12 吟遊詩人のように語る癖
区切りがわかんないので長めです
私達は、おそらく接待室であろう奥の部屋へと連れられ、そこで金色に輝く豪華な長椅子に二人で座らされた。王様は二人用かと思うくらい大きな椅子にすわってゆっくりとしていた。
座るとすぐにメイドがすぐに目の前に紅茶を出してきた。
王様はその紅茶を一口飲み、カイラに問いかけた。
それも手を広げて、ご機嫌に。
「どうだいカイラ?最近は、人間とは揉め事起こしてないかい?」
「大きな問題は今のところないですね。私と他の獣人も人間の文化に深く関心を示している様子。また人間に合わせるのを意識できていますし、人間も獣人を理解をしてくださり、こちらに合わせてくれています。まだ多少の問題点はありますが、いまのところ共生はできていると思います。反対派閥ももちろんいらっしゃいますがね。」
まるで面接の時のように緊張している彼は、お手本文のような言葉でしゃべっていた。
「やはり反対派閥もいるのか、規模は?」
「まだ30人程度の規模ですが、いまのところ弾圧されて碌に活動できないという状態だと思われます」
「ならまだ気にしなくてもいいだろう。100人程度になったら手紙をくれ。」
早速ミッション1が出てきた。私はそれをすかさずメモする。
「では、マンダさんの方はどうでしょう、なにか噂とか聞いておりますかな?」
「は、はい、えと……」
私も緊張しきってどもってしまったが、王様を見るとなぜか緊張が少しだけ解れた。
元から猫好きなところが功を奏しているのかな。
「私も獣人のことについての噂はかねがね聞いておりまして、「カイラ様イケメン」「カイラさんかわいいよね」など、さまざまなことを言われており、いいことが多いです。それにほかの獣人さんたちも相当気を付けているようで、そこもカイラと同じくいい評価につながっています。それとこちらでも同じく大きな問題はここ数ヶ月聞いていませんね。せめていえばこちらの事ですが、内政が少し乱れがちなのが危ないです。」
「内政はそちらの問題だな。それにしても、イケメンだと?あっはっは!それはよかったな。ならそのままマンダさんと今のまま穏やかに過ごしてくれたまえ!」
大胆に笑う王様は、馬鹿にするというよりかは褒めてくれているという印象が強かった。
「了承しました。ですが問題がいつ起きるかわからないので警戒態勢はつけてあります。」
「なるほど、心強いな!」
彼は頬を赤らめて恥ずかしがりながらも、のどを鳴らしては照れををがんばって隠していた。
咳をするのは失礼かと一瞬びっくりしたが、咳くらいは獣人同士じゃあ仕方がない。
毛玉やほこりなどで咳やくしゃみは止めたくても止められないので仕方ない。という解釈らしい。
ただし何もガードせず直接かけるのはさすがに無礼らしい。それは人間でもそうか。
席をした後、前においてあった紅茶をちょっと飲んだ。
私も一口飲んでみたが薄かった。
味を感じやすい猫獣人向けの味だ。
そして一口飲んでコップを置いた後、彼は真剣な表情をした。
「先ほどの話に付け加えて話したいことが。」
「ほう、なんだね?」
「実は……彼女がいなかったら、私はここに帰ってくることはなかったと言ってもいいです。」
「ほう?興味深い。」
私はコーヒーを吹き出しそうになり、慌てて口を押さえた。
何それ!何も聞いてないんだけど!!?という驚きからなったものだ。
それでもお構いなく彼は話し続ける。
「それはある日、彼女と同棲を初めてからまだ1ヶ月も経たない頃でした。」
彼はまるで吟遊詩人のように優雅にそのことを話し始めた。リラックスしてきた証拠だ。
そして私がどれだけ素晴らしいのか、自慢の妻なのかを語る気だ。これは長くなるぞ、と私は思い、王様もニコニコだがこちらに向けてくる視線は奥行きのない退屈な目であった。
おそらく王様も知っているのだろう。
彼のこの自慢癖はちょっと変な一面であり、逆に私が彼に思いを寄せたきっかけでもある。
そういえば、あの日もそうだったような……。
「……それは私がまだエーテルに慣れていなかったときに、人間が作った「パン」という食べ物を食べたことです。パンは、獣人で言うところの「パオ」であります。ある日彼女に誘われ、パンを買いに外出したすぐ後、家の前に人間の傭兵団がいたのです。その人達は私を外国から来た珍しい者と認定され、私についての調査をしに来たようでした。」
そこで彼は言葉を区切って私の方を見つめた。「思い出したかい?」とでも言う様だ。
その時だけ妖艶な笑顔で、やはり「あのこと」だとわかってしまった私は、思わず彼と目を背けてしまった。
それを見て王様はふふふと笑った。目は笑っていなかった。
「傭兵団の人たちと一緒に、私達は王宮に行き色々聞かれました。ですがそれは半ば尋問のようなもので、質問というよりは詰問されているようであります。今思えば、おそらく獣人に差別的な人だったのでしょう。
その中に、なぜ人間と番を持っている?と聞かれたのです。その時には明らか敵意を向けられていました。無理やり理由を作らせられて、まずい立場だったのです。
私が応えようとすると彼女が私を遮り、私の好きなところ、いいところ、そして性格や人間に危害を加えないかを、まるでその傭兵団を説得、それどころか論破をするように10分もの時間語り始めたのです!
それで私たちの疑惑、愛はその傭兵に受け止められ、尋問がきっぱりと止みました。それどころか私達の成功を願って花束までもらった始末です!
そして……後日改めて聞いた噂話なのですが、エーテルの偉い人が私のことを不審に思い、調査をして、彼女が私への愛を語っていなければ強制的に破局させられてしまうらしかったのです。今ではその人も改心して、未だに交友関係があります。」
「……。」
「……?」
少しの間、話しきって満足した彼の呼吸音だけが部屋に響く。どんだけ熱く語っていたのか、と私は恥ずかしがりながら思った。私は彼の愛のこもった話を聞いて顔が赤くなり、王様はあまりにも熱く語る彼に顎を抑えて話をかみ砕こうとして、困惑している様子であった。
いい話ではあったが、別に今いうことではないだろう。王様もたぶんこう思っている。
なるほどこれは屈辱的……じゃないけども。嬉しいけども。何より王様が困ってしまうじゃないか。それに関係ない内容であるので時間の無駄だ。
いろいろ突っ込みたかったが、空気がひりついて何も喉から出なかった。
彼は王様が何も話さないため困惑して首をかしげて王様を見る。王様は頭を抱え、ため息を1つついて息を整えた。
王様は手を組んで肘をつき、再度頭を上げては頭を支えてため息を吐いた。
「はぁ、なるほど。君たちの愛はよーーーーーーくわかった。だが正直勢いよく話しすぎて何が言いたかったのかさっぱりだ。カイラ、とりあえず座れ。」
「……はっ」
指を刺されて強めに言われてしまった彼は、尻尾を立ててまずいとやっと感じ取ったようだ。
愛は人を眩ませるというのはこういうことだろうか。
王様は紅茶を一口で飲み干し、彼を見た。その目つきはさっきよりも鋭かった。
「改めて聞くが、つまり人間とはうまく行っているのか?」
「は、はい!そうです。」その後話していいのか困っていると、「詳しく言っていいぞ。」と許しが与えられた。
「少なくとも今住んでいる国の中に、先ほど話したように私のことを追い出そうとする人はいないです。また先ほどの件で私は人間の国の信頼を得ることができたので、私以外の獣人などに対する印象もそのうち変わってきております。」
「ほお?そうつながってくるのか。」
王様はやっと理解ができた、というように深くうなづいた。
こんどは私の方に向かってニコッと笑ってきた。
「なんとも良い夫を持ったものだな。マンダさんや?」
「あっ……はい…………。」
その笑顔は何とも言えない怖さがあった。嫉妬?かと思ったがそんなわけないよな……。
結果、彼の挽回によって、崩れそうな空気がなんとか王様に好印象に見られた。
というよりは、なんとかなっただけだろう。
あまりにもベタベタで妬まれているような感じがするのだが、これはこれでうまく行っているというのは伝えられたし、良いのだろう。良いのだ。これで。うん。
王様の尻尾がピンと立っているのがマント越しに見えるがそれもたぶん関係ないであろう。と心の中で信じ込ませた。
「まあいい。じゃあカイラ、前手紙で送った件はどうだ?実行できそうか?」
「はい、種族間留学の件ですか。それなら心配いりません。先程も言ったように、私は国の偉い人の信頼を得ました。その人を伝って、王様にも私のラブは広がっていることでしょう。なので種族関係のことについては私が間に入ります。」
「本当か!それはそれは!大した成果だ!さっそくそちらに真面目な獣人族3人を派遣しよう。」
「はっ、ありがとうございます」
彼の成果に王様はとてもご機嫌のようだ。
彼は内心大はしゃぎしたい気持ちを抑え、なんとか耐えた。
心のなかでそっと大きく安堵のため息を吐いた。
それからは近況報告や次の依頼の詳細、ホテルの洗浄係の人達から裏起毛をもらったこと、などを王様と話して、あっという間に2時間ほど経った。すっかり打ち解けていて、かなり話しやすかった。
その中でも色々とミッションは出てきたが、細かいもので特に期間の指定はなかった。
「もうこんなに日が落ちてしまっている。これ以上話を広めるのはよそう。」
王様は窓の外を見ながら、赤くなり始めている日を見ながら言った。もう宿に帰らなければ行けない時間だ。と私は直感した。
逆光になっているその大きな背中は、勇ましくもあり、なぜか悲しそうでもあった。手を後ろに組んでいて、左手の薬指にきれいな宝石のついた指輪がより一層輝いている。
「そうですね、今日のところはこの辺で私達は行かなければいけません」
「ああそうだな。夜はまちなかにも盗賊が多いし、闇市もいっそう危なくなってくるから、一旦帰るかい?」
「いえ、街の外側にある宿の方にまた宿泊をし、それから朝一番に帰路につく予定です。」
「つまり、またしばらく会えなくなるのだな。私は寂しいぞ。マンダ。カイラ。」
そういって私たちに抱きついた。その柔らかい肉球の感触を感じてはたまらなかった。
「私もとても寂しいです、またお話する機会を楽しみにしております」
私も王様と彼を抱きしめた。カイラも同じく抱きしめた。とても暖かくて安心できた。やはり獣人は素晴らしい。と心の中でそのぬくもりを堪能した。
「今度会うときはもっと強くなって、国のために成果をあげてきます」
「楽しみにしているぞ!また会う日を!」
そうして、私達は立ち上がり、深くお辞儀をしてから国王様部屋を出ていった。その間、彼の尻尾は揺れることなくピンと真っ直ぐ立っていた。
国王様の尻尾はしおれながらも揺れていた。
さて、話し合いが終わった。最終的に長話の中で、王様に言われた次の目標はこうだ。
「人間族の王から信頼をもらって、ここにつれてきてほしい」
ということである。
また難しい依頼をもらったものだ。
しかしこの時はまだ知らなかった。
まさか、あんなに大変な事態になるなんて。
このころはまだ、私も気楽であった。
気楽で、ありすぎたのだ。




