血が吹き出している。


「ぎゃあああっ!」と男の叫び声が聞こえた。だが男は痛みに負けず、掴んでいた手を離してもう一方の拳を店員さんのお腹に叩きつけた。その1発は強烈で、しかもいいところに当たってしまった。息が吹き出し、店員さんが苦しそうに咳をしていながらも、今度は地面を強く蹴り、手を噛んだ。

噛んだ手は放さなかった。男は一瞬は笑ったが、思わず目を店員さんと合わせてしまい、そのまま恐怖に陥った。


「……っ!何なんだ!」

「わらしおきたへあけたひふはいをなめんな!」(私の鍛えあげた肉体を舐めるな!)


 そのまま男は血だらけの手を無理やり離された後、すぐに殴り飛ばされ気絶した。さっきの男と同じように、お腹に一発大きいのを入れられたようだ。おそらく肋骨が折れている。驚くほど男はきれいに吹っ飛んだ。


 そして敵は一時的に怯み、おびえて足が動かない状況までもっていった。こちら側の勝利と言っても過言ではないだろう。獣人とは、みんなこんなに強いのだろうか……私の頭は困惑でいっぱいだった。


 その後も続々と自暴自棄になった敵が来たが、2人のヘビのような見事な体使いでその後も私に影響もなく終わっていた。杖の効果も発揮せず、ただ私はうずくまっているだけであった。


 さすがに大人数を相手にしていたせいか、2人の息は切れて、彼は膝をついて休んでいる。その地面には何人もの男たちが倒れていた。ほとんどは目覚めていたが、どこか怪我をして動けないでいるか、恐怖で体がすくみ腰が抜けて動けなくなっていたり死んダフリをしているものまで居た。


 少し経ち、歓声が沸いた。気が付いて辺りを見渡すと、窓から多くの観衆がほめたたえてくれていた。


「すごい!さすがすぎる!」「強いなあの人!国の護衛かなんかか?」「俺こっそりぜんぶ見てたぜ!」などなど、色々と聞こえてくる。


 それに気づいた店員さんと彼は一目散に奥へと逃げていった。


「ごめん、すっかり目立っちゃったみたいだね、早く行こうか」

「えっ、うん、ってわぁ!ちょっと待って早い早い!」


 2人に脇の下を抱えられ、私は勢いに乗れずに宙ぶらりんになりながら連れて行かれた。


 一体この2人は何者なのだろうか。改めてそう思い、少し怖くなった。

 あと覚醒って何?

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