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猫の紳士と翻訳家の異種恋愛物語  ~獣人と人間の恋愛の行方や如何に~  作者: トリ寝る
1章

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10 洗う専門家!

「洗浄係緊急集合――――っ!」

 その声はとても響き、宿中を揺らすほどであった。


 その数秒後、廊下の向こうから地鳴りのように足音がしてきて、そこには慌てて走ってきている何匹かの白猫が見えた。ただの猫だったが、アラさんと同じように頭にバンダナを巻き、雑巾を背中にかけていた。


 それが合計3匹。


「にゃ!」「に!」「ぶなぁ」とかわいい声をあげるその丸っこい3匹は、自ら手をあげて点呼をし、3匹全員いると示した。


「おや、今日はこれだけかい。客が多いもんだね。」


 1匹が頷く。大きな首を一生懸命振る姿は私の母性を刺激した。


 人間の国の宿だと、洗浄係は貴族の宿でも一人しかいない、もしくは洗浄係すらいないのが当たり前だが、獣人の国の宿だと洗浄係は何人もいて、それがなんと一般的になっているようだ。 


 珍しい物を見て、私は唖然としてしまった。いや何匹かでやるのか、しかもなんで全員猫なのかなど考えてしまった。特に意味もないのに。


 彼が私の肩を優しく掴むが反応はしなかった。それに耳に息を吹きかけられてしまった。


「ひゃひん?!ちょっ……急に驚かすのやめて!」

「ぼーっとすんなって……ひひ。」


 また狐のように妖艶な笑みを浮かべた。急になんだというのだ。こんな時に。


 私は一発だけ優しく怒りを伝え、背中をつまんだ。しっかり彼は痛そうに顔を歪ませた。


 洗浄係全員が集まって敬礼をしている姿を見て、私はまた可愛いと思ったが、犬の獣人さんの顔はそれに反して番犬のように怖かった。


「今日は大事な大事なお仕事です!しっかりと掃除するように!これができたら昇進チャンスですよ!」

「「「「はいっっ!」」」」


 そう元気な返事をしてその3匹は走って私たちの部屋に入ってきた。そしてすぐに置いてあった桶を使い、洗浄へと取り掛かった。


 せわしなく動き回り、洗浄をしながらこちらに早口で聞いてきた。


「時間は何分ですか?」

「ええっと……あと30分ほどで済ましてほしいです。」


 彼が慌てて計算をしなおして、何とか答えると、水がバシャバシャと飛んでいる中洗浄係さんが叫んだ。


「30分!大会とおんなじ時間よ!ミスはゼロでね!」

「「「「はいっっ!」」」」


 た、大会?

 そんな洗浄大会とかあるの?

 と突然の言葉にいろいろと聞きたくなったが、何とかその気持ちを抑えてその洗浄を待った。


 彼女らの士気がたかまって、今までバラバラだった動きが、まるで軍隊のように統率の取れた動きになった。

 その技術で見事に掃除が進んでいく。

 バケツをリレーしながら、表面がギザギザになっている板で、服の細かい部分までしっかりと汚れを取ったり、職人のような手さばきで毛玉を器用に取ったりしていった。


 そして5分、大体汚れが取れたところで、天井から干して乾燥に専念し始めた。


 窓から吹く風を使い、服をゆらゆらしながら風通しを良くしたり、厚い大きな紙で必死に仰いだり、なかなか乾かない首もとや襟などの細かい所を柔らかいスポンジなどで優しく叩きながら、水洗いでも残ってしまっていた汚れを取っていたりしていた。


 なんという素早くて精錬された手つきだろう、と初心者でもわかる素晴らしい技術に見惚れていると、

彼に肩を叩かれ、私達はその間に身支度をすることにした。


 そこでも、歯磨きなどもアラさんが一緒に回収してくれるらしく、そこまでやってくれるのか!と驚愕してしまった。


 その後部屋の洗面台で私の髪の毛の支度をして、部屋に戻るとちょうど服が乾き始めていた。

 彼の薄い上着とズボンが初めに乾いていた。


 彼はその服を体に纏うと、目を丸くさせ、その服の感触を確かめていた。

 着た瞬間驚きで声が漏れ、その服を撫でまわしていた。


「おぉ……すごいぞ!」

「そんなにすごいの?」

「ああ、毛布並みにふっくらだし綺麗だ。ただの薄い毛布なのに。」


 珍しいことを言うなと思った。


 彼が服のことをこんなに嬉しがって褒めることは滅多になかった。

 むしろ服を着るときは、時々嫌悪感で顔をしかめることが多いくらいだ。


 そんな彼が言うなら相当なものだろうな、と期待を抱きながらその服に腕を通してみた。


「おぉ、ふわふわ」


 その瞬間、彼の言っていることが分かった。服では感じたことのないふわふわな感触に驚いた。これなら肌に擦れることもないだろうし、生地も肌にフィットして動きやすい。


「こちら、師匠が教えてくれた「裏起毛」というものです。勝手ですが無料で付けさせてもらいました。」

「これが無料で?良いんですか?」

「はい、王様によかったら紹介居てくださいね!」


 なんとこの裏起毛が無料だという。

 特別待遇をしてもらって申し訳ない気持ちになった。


 これは王様に紹介しないとがっかりされるだろう。


「これで去年は大会でだいぶいいところまで行ったんですよ」


 さっきも言っていた大会というやつだろう。


「大会?」

「洗濯技術なんとか大会があるらしいな。」

「そんなのがあるの……?」


 彼が教えてくれたがソレ以上言及することもなく、ただ乾くのを待っていた。


 不思議そうに洗濯物を見ていた私を察してか、アラさんが、洗濯物がどれだけ綺麗に心地よくなるかを争う大会です、と教えてくれた。洗いながらなので端的に早口に説明していた。

 実は余裕があるのではないか?と思ってしまう程であった。


 その後、15分ほどでその洗濯物たちは完全に乾いた。いとも早い手さばきで思わず感心して拍手を送りたくなってしまった。


 一方3匹の猫たちは反省会のようなものをしていた。よかったところとダメだったところを紙に書いているようだ。その姿も見ているととてもかわいく思えてきた。


 私たちは荷物準備もすでに済んでいて、再度忘れ物がないか確認して、準備がやっと整った。寝起きなので欠伸をして無理やり体を起こすと、臭くない服に感動して涙が出そうになった。


「がんばってくださいね。」


 と部屋から出るときに優しい笑顔で言われた。3匹の猫も反省会を切り上げて元気に返事をしていた。


「はい!ありがとうございます!」


 そういってドアを閉じる。

 閉じ際にすぐに振り返って紙とペンを出した4人が見えたが、気にしないでおこう。


「さあ、もう時間がない。行こうか」


 彼が肩をつかみ、仕事モードの丸い目で私を見る。しかし怒ってはおらず、もちろん笑顔であった。


 私はそれに一つ頷くだけだ。

 服の匂いのおかげで不思議といい気分になり、なんだかいいことが起きそうに思えた。


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