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サンドラはおじいさまの庭の薔薇を求める

サンディ?


こんなところに隠れて、どうしたんだい?


サンドラ。何かあったの?


また従兄さまと喧嘩でもした?


……違う?

じゃあ、どうしてそんなに泣いているのかな。


ほら、出ておいで。いつまでも花の中にしゃがみ込んでいたら、大好きなお人形が汚れてしまうよ。

それに、その綺麗な白いリボン。今年の誕生日にもらったばかりだろう?

薔薇の棘に引っかけて破いてしまわないようにね。


さあ、こっちに座って。


甘い薔薇の飲み物でも飲む?


……え。


ちょっと待って、サンディ。


まさか、この薔薇の飲み物がおじいさまの身体に咲いている花で作ったものだと思っているの?


もちろん違うよ。


確かにおじいさまの身体には薔薇が咲くけれど、普段から自分の身体に咲いた花を摘んで、お茶にするような習慣はないからね。


……「普段から」ってどういう意味かって?


別に深い意味はないよ。

ごく普通の言葉の綾だ。


気にしなくていい。


前にも話しただろう?

この薔薇や蔓は、僕が「常夜の地」に長く居すぎたせいで、こんなふうになったんだって。


あそこには毒を持つものも多い。

むやみに口に入れていいものじゃないんだ。


だから、この一杯は絶対に違うよ。


本当だって。

そんな目でおじいさまを見ないでおくれ。


まったく、この子は……。


勘が鋭いね。


いつかエレインみたいな大物になるかもしれないな。


さあ、飲み物を飲んで、クッキーもお食べ。

少し落ち着いたら、何があったのか話してくれる?


……その前に、お話を聞きたい?


そうだなあ。


「常夜の地」にいた、偉大なるオオカワウソの女王さまの話はしたことがあったかな?


……まだ?


それなら、よく聞いておいで。


オオカワウソの女王さまが治めていた水の森は、とても危険な場所だった。


木々の下を流れる川には、サンディの指よりも長い牙を持つワニがいる。

鬱蒼と茂った森の中には、獲物を生きたまま締め殺す大蛇だっている。


だけど、オオカワウソの女王さまは少しも怖がらなかった。

だって女王さまは、決して家族を一匹きりにはしなかったから。


魚を捕るときも、休むときも、危険に出くわしたときも、オオカワウソの家族はいつだって一緒にいる。


ワニや大蛇や、ほかの悪いやつらが子供たちを食べようとやって来たら、みんなですぐに輪になって、小さな子供たちを真ん中に守るんだ。


……一匹飼いたい?


駄目だよ。


僕はこの目で見たことがあるけれど、オオカワウソはとても獰猛なんだ。


あるとき、一匹のワニが群れの子供を食べてしまった。


それを知った女王さまは、家族全員を連れて、そのワニを取り囲んだ。


そして少しずつ、少しずつ、噛み殺した。

最後にはみんなで、そのワニをばらばらにして食べてしまったんだ。


分かっただろう?


野性が強すぎる動物は、ペットには向かないんだよ。


……何?


おじいさまだって怖い?


サンディ。

「おじいさま」っていうのは、おばあさまがいちばん好きな人って意味であって、おばあさまのペットって意味じゃないんだよ?


それに、おじいさまはオオカワウソとは違って、そもそも肉弾戦はあまり得意じゃない。


僕は先に蔓で縛り上げるほうが好きだな。

あとは、毒を使って動けなくするとか。


……どうしたの?

こういう話は好きじゃなかった?


そろそろ話してくれる気になった?


……ああ、そういうことか。


お茶会でほかの子たちが嫌なことを言っていて、それに言い返したら、お母様に叱られてしまった?


お母様には、サンディがお客さまと言い争っているところしか見えていなかった。

その前に、あの子たちが何を言ったのかは知らなかったんだね?


それなら仕方ない。


サンディ。

お母様は、君を信じていないわけじゃないよ。


ただ、何があったのかをまだ知らないだけなんだ。


その子たちは、何て言ったの?


……もう一度言いたくない?


うん。

それなら、言わなくていい。


帰ったら、お父様とお母様に今日のことを話して、一緒にどうすればいいか考えてもらおう。


……何て話せばいいのか分からない?


そうだね。

それは少し難しいか。


ほら、この薔薇を見てごらん。

今朝咲いたばかりなんだ。


桃色の花びらに、鮮やかな緑の葉。

お母様によく似ているだろう?


この花を持って帰って、お母様にプレゼントしてみる?

どうして急に花をくれるのかって聞かれたら、そのときに少しずつ、今日あったことを話せばいい。


……どうしたの?


どうしてまた泣くんだい?


……なるほど。


あの子たちが言っていたのは、お母様の見た目のことだったんだね。


「サンディのお母様は、『常夜の地』から這い戻ってきた化け物にそっくりだ」って?


……ああ。


なるほどね。


まあ、サンディのお母様は僕の二番目の兄の娘だから、僕と似ているのは当然なんだけど。


でも、よく見てみれば、君はお母様にだけ似ているわけじゃない。

瞳は確かにお母様譲りだけれど、髪はエレインによく似ている。


不思議なものだね。


それから――エレインが女王になれたのは、聖剣を持っていたからで……それに、「常夜の地」から戻ってきた化け物を一匹飼っているからだって?


ああ、なるほど。


だからさっき、おじいさまはおばあさまに飼われているのか、なんて聞いたのか。


びっくりしたよ。

最近、子供が読んじゃいけないような本でもこっそり読んでいるのかと思った。



まあ、僕と聖剣がいたおかげで、いろいろと手間が省けたのは確かだけどね。



それから、お父様とお母様が結婚したのも、王位を狙うためだったって?


サンディ。


君は毎日、お父様とお母様と一緒に暮らしているだろう?


あの二人が本当にお互いを好きなのかどうかなんて、お茶会で噂話をしている子たちより、君のほうがずっとよく知っているんじゃないかな。


それにね、その子たちは時系列すら合っていない。


おじいさまが「常夜の地」から帰ってきたのは三年前だよ。

その頃には、お父様とお母様はもう何年も前から結婚していただろう?


あんなことを言われて腹が立ったことは、悪くない。


家族のために言い返したかったことも、悪くないよ。


でも、君はまだ子供だ。


こういうことを、君一人でどうにかしなくていいんだよ。

王位なんてものも、今の君が心配することじゃない。



さっき話しただろう?


小さなカワウソがワニに出会っても、自分一匹でワニと戦う必要はない。


それは、カワウソの家族みんなの仕事なんだ。


エレインも、おじいさまも、お父様もお母様も、それから家のみんなも――全員、君の味方だよ。


みんなで一緒にいれば、ワニくらいばらばらにできる。


……もちろん、本当に人間をばらばらにするって意味じゃないよ。


だからサンディ。

ひとつ、おじいさまからお願いがあるんだけど。


今の言い方、エレインには内緒にしてくれないかな。


おばあさまに黙っていてくれたら、ここの赤い薔薇は全部サンディにあげるよ。


……何?


赤いのだけじゃ足りない?


サンディ。

いつの間にそんな値段交渉を覚えたんだい?


……エレインに教わった?


そうか……。


分かったよ。

桃色の薔薇もあげよう。


でも、あっちの青い薔薇は駄目だ。


あれはエレインに贈るものだからね。



……ん?


どうしたの?


さっきから、どうして僕の後ろばかり見て――


……エレイン!


会議はもう終わったの?


……違う。


僕はサンディに、人間をばらばらにする方法なんて教えていないよ。


カワウソの話をしていただけだ。


本当にカワウソだよ。


ほら、あの、ふわふわしていて、目が大きくて、眠るときにはみんなでぎゅっと集まる、あのカワウソ。


……何?


僕が嘘をつくと、背中の蔓が揺れる?


そんなわけないだろう。


サンディ。

君までおじいさまを笑っちゃ駄目だよ!


……分かった、サンディ。


桃色の薔薇は、やっぱり持って帰っていいよ。


でも、自分で摘んでは駄目だからね。

そこの二人の侍女と、向こうにいる庭師に摘んでもらいなさい。



……はあ。


本当に賢い子だね。


そう思わないかい、愛しい人?


……ああ。


やっぱり、君の耳にももう入っていたんだね。


大人が食卓や書斎で話していることって、子供は案外よく聞いていて、そのまま覚えて口にしてしまうものなんだな。


あの子たちの家のことは、もう対処しているの?


僕にできることがあったら、必ず言ってね。


それで、サンディのお父様とお母様は?


……まだ勉強中?


まあ、そうだよね。


君の次男は、もともと王位継承者として育てられたわけじゃない。

今になって足りないものを全部学び直すのは、確かに大変だろうな。


サンディのお母様のほうは……自分がいつか、こんな教育を受けることになるなんて、昔は考えたこともなかっただろうし。


やっぱり、子供の頃から身につけておいたほうがいいことってあるんだね。


少なくとも、あの二人は真面目だし、意欲もある。


一年も教育を受けておきながら何ひとつ身につかず、とうとう廃棄するしかなくなった誰かさんより、ずっとましだよ。


そういえば……。


さっきサンディが二人の結婚の話をしたから、ふと思い出したことがあるんだ。


あの頃、僕はまだ「常夜の地」にいたから、ずっと聞く機会がなかった。


エレイン。


君はどうして、あの二人の結婚を認めたの?


……え?


あの子が、フローラに似ていたから?


……。


今になって考えてみると、確かに似ているね。


あの、いつだって生真面目なところ。


それから、一度こうと決めたら、誰に何を言われても絶対に譲らない頑固なところも。


だから、二人を引き離す気になれなかったの?

僕の妹とエドワードのこともあったから……。


もし、あのとき――


……うん。


君の言うとおりだ。


今がこうなら、それでいい。


今日はいい天気だね。


……そうだね、愛しい人。


秋というのも、案外いい季節だ。


花が咲き誇り、実を結ぶ季節は、もう過ぎてしまったとしても。


ほら。


この庭の薔薇は、今もまだ咲いている。




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