**(個人編) 雛原舞
私は嘘をついた。決して許されない嘘、自分自身を底なしの深淵へ突き落とす嘘。
でも、私がしたことのすべてはただ一つのチャンスのため。あなたを手に入れるためのチャンス、あなたに慈しまれるためのチャンス。
ずっと追い続けてきたあなたは、もともと私の目には少し神秘的な端役に過ぎなかった。
でもどれだけあなたが謎めいていようと、日本最大の軍需企業――雛原軍工の法定継承者であるこの私が、たとえ女というだけで密かに権力争いから外されていたとしても、あなたのような無名の存在に侮られるような立場じゃない。
それなのに、ある偶然がきっかけで、私はあなたという底の見えない闇の中へ足を踏み入れた。
あなたを知れば知るほど、あなたが表に出しているものはすべて仮面に過ぎないと理解していった。あなたは隠しているわけじゃない。ただ、見せる価値もないと思っているだけ。
あなたが何を背負っているのかは分からない。でも、もっとあなたを知ろうとその世界に踏み込もうとした私を、あなたは強く拒絶した。
自分を何様だと思ってるの? ちょっと傲慢すぎるんじゃない?
私が失ったものを取り戻してくれたくせに、道端の野良猫を助けるみたいに、振り返りもせず去っていった。
そんなの、認められない。許せない。忘れられない。放っておけない。
この雛原舞を前にして、他の人間みたいに群がるどころか、助けたあとで見下すように去るなんて。
その態度はあまりにも傲慢で、あまりにも高慢で、あまりにも憎らしい。
あなたのすべてを奪って、すべてを壊して、自分の過ちを思い知らせてから、きちんと頭を下げさせてやりたい。
そして徹底的に辱めて、徹底的に復讐してやる。
私に対してあんなにも傲慢だった代償を思い知らせて、自分の過ちを何度も何度も許しを乞わせる。
でも、私は絶対にあなたを逃がさない。受けた屈辱は百倍にして返す。辱めて、復讐して、追い詰めてやる。
――好きよ。
自分の感情に嘘はつかない。
どうしようもなく、あなたが好き。
あなたの傲慢さは許せない。でも、あなたは私を救ってくれた。そして私は、あなたを深く愛している。
あなたへの復讐なんて、ただの負け惜しみ。
好き。
あなたの世界では、私はただの取るに足らない通行人だと分かってる。それでも、頭が割れて血を流してでも、あなたの世界に押し入ってみせる。
好き。
私はすべての尊厳を投げ捨てて、無理やりあなたの家庭に、あなたの生活に、あなたの周囲すべてに踏み込んだ。
幸運だったのか不運だったのか、あなたは最初から最後まで私に関心を向けなかった。あれほど挑発的な行動をしても、止められることすらなかった。
愛という名の深淵に、私はどんどん堕ちていく。でも、あなたとの距離は縮まらない。
ある事故をきっかけに、あなたは私の世界から消えた。
最後の繋がりさえ断たれたと分かっていても、私は探すのをやめなかった。
でも今、奇跡みたいな偶然が幾重にも重なってできた、たった一つのチャンスが、まっすぐ私の目の前にある。
それが運命の贈り物か、毒入りの罠か、そんなことはどうでもいい。
私にとって、これが唯一のチャンスだということだけ。
「ふふ~ん♪」
私は車に乗って、あなたのいる場所へ向かう。口ずさむメロディーが自然とこぼれる。
Saliveが爆発してから、こんなに高揚して、焦がれるような気持ちになったことはない。いや、物心ついた頃から、家族の権力争いの中で、こんな感情を味わったことなんてなかった。
まるで学校で告白が成功したばかりの少女みたいに、帰り道のエレベーターの中でスマホを握りしめ、階数表示をじっと見つめながら、早く家に帰って恋人と連絡を取りたいと焦る、あの気持ち。
もう待てない。愛の焦燥が私の肌を、血を、心臓を刺激する。
地域責任者に匹敵する権限を持つ雛原軍工の会長である私を、ここまでの気持ちにさせるのは、あなただけ。そろそろ大人しく私の腕の中に飛び込んでくれないと、ありがたみがなくなるわよ。
抱きしめて。私を愛して。
それがあなたの避けられない宿命。
『あ、見つけた。』
最後の扉を開けると、ベッドの前に座るあなたがいた。間違いない。その姿は、昼も夜も、毎分毎秒、何度も何度も思い返してきた。
今のあなたは――記憶を失っているの?
ぼんやりした顔で私を見つめている。
でも私の目には、あなたは誕生日ケーキの上に乗った真っ赤な苺の、いちばん先端みたいに見えた。こんなにも甘美で、こんなにも美味しそう。まるで屠られるのを待つ子羊みたいに無防備で、今すぐ食べ尽くしてしまいたいくらい。
でも、ここであなたを独占するわけにはいかない。長年の努力と待ち時間を、焦りで台無しにはできない。
あなたに心の底から私を好きになってもらう。あなたから、私が渇望してきたすべてを差し出させる。そうすれば、たとえ記憶が戻っても、あなたの心の中に私は居場所を持てる。
あなたのためなら、尊厳なんていくらでも捨てられる。どんな手段だって使う。
でも、少しくらい前借りしても、問題ないよね?
突然あなたの胸に飛び込んだ私に、あなたは戸惑いながら声をかける。
「その……ちょっと近すぎない?」
「もちろん大丈夫だよ。だって、私はあなたの彼女なんだから。」
この瞬間、私は自分の決断が正しかったと確信した。
「はあ、本当に記憶喪失なんだね。」
わざと落ち込んだふりをする。でも、こんなにも無防備なあなたを見ていると、愛が目から溢れ出しそうになる。
……
「君は僕を知ってるの? 僕の過去も?」
「もちろん。だって、私はあなたの彼女なんだから。」
......




