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16 人間反対派

 私はベッドに乗り上げ、そのまま体を動かずに調べた。服は脱がされ、おなかが丸見えである。風呂以外は滅多に服を脱がないのもあるが、最近肉を食べ過ぎでお腹が柔らかくなっており、脱いでいると恥ずかしい気持ちになる。

 触診が始まると、まずは肩から異常がないかチェックが入った。竜人の指は少しひんやりしていて、触るたびにそこが鉄に触れたように冷たく感じる。

 落ち着けと言われても多少無理な場面もある。そちらの方が多いくらいだ。全体的に軽く押して、肩から胸板、おなかにかけて軽く押されたり触られたりした。

くすぐったくはなかったが、その特有の冷たさが神経を強く刺激する。特に脇腹とか触られたときには「ひゃあ!」と声が無意識に出てしまった。

「すみません……私冷たいんですよね。体質でして」

 私は首を横にふる。全力で否定するように大きく振った。

「……とりあえず続けますね。あと少しです」

 戸惑いながら竜人はそう言った。

私がなにか伝えようとしているのを察したのだろうでありが、それがわからないようだ。

 やはり口で話せないと、あまりにも伝えることが難しすぎる。声を出してもいいのだが、先ほどの痛みを経験するととても喋るのが怖くなっていたのだ。

あのメイドの猫獣人みたいに念話とかでもできないかな……と考えるのであった。

 そのまま診察はすぐに終わり、診断結果はやはり肋骨の骨にヒビが入っているということだった。だがそれでも半ば奇跡だと言われるほどらしく、竜人さんに「体が頑丈なんですね」なんて言われてしまった。本当か?とすぐに疑ったがその顔に嘘はないようであった。

 私は布団から起き上がろうとすると、またズキッと胸に痛みが走ったため、1回安静にして今度は痛んだ胸側の逆を向き、そのまま足を伸ばしベッドの段差で起き上がろうとした。

 そしたら無事に起き上がれたので、胸を抑え壁によりかかりながら彼女のいるベッドに向かって

 

 彼女に何もなかった。無事で良かったと安心して、気がつい緩んでしまった。

 だが、その後が問題であった。


 2度あることは3度ある

 トラブルに2度巻き込まれたのだから、次でおしまいだろう。

 あまりにも突然すぎて状況を飲みこめきれてないが。


 目の前には群衆がいた。群衆と言ってもとある人達の様子を見に来た人たちがほとんであった。

 目の前にいる犬獣人は、私の事を指さしてずっと責め続けていた。

「あんたねぇ!なんで人間なんかといるのさ!人間は悪なんだから!人間なんか滅んじまえ」

 私は一生懸命殴りたいという欲望を抑え、拳を握りしめた。もちろん爪がすでに生えてしまっているが、手に食い込むほど力は入っていない。

なんとか我慢している状況である。

 今私の目の前にいるのは、人間反対派アンチヒューマンの住民の一人だ。それも過激で厄介なねちっこいタイプであろう。

見た目は少々年を取りシワがあるおばあさんの犬獣人なのだが、目元に大きな傷がある。うーうーと唸りながらずっと睨みをきかせてくる。こやつは厄介なことになりそうだ。

こういう人は今までもいくつか見かけたり対処したりしたが、おそらくこの職業の中で一番大変なのではないかという思いもあった。

「なんで口出しされなくちゃいけないんだ?」

 ピキっているwとバカにされそうであるが、出さずにいたらもっと時間がかかりそうなのであるためだ。

それを思い返したらそんなことないと思って悶えるのはしばらく後の事であった。

「人間は悪だからだよ!この街にいる人間はだいたい犯罪者とか変態とかばっかで悪だったように、人間なんざ悪の塊なんだよ!」

「……」

 あの中に半獣人もいたと知ったらどう言ったのだろうか。

 経験上、こういう人たちは全く人の意見をきく気がなく、自分の意見をただ突き通して自分たちの味方を作りたいだけだ。こちらも同じようにしよう。

「いいから……通してくれないか?」

「だめだ!人間とつるんでいる人をここから出すわけには行かない!」

「そうよ!……」

 するとその声を聞いた人間反対派の住民がわらわらと集まって、あっという間に壁ができてしまった。ほぼ思った通りだ。一体

どうして、こう群れて一人を集団リンチするのだろうか。しかもそれが体ではなく言葉で精神攻撃だ。

 イライラが止まらなかった。

もしかしたら殴ってくるより効いているかもしれない。

 だが殴ったら「人間の味方だ!」とこじつけられて揉みくちゃにされてしまうかもしれないと予想した。怪我をしている身なのになんということだろうか。

「とりあえず、お前らがその道を通してくれるには、俺はどうすればいいんだ?」

「決まってるでしょ?人間を殺すのよ。それしか無いに決まってるじゃない?わからないの?」

 そう嘲笑しながらまくし立ててきた。

「わからないんじゃない?この様子じゃあ人間に染まってるからねぇ」

「きっとそう。そうに違いないわ」

 後からその群がってきた人たちが今度は私を嘲笑ってきた。

いかにも真顔を保っているが、口角が上がっているのを本人たちは気づいていないのだろう。


こういうやつは獣人の中でももちろん嫌われている。

 そういえば、王様も私が国交大臣だったときに一番頭を悩ませていたこともあった。過去には王様の前に本当に殺した人間を献上しようとして王城を出禁になった人もいた。さすがに死体を家の中に持ってくるのは頭おかしいのではないか。

 その人は刑務所に収容されたが、後に人間を全滅させるためだけに牢屋を抜け出して人間の街に行こうとしたのである。何言っても崩れないその不屈の精神だけが尊敬できるな。もっとその力を他に向けてほしいものだ。


 さて、私が聞かないふりをしていても嘲笑はおさまるどころかヒートアップしていった。

 このまま無視もいいが、それだと胸糞悪くなる。できるならうまいこと言って黙らせたいが、そんなの聞く耳すら持たないのだろう。

「あなたもしかして馬鹿なのね?私達の言うことも理解できないやつなんだわ」

「そうよそうよ、人間と同じ、多様性とか言ってさ?何でも受け入れて自分から危険な足場を進んで、見事に足を踏み外すの。」

「なんとも残酷なものね、おお哀れ哀れ!」

 所々突っ込みたい気持ちは置いといて、イライラを抑えるように自分を言い聞かせ、冷静になることに専念した。だがその奴らの声が異様に高く、耳に嫌と言うほど突き刺さってくるような声を出して、その声は段々とエスカレートしていった。

 王様が一種の国家問題っていうのもわかるなあ……。私はため息を大きく吐いた。

「もう!この人話を聞かないから、私達がやっちゃいましょ?」

「そうね、爪でひっかけばそのうち死ぬわ」

「邪魔よ!お退きなさい?」

 そう言ってその病室に群がって入ろうとしたが、私は入ろうとしてきたやつに爪を向けた。

 さすがに中に入らせるわけにはいかない。

「その前に、一つ質問でもいいかな?」

「ひ」

 その一番乗りに入ってこようとしたやつは腰を抜かし、哀れに逃げ、部屋の角でゴメンナサイごめんなさいと嘆いていた。

「やっぱり、人間の味方なのね!この人間の奴隷(ペット)が!」

 罵詈雑言を浴びせてくる。

最悪な言葉、当たり前のように生きる権利を侵害してくるから、どうみたって私は人間よりも悪いやつにしか見えないのだが、気にする必要もないか。

「なあ、一つ質問に答えてくれないか?」

「「「奴隷に口無しよ!」」」

「答えろ。」

「っ……何なのよこいつ……」

 3人同時に言いかかってくるのは如何なものか。

 結局言葉は通じない奴等ばかりなため、力でしか眼の前のやつを制圧するしかないのか、と悟った。そこから彼女らが去るまで爪を引っ込めないことにした。

また爪を前に向けると、その私の研ぎ澄まされた爪が、真っ直ぐな線のような目が、唸る口が、そいつらの動きを止めた。

 その瞬間だけ、とても静かだった。私が、怒っているのに億劫したのだろうか。

 なんだ、話を聞けるじゃんか。と少しは安堵した。

「俺等の種族は、獣人国(ファラン)に住むファリア族だろ?ファリア族は別名なんという?」——ファリア族という名前は人間反対主義の人しか使わない言葉である。意味はこの国に住んでいる獣人のこと。——

 そう問うと、なぜかすぐに答えられるはずなのに、ヒソヒソと話をし始めた。わからないふりをしていたり、どうにか人間を悪にしようと思考を巡らせ、悔しがって言葉に詰まっていたりして、。

 前者はいいとして、後者はもう耳を貸さなくてもいいだろう。

「……獣人族?」

 と、とある女性が言った。明らか恥ずかしそうに、耳が垂れ下がっている。

 誰かがその女性に非難を浴びせようとしたところを私は遮った。

「じゃあ、なんでその文字に、人を表す文字がついているんだ?」

「そりゃあ、人が作った言語だからでしょう?」

「なるほど。では、なぜ私達に人を表す文字を当てた?」

「確かに、なんでなのでしょうかね?」

 そいつらは動きを止めて真剣に考えだした。

 図星を突かれたかのように、焦っているものや困惑しているものが大半だ。中には歯ぎしりをしていたり、考えるのを放棄してイラツイているのだろう。

 それにしてもなんでここで止められているんだろうか。ずっと私はここにいるだけなのに、なんで私を押しのけて入ってこないのだろう。こういうところ、意外と正直なのだろうか。

 ……私はここから歯止めが若干効かなくなってきていた。私自身がが怒っているようにも、泣いているようにも思えた。

「答えは、人間が私達を同じ人だと認めたからだ。」

「それだけは違う!絶対に!」

「どこが?」

「人間が、認めるはずがない…………。」

 そこからは何も話せないようだった。集団で恥ずかしくないのか。

 そう、大抵の人間反対派は、ただ人間に嫌われていると信じ込んでしまった獣人たちである。これは王様も察していたようで、人間と交流するきっかけの一部にもなった。

それに該当したのか、我に返って素直に下がっていった獣人を複数人見かけた。

 それでもまだ一部はいいたいことがあるらしく、声をあげようとした。

 私もなんというか、説得する気力が少しずつ無くなってきた。

だがまだ言いたいことはある。

「人間にはもうすでに認められているのに、なぜこちら側はそれを認めないのだろう?人間の中にも獣人族を毛嫌う人もいる。あなたたちみたいな人たちが。だが、そいつらは同じ人間からも避けられている。」

 そう思ったことをつらつらとストレス発散代わりに語っていると、一人が前に乗り出して反撃してきた。虎であったため威圧感はすごかったが、日和るほどでもなかった。

「だからなんだっていうのよ!私達の祖先は嫌われて育った!一部の人達は老人の話を聞いて、実際に非難しているじゃないか!」

「……さっきも言った。一部の人達だけ。それと祖先の嫌われ時代と今は変わったんだ。」

「変わってなどいない。実際路地裏でのさっきの事件を私は見た!あんたらが人間に襲われていたところを!!」

 そうだそうだと皆が言う。

 話を聞ける人物はいなくなってしまったようだ。爪を向けながら話す。

「だから、一部の人達だけとさっきから言っているはず。」

 これ以上は言わない。理解してもらえないのだから。

「それに、「そんなやつらがうじゃうじゃいる」というが、それは人間全員に言えるか?私の妻も、獣人属を嫌っているといえるのか?」

「そうだ、だがアイツだけ例外だ。」

 この回答は、人間の国を見たことない人たちだから仕方ないと割り切ることにしよう。

「そうかな。私には少なくとも、あなたたちが人間を嫌って偏見つけてるけだと思うけどなあ。」

 先ほども言った通り、それが彼女らが自ら気づいてない本来の目的なのである。

「なにを出鱈目を!」

 殴りかかってこようとした手を慌てて受け止めた。

手慣れているような素早い手つきだ。何回もやっているのだろうか。

「なにって、今君たちが実行していることさ。ただ人を嫌って人と関わっている私でさえも悪者に仕立て上げる。ほら、周りを見てみ?」

 そういうとそいつらは様々な方向を振り向き、周りに人が集まっている事実を見た。

 ある子供が噂話をする。

「あれおまえのお母さんじゃん!はっず!」

「私のお母さんもいる!」

「あの人人気なのかな」

「ままやめてー!」

 のんきな子供もいるようだが、ほとんどは見るからに引いていた。中には泣いている子もいた。

子供にもわかるくらいバカなことをしている自分たちを見て、この人たちは果たしてどう思うだろうか。

 やっとしくじりに気づいたそいつらは、謝りもせず舌打ちをしてそそくさと散り散りになり、子供たちに「わるいことしたんだからあやまらないの?」と聞かれて顔を赤くしていた。そして子供達には屁理屈を教えていた。半ば強引だったり、もうあきらめていたり。

 見ていた人たちもやっと終わったかとほっと一息ついたのか、散り散りになり各自の部屋に戻っていったようだった。

 私は額の汗をぬぐった。


「ふぅ……つかれたな……」

「ん……」

 後ろから布団がこすれる音がした。やっとマンダが起きたんだ。とすぐに直感し、ベッドの横に走った。

「マンダ!」

「ん……ん?あれ?どうしたの?」

 彼女は目を擦り、布団の中に居ながら体を伸ばしてあくびをしていた。

「どうしたも何も、心配したんだぞ!殴られて倒れたもんだからさ!」

 私は泣きそうになりながらベッドの横に走った。

 彼女は目を擦って手首についている紙の腕輪を確認した。

「うん……そうなの?あと、なんだろうこれ」

 彼女はまだ意識がはっきりしないようである。

だがわずかに目に涙が溜まっていた。私の顔を見ると声も出さずに口は笑い、私はそれを見て心から安心し、泣き出してしまった。

「でも、なんか怖かったのは覚えてる、ってそんなに泣かないでよ、せっかくきれいな毛が濡れちゃうでしょ?」

「だって……あいつに怪我させられてないか心配で……っ!」

「あはは、ありがとうね。」

 彼女は私の頬を撫でてくれた。その手に私はぐいっと猫のように顔をこすり当て甘えると、吹き出して笑ってくれた。

「いつも真剣な姿しか見てないし、新鮮な感じがする。」

「今日だけの特別」

「そうなの、じゃあめっちゃ堪能しちゃおうかな」

「堪能して、いっぱいなでて」

 なでられるのはあまり慣れていないが、自然とあまえる姿になっていた。

「あっはは!ゴロゴロいってる!子猫ちゃんだねこれだと」

 彼女が私の頬を持って顔を挟み、目を合わせながら言った。その目は輝いていて、夕方の太陽の明かりが反射していた。

「今だけな」

 そう、自分に言い聞かせるように、言った。もう胸の痛みなどどこかに消えてしまったように感じた。

 なんだかこの瞬間だけ、彼女がまるでお母さんのように見えた。

 やっぱり、彼女と結婚して、本当に良かった。

 そう改めて思った瞬間でもあった。


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