13 何が英雄なのか
高坂は今回は先に突っ込むことをせず、俺たちを連れてそのまま一緒に離脱した。正直に言って、高坂が加わったことで戦闘は格段に楽になった。彼の周囲には次々と様々な武器が具現化され、近づいてくるSaliveを片っ端から消し去っていく。それだけじゃない。戦闘中も常に他の隊員の様子に目を配り、誰かが襲われれば即座に光の盾を生成してその者を守っていた。
とはいえ高坂は四階の適応者だ。Salv4を単独で討伐する力すら持っている。言ってしまえば、俺のためにここへ来て雑兵の掃討をしているようなものだ。
もし俺が高坂みたいに強ければ、氷宮たちを守れたんだろうか? そんなことを考えた、そのときだった。
「周りを見ろ!」
野原が叫び、背後から俺に襲いかかってきたSalv3を一拳で粉砕した。
「ごめん……ありがとう。」
どうやら俺がぼんやりしていたせいで、他の隊員に迷惑をかけてしまったらしい。その一件の後、気のせいかもしれないが、Auroraが少しずつ俺のほうへ近づいてきた。そして野原は小さくため息をついた後、反対側へ走っていった。
早田に至っては、ほとんど権能を使い切ってしまっているのか、ただ黙って俺たちの後ろをついてくるだけだった。その瞳は波ひとつ立たず、じっと俺を見つめている。
「ふぅ、これで終わりか。今回の任務は本当に簡単だったな。」
数分走った後、周囲からSaliveの姿は消えていた。俺たちは足を止め、軽く休憩を取る。野原は手袋を外し、大きく息を吐いた。
出発前にいた臨時基地までは、もう二キロもない。ふと見ると、基地の近くにいつの間にか百人以上が集まっていた。しかも全員が適応者だ。
「オオオッ!」
背後から咆哮が響く。
「狐岳が片付いたな。」
高坂が後方を一瞥して言った。
「はい、隊員のみんなこっち見て、ポーズ!」
さっきまで空中で撮影していた人物が、いつの間にか俺たちの前に降り立ち、カメラをこちらに向けている。
俺はその場で固まり、どんなポーズを取ればいいのかわからなかった。するとAuroraが俺の左手を掴み、指で「ピース」を作らせ、そのまま俺の左腕に絡みついて体をぴったりと寄せ、微笑みながらカメラを見つめた。
極光英才の隊員たちも次々と寄ってくる。早田さんは無言で俺の右側に立ち、どこで拾ったのか分からない木の棒を相変わらず抱えたままだ。高坂は俺の背後に立ち、左手を俺の肩にそっと置く。
野原はというと、目立ちたかったのか最前列に立ち、片足立ちで両手を前後に突き出してダブルピースという、なんとも奇妙なポーズを決めていた。
なぜだろう。今の俺は、まるで赤尾小隊にいた頃のような感覚を覚えていた。ただし、あの赤尾小隊はすでにバラバラになってしまったが。
「はい、チーズ!」
撮影者の掛け声とともに、今回の任務は正式に完了となった。
「行け!」
それとは対照的に、基地のほうから怒号が上がり、あの集団が一斉にこちらへ向かって走り出す。
状況がつかめない俺は、密かに権能を巡らせ、突発事態に備えた。だがそのとき、Auroraが俺を制した。
「Salv4が死ぬと、それに引き寄せられていた低階のSaliveは散っていくの。指揮を失った密集状態の低階Saliveは、低階適応者にとって最高の訓練場になるのよ。とはいえ、この規模を見る限り、他のいくつかの都市からも低階適応者を呼び寄せたみたいね。」
Auroraの説明を聞き、俺はあの適応者たちを見る。鎧の色から判断するに、ほとんどが二階適応者、次いで三階、そしてわずかな一階適応者が各隊の後ろに控えていた。
「君たちは行かないのか?」
さっき野原がもっとSaliveを倒したがっていたのを思い出し、俺は尋ねた。
「獅尾を除けば、私たち三人はもう長いこと三階で足止めを食らってるの。宝くじみたいにひらめいて“領域”を悟るのを期待するか、Salv4の権核を吸収するしか昇級の道はない。もっとも、権核を吸収しても私たちにとっては大きな伸びにはならないわ。せいぜいポイントを少し得られる程度。でも今回の任務で機関から十分なポイントはもらってるし、そこまでがっつく必要もない。それに、後輩たちとこの程度の資源を奪い合うつもりもないわ。」
Auroraはそう答えた。
ポイント制度については、俺も少し聞いたことがある。適応者育成の一環で、Sprobe機関に登録された権核によって相応のポイントが得られるらしい。そのポイントは適応者同士で取引もできるし、都市内での消費にも使える。その場合はSprobe機関が支払いを行う仕組みだ。
もっとも、俺は都市に入ってからというもの、基地にいるか舞と一緒にいるかのどちらかで、ポイントを使う機会はほとんどなかった。
「でも、ああいう連中を見ると懐かしくなるな。怖さと興奮が入り混じったあの感覚……昔の自分を見てるみたいだ。」
高坂が感慨深げに言う。
「あなたたちも、ああいう訓練をしてたんですか?」
「いや。」
高坂は首を横に振った。
「俺は最初期の適応者だ。当時の環境は過酷だった。何もかも自分たちで手探りするしかなかったし、大半の適応者は単独行動だった。強敵に遭遇しても救援なんて来ない。あの世代で今も生き残っているのは一割にも満たない。英才たちは少し後だが、それでも生存率は一割程度だ。
今ある様々な戦術は、最初期の連中が成長し、Sprobe機関がある程度の基盤を持ってからようやく整備された。それでも生存率は六、七割に上がった程度だがな。」
そこで高坂は一度言葉を切り、俺を見てから続けた。
「だが、そんな毎日が綱渡りのような日々の中に、ひとつだけ例外があった。それがZeroだ。当時、人類が誇っていた科学技術がまったく歯が立たない中、適応者の出現にも大きな期待は寄せられていなかった。事実、最初の頃の俺たちの戦闘力は訓練された兵士にも及ばず、一方的な戦争に何の影響も与えられなかった。
しかも莫大な資源を消費し、犠牲も大きかった。俺たち自身ですら、自分たちの存在意義が分からなかった。だがZeroは、適応者の可能性を世界に示した。これまでの犠牲には意味があったと教えてくれたんだ。彼の戦闘の一部は密かに記録され、Saliveの情報としてまとめられた。それによって後続の作戦は格段に楽になった。」
「だから俺は、Zeroのように誰かの道を照らす存在になりたいとずっと思っている。言ってみれば、Zeroは俺の英雄だ。」
そこまで言って、高坂は右手で頬をかいた。その仕草は、舞が照れたときによくするものだ。まさか高坂が同じことをするとは思わなかった。
そして、いまだに俺に寄り添っているAuroraを見てから言った。
「というより、Zeroはほとんどすべての適応者の英雄だ。だからこそ、みんな君に好意を持っている。」
俺をZeroの代わりのように見ることについて、俺には評価のしようがない。だが、舞が記憶を失った俺をそれでも恋人として見ているのとは違う気がする。少なくとも俺とZeroは別人だし、Zeroはまだ死んでいない。
それなのに、Zeroへの感情をそのまま俺に移すというのは、どうにも奇妙に思えてならない。とはいえ、それが正しいかどうかを判断する立場に、俺はないのだろう。




