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10 王宮帰り

 新しい依頼を王様から受け取った私たちは、王宮から出るときに兵士に呼び止められた。

 その兵士は猫の獣人で、顔が目と口で茶色、黒、白に分かれている三毛の猫だ。人見知りな性格なのか、ほぼ息のように消えてしまいそうなっ声をしていた。それにしっぽが緊張で垂れ下がって地面についているのが目の端に見えた。

「あ、あの……」

 緊張した面持ちで下から覗くように見てきた。

 その姿は小さくて、耳も下がっていた。

「突然すみません。ちょっと気になってしまいまして、きょ、今日の王様は、とてもお怒りだったと思うのですが、あ、あの……余計なお世話だと思うの、ですが、怪我とかは大丈夫ですか?」

 願うように早口で聞いてきたので少し心配になるほどだ。だがとりあえず話を聞いてからいろいろうかがってみよう。

「怪我?それなら大丈夫です、私たちの姿を見たら、むしろ王様は安心していましたし、怒っている様子など微塵もありませんでしたよ。」

 体を改めてチェックしながらそう怪我がないことをひたすら伝えた。

「えっ?そうなのですか!?それなら良いのですが……私が先程見たときには窓をずっと眺めて呆然としていまして、そのガラスに反射していた目が睨んでいらしたのでこれから面談に行くと聞いていたあなた達が少し心配だったのです、あっ覗き見じゃありませんよ!へ、部屋には入って居ませんがドアが空いていてそれでた、たまたま見てしまって……はい」

 緊張で早口になりながら、話し終えると安堵の表情を浮かべ、少し赤くなっていた。

 早口で少々聞こえづらいところもあったが、なんとか概要は聞きとめることができた。やはりよほど心配をしてくださっているようだ。

「あぁ。たしかにあの時の王様怖いですよね」

 私が「あの時?」と聞くと彼がすぐに教えてくれた。

「王様は誰かに怒っていたり、心配したりしているときに、落ち着くために外を眺めることが多いのです。その際異様なオーラを発していて、それがとっても怖いのだ。」と。 

 その人はそれを聞いてまた少し安心していた。

しかし私は「怖い」という表現に違和感を持った。確か部屋には過剰なほどの飾りがあって、到底それで怖い印象を持つとはならないと思ったからだ。

到底何かに怒っている時は飾り付けなどしない印象だが、そうすると、その王様がにらんでいたのはおそらく心配であろう。しかしそれもわかるはず……? 

 そのことを兵士に伝えると、え?と口から漏れ出て首を傾げては記憶を探っているようだった。

「飾りつけ、ですか?……私が見たときはまだ何もなく、いつも通りの眩しいくらい白くて綺麗な部屋でした。」

「えっ?」

 なんとそもそも飾り付けなどまったくない様子であった。

 驚いて数秒ほど黙ってしまった。彼は思い当たる節でもあるのか何かを考えている様子だった。

「そうなんですか……。」

「めっちゃ飾り付けてあったけど……?」

 私は詳しくどういう飾りつけをしていたのかをはなしてみた。そしたら「そんなに!?」と言って驚いていた。一体彼女の見た景色はどんなものだったのだろうか。

「たぶん王様の特殊な能力みたいなものなんですかね?」

 冗談交じりにそう言って突っ込みが来ると思ったが、意外にも納得をしていた。

「王様は能力を隠し持っているので私にはわかんない事なのかもしれない。」

「そうなのかぁ」

 まさか冗談で言ったことが本当にあっているのか、と驚いてしまった。彼にも兵士にも能力を隠しているなんて、きっと王様は隠密能力もすごいのだろう。あの細い体もその隠密能力を高めるとかだろうか。

 彼が考えを深めていると、黙っていて気まずくなったのか、兵士がまたどもりながらも口を開いた。

「そそそそれにしても王様が飾りつけなんて、め、珍しいですね?元々、あの人あまり外部の人を部屋に入れない方でして、お、おそらくそんなに飾り付けがあったとしたら……よっぽど盛大に「出迎え」られてるんですかね?あ、あの数年に1回起こるレベルで珍しすぎてはっきりとは分からないんですけど……おそらくそうなんだろうなとおもいます!」

 たどたどしく、時々早口になりながらも必死に教えるその姿は、なんだか可愛く見えてくる。なんだか支えたくなるような、そんなかわいさをしている。ペットともちょっと違う、妹のような性格だ。

 彼は鼻をぴくつかせながら、考えていたことを一旦やめ、兵士の言葉に反応した。

「出迎え?」

「あ、はい!王様はお気に入りの人には、出迎えをするのです。それも年に数回なので結構盛大に。……ということは、「お気に入り」になられたのですね、おめでとうございます!」

 その小さな体で自分のことのように、嬉しそうにしていた。

 お気に入りと聞くと、心が弾むように感じた。

「あ、ありがとう」

「お気に入りになった実感ないなあ、ヌフー」

 そんな事を言いながらも、彼はニヤニヤと嬉しそうにしていた。

「照れてる?」と私がからかいで言うと、彼はハッとしてそっぽを向いて恥ずかしがっていた。

「お気に入り、おめでとうございます」

 兵士が目を輝かせながら私たちの方を見ていた。しっぽも感情に沿って立っていた。

 お気に入りになれたのはとても嬉しいことだと思うが、あまり言われても実感がわかないものだ。

 正直、私たちが出迎えられる理由は検討もつかない。あの上手く行っているという報告も手紙などで事前に伝えてはいなし、街中で噂話などもまったく聞いたこともなかった。なので私の情報はあの王様に全く伝わってないはずなのだ。のに、なんで()ご(・)と(・)出迎えてくれたのだろうか。

 と私は不思議に思いながら1歩下がり、その兵士さんと続きの話している彼を待っていた。私には関係ないとおもったし、むやみに複数の人、しかも人間から色々と聞かれてもこの子は焦るだけだろう。

 話はすぐに終わり、兵士さんは話しなれてもまだ照れくさそうにしていた。彼も話し終えて満足のようだ。

「心配になってしまって、お怪我とかなければ、よ、よかったです!」

「いえいえ、ご心配ありがとうございます」

「ご心配ありがとうございます」

 私達はその兵士の照れ笑いに釣られるように、嬉しくなって自然と笑顔になっていった。打ち解けたような気がするが、まだ緊張はほぐれないようだった。

 そのまま、私達はお辞儀をして兵士と別れた。深くお辞儀をしながら見送ってくれたその猫の兵士は、とても嬉しそうであった。


 城の門から出る頃、彼はさっきの私のように、何かの違和感について考えているようだ。トイレのつまりが取れないような顔をしている。

 私は気まずくて何か話そうかとも思ったが、過去の経験で話すと不機嫌になることは嫌程わかっているのでぐっと口を結んだ。

 そして急にこちらを見て話し始めた。

「……あの娘、なんか変だったな」

「ん?別になんとなかったけど……」

 出迎えられた時のものとは違う違和感だろうか。と感じ取って知らないふりをした。

「うーむ……まぁ猫の勘が働いただけだろう。とりあえず周りには注意しておこう。」

「どういうこと?」

 私が聞くと彼はとても真剣に、ちょっと怒っても見える顔をした。私はその瞬間、悪寒のような、嫌な感じがしてたまらなかった。

 歩きながら耳に顔を寄せてきて、ひそひそ声で誰にも聞こえないように、緊張した面持ちで話し始めた。

「言っちゃうと。あの子、もしかしたらスパイかもしれない。人間の匂いがした。」

「は……」

 彼の顔はとても暗く見え、少しだけその顔を見て私は鳥肌が立ち、息を飲み込んだ。 

 この城の中の人物で人間の匂いがした。普通の町中ならそれはよくあることだが、この城の中だと話が違うことになる。

 彼は少し語り始めた。

「前提として、この城の中は完全に獣人の領域になっているんだ。それで中に入るには獣人の匂いで人間の匂いがわからなくしてしまうほど消さないといけない。マンダは僕の匂いで大丈夫だけどね。一部の人間にとって獣人は金にもなり得る平和ボケした格好の獲物だ。そのため、人間の匂いは獣人の中でも忌み嫌われており、とくに王宮の中では禁忌扱い。

 んでも、さっきはマンダ以外の人間の匂いがした。しかもバレないように薄っすらと。水筒に塩一つまみ入れたくらいの匂いだ。

それでも人間の匂いがした。ということは、人間がどこかにいるということだろう。この城の、どこかに。」

「えっ……怖すぎ。」

 私の場合、いつも彼と暮らしていて獣人の匂いがとても濃く、事前に匂いつけを省略されることを彼に知らされていた。なんだか獣臭いと言われているようで少し嫌だが……。


「ん……まぁいっか。今は気にしなくてもいいだろう。じきに手紙がまたうちに届くはずだ。」

「えっ、またこの城に来るの!?」

 あの恐ろしい闇市場に落ちかけた道を2度だけでなく何回も行かなくてはいけないなんて、鳥肌が止まらない。

「残念だけど、そのうちそうなる。だけどいつでも僕がそばにいるから、安心して。マンダ。」

 そう言って私の肩に手を当てた。しっかりと掴んでいてくれるその手が、あったかくて、柔らかくて、でもしっかりと掴んでいて、とても信頼できる。

「うん、わかった。」

 私は頷いて彼に抱きついた。

「ずっと守ってね!」

 彼の体温がちょっとだけ上がったように感じた。

そして小さく、「もちろんさ」と聞こえた。


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