14 廃棄された村
「行け!」
「早く!」
黒山のような人の群れがもう押し寄せてきて、俺たちの会話を遮った。あちこちから声が飛び交い、俺たちはその流れとは逆方向へ、ゆっくりと基地へ戻っていく。
「なあ、あれってレイアじゃないか? サインもらいに行ってもいいかな。」
「バカかよ。遅れたらあのSalive、他の奴らに持ってかれるぞ。今回で三階に上がるって言ってただろ。」
二つの集団がすれ違ったあとも、そんな声が耳に入ってきた。見覚えのある顔もいくつかあったけど、どこで見たのかは思い出せない。
俺たちは彼らと肩をかすめながら通り過ぎ、その複雑な表情を見て、ふと考える。彼らは何のために戦っているんだろう。俺がSaliveを攻撃するのは、Saliveに攻撃されたからだ。じゃあ、彼らも同じ理由なのか?
「おい、見てくれよ! でっかいライオンがいる!」
いつの間にか前に走っていたAuroraが、嬉しそうに手を振っている。
俺たちが追いついてようやく分かった。Auroraが指していた“大きなライオン”は――倒れた石獅子だった。ここは昔、村だったらしい。後にSaliveに破壊され、臨時基地は崩れた家屋を利用して作られているという。
「Saliveにあれだけ壊されたのに、こんなに原型を保ってるなんてな。」
高版がそう言う。石獅子の大半は土と雑草に覆われていたが、露出している部分にはほとんど損傷が見られなかった。
「チチッ、チチッ。」
全身にトゲの生えた名も知らぬ小動物が、石獅子の影から突然飛び出してきた。どうやら俺たちに驚いたらしい。
「わあ、ハリネズミだ。丸まっててかわいい!」
ハリネズミと呼ばれたその小動物は、俺の足元まで走ってきて丸くなり、必死に怯えを訴えている。だがAuroraはそれでさらに興奮し、石獅子から飛び降りて俺の足元にしゃがみ込み、ハリネズミを観察し始めた。
「つんつん……」
いつの間にか早田も俺の隣にしゃがみ、指でハリネズミをつついている。
「うぐ……」
早田がつつくたびに、ハリネズミは怯えた声をあげ、俺に助けを求めるように震える。
だがその求助に、俺は特に反応しなかった。花と蓮と一緒に食べたあのウサギのことを思い出したからだ。もし高版たちがこのハリネズミを食料にすると言うなら、俺は止めない。見知らぬハリネズミより、俺に友好的な高版のほうを選ぶ。
「……食べるつもりなのか?」
足元で必死に助けを求め続けるハリネズミを完全に無視することもできず、Auroraに尋ねた。
「まさか。ただかわいいからちょっと遊びたいだけだよ。」
Auroraはそう答える。彼女たちにとっては“遊び”でも、ハリネズミにとっては命の危機だ。ずっと恐怖に震えている。
だが対立関係ではないのなら、小さな手助けくらいはしてやってもいい。
「俺たちはお前を食べない。ほら、帰れ。」
俺はかがんでハリネズミに声をかけた。完全に理解したかは分からないが、ちらっと俺を見上げたあと、ぱたぱたと巣穴へ戻っていった。
「ほんとに帰った……もしかして、君の言葉わかってるの?」
Auroraは笑いながら、巣へ戻ったハリネズミを見る。
「うん。」
俺は正直に答えた。今の俺は、動物も人も含めて、彼らの意思を理解できる。俺の言葉も、ある程度は伝わっている。
「え? 本当に動物と話せるの?」
Auroraは驚いた様子で言い、早田まで顔を上げて俺を見る。
「……お前らはできないのか?」
逆に俺のほうが驚いた。みんな普通にできるものだと思っていた。
「できるわけないでしょ。いや、できたらおかしいよ。適応者の中には動物と簡単な意思疎通ができる能力もあるけど、今は権能使ってなかったよね? でもさ、聞いたことあるんだけど……」
Auroraはぴょんと立ち上がり、ぐるりと俺の周りを回って観察する。
「英才、帰るぞ。」
高版が突然、Auroraの詮索を遮った。Auroraも素直に従い、俺の後ろについて基地へ向かう。
「そうだ、レイア……いや、なんでもない。」
前を歩いていた高版が振り返り、何か言いかけてやめた。
少し様子のおかしい高版を見たが、俺は続きを求めなかった。言わないと決めたのは、彼自身だ。
振り返ってAuroraを見ると、あからさまに視線を逸らし、横を向いて鼻歌を歌いながら何か考え込んでいる様子だった。あの二人に比べれば、早田と野原はずっと自然だ。
だが、彼らが隠すと決めたのなら、俺も深くは追及しない。
村の中を歩いていると、花と蓮と共に逃げていた頃を思い出す。
あの時はほとんど夜だったから、村をじっくり見ることはなかった。
道の両脇の家は大半が崩れ、壊れた車には新しい蔓が絡みつき、土に半ば埋もれた看板には読めない文字が書かれている。倒れた鉄骨の下には、何の生き物かも分からない骨さえ見えた。
かつての生活の痕跡は一瞬で破壊され、そして時間の中でゆっくりと消えていく。
その元凶は、言うまでもなくSaliveだ。
なぜ争いに陥ったのか――その答えを持つ者はいない。もちろん、俺もその一人だ。




