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17 とにかく、生き延びよう。

 ここはあまり話をするのに適した場所じゃなかったので、私は蓮と一緒に花の病室へ向かった。


 花がいる場所はこことは別の階層にある。気になる点が一つあって、エレベーターからこの階に来るには権限が必要で、しかもこの階の階段口も封鎖されている。では蓮はどうやって来たのだろう?


 もしかしたら隊友として、面会を許可されているのかもしれない。そんなことをわざわざ蓮に聞くほどのことでもなかった。


「花、レイアがお見舞いに来たよ。」


 重たい病室のドアを開けると、大きなベッドに横たわる花の姿が目に入った。


 蓮の声を聞いた花は、ゆっくりと目を開け、手を持ち上げようとしたけれど、すぐに力なく落ちてしまう。そのまま荒い呼吸を繰り返していた。


 私は両手で、落ちたその手を握った。リプル郊外にいたあの時と同じように、ただ静かに花の手を握る。


「今の花の状態じゃ権能の補充は無理。とりあえずこのまま寝かせて、もう少し回復してから前の権核を変換すれば、その時はすぐ良くなるよ。」


 蓮が隣で花の状態を説明してくれる。話の流れ自体に問題はないように聞こえるけれど、今の花の様子を見ていると、とても楽観的にはなれなかった。


「そういえば、荒塚とバージョンは?」


「二人は……今はもう隊を離れて、個人の立場で任務に出てる。」


 蓮は花を一度見下ろし、沈んだ声で答えた。蓮が答えた瞬間、花の手がわずかに動いたのが分かった。


「まだそのこと、花に話してないの?」


 花の目を見て、私は二人のことを知ったばかりなのだと察した。


「ううん。でもあれだけ長く姿を見せてないし、花も何となく察してるはず。今はっきり言ったほうがいいかもね。」


「これから、どうするつもり?」


「分からない。少なくとも花と詩玖が回復してからじゃないと、そういう話はできないかな。」


「うん……」


 それきり、また沈黙が落ちた。


 もともと様子を見に来ただけだし、状況を知った今、私にできることは特にない。何を言えばいいのかも分からなかった。


「そういえば、昨日の配信、見たよ。」


 先に沈黙を破ったのは蓮だった。


 昨日の配信? たぶん、私の任務のあの配信だ。


「うん。」


「すごく良かったよ。」


「本当に?」


「うん。動き、最初の頃みたいに迷ってなかった。不安もあるだろうけど、それでも少しは自分の進む方向を見つけられたんじゃない?」


 そう言いながら蓮は私を抱き寄せ、頭を優しく撫でた。


 そうだね、確かにいろいろあった……。


 蓮の腕の中の、この懐かしい温もりが、私をリプル郊外での記憶へと連れ戻す。


 あの頃の私は、生まれたばかりの子どもみたいに蓮に寄り添っていただけだった。


 でも今は、選択を迫られている。大切なものがこれ以上崩れないように、自分で動くことを求められている。


 ある意味、これが成長ってやつなのかもしれない。自分のこともまだ分かっていないのに、周りを守る責任を背負っている。


 本当なら、背負わなくてもよかったはずなのに。


 でも私は、花の手を握りながら、何もできなくても、それでも目を開けて私を見つめ、視線を逸らそうとしない花を見つめ返す。


 世界は、私が全部を理解するまでのんびり待ってはくれない。取り返しがつかなくなる前に、動かなきゃいけない。


 何をすればいいのかは分からない。でも――


 とにかく、生き延びよう。


 私は花と蓮に別れを告げ、あてもなく大通りを歩き出した。


 蓮も花も、あまり早く帰ってほしくなさそうだったけれど、私がいると花に負担がかかる。だから早めに病院を出た。


 空には小雨が降っている。傘は持っていなかったから、そのまま濡れながら歩く。


 前に舞と出かけたとき、突然の大雨に降られたことを思い出す。舞も傘を持っていなくて、店先に連れていってくれて、雨が弱まるのを待った。でもすぐ店主に見つかって、ついでみたいに傘を一本くれたんだ。


 雨に打たれるのは、これが初めてだ。正直、思ったほど悪くない。


 通り沿いの建物の屋根は少し外へ張り出していて、少しでも多く雨水を受け止めようとしているみたいだった。通行人も普段よりずっと少なくて、静かで、誰かを避けながら歩く必要もない。


「ブーン……」


 目の前で、一台のロボットが路肩のゴミを掃除していた。初めてこれを見たのは、舞と街を歩いていたときだった。あの頃の私は何も知らなくて、ただ奇妙なものの一つとしか思っていなかった。


 でも今は、何日も常識の教育を受けてきたから、こういうロボットだと分かる。


「ガタン!」


 掃除を続けていたロボットが突然転倒した。起き上がろうとするけれど、濡れた地面でまた滑って倒れてしまう。


「ありがとう。」


 私は近づいてそれを起こしてやる。簡単に礼を言うと、ロボットはまた黙々と作業に戻った。


 転倒した拍子に、下部の外装の一部が開いてしまっているのに気づく。ただでさえ古びている機体が、さらに痛々しく見えた。


 感情型AIを搭載していないこのタイプはかなり古いモデルだ。Saliveが現れてからというもの、ほとんどの工場は破壊された。技術は残っているし、むしろ進歩している部分もあるけれど、サービス型ロボットを大量生産できる状況じゃない。


 こうした清掃ロボットは、昔のものがそのまま稼働し続けているだけ。長い時間使われ、まともな整備も受けられない。いつ停止してもおかしくない。


 でも、それも仕方のないことだ。


 残された役目は、設定されたプログラム通りに動き続け、やがて廃棄されるまで稼働することだけ。


「ブォン。」


 一台の車が私の横に止まり、車内から東樹さんが顔を出した。


「どこか行くのか? 送ろうか。」


 特に行きたい場所があったわけじゃない。でも結局、東樹さんの車に乗った。どうせ基地に戻るには彼に送ってもらうしかない。


「以前、病院の権限を設定したときに、あなたに位置情報装置を付けさせてもらいました。安全のためですので、ご理解ください。」


 私が乗り込むと、東樹さんは私が聞いてもいないのに、どうして私を見つけられたのか説明し始めた。


 自分の左手を見てみるけれど、特に変わった様子はない。どうやってそんなことをしているのか分からないし、説明されたとしても、たぶん理解できない。


「ただし、この位置情報はこの都市内でしか有効ではありません。もし不快でしたら、取り外すことも可能です。」


「大丈夫です。」


 私は特に気にしていない。


 もしかしたら、気にしていないことも、東樹さんには分かっていたのかもしれない。


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