12 戦場の舞台
「野原さん」
「うん」
彼女が応じた瞬間、俺は高く跳び上がり、光盾の障壁を突き抜け、そのまま体を反らせてsaliveの群れへと叩き落ちた。
着地の衝撃で周囲のsalv1が空へ吹き飛び、俺のいる空間は一瞬、闇に包まれる。
「どけ」
剣を一閃。空を覆うsaliveの群れに裂け目を作り、そこから陽光が差し込む。だが次の瞬間、死んで塵となったsaliveの粉塵が再び光を遮った。
「ガアッ!」
さきほどの衝撃から立ち直ったsalv2が、右側から吠えながら襲いかかる。振り向きもせず、俺は左脚で回し蹴りを放った。
権能を込めた一撃がsalv2の巨体を丸ごと蹴り飛ばし、その一直線上にいたsaliveごと空へと弾き飛ばす。俺はその軌道をなぞるように前へと突進した。
「グゥ……」
悲鳴とともに、一体のsaliveの頭部を左手で掴み、そのまま右側から襲ってきた個体へと投げつける。轟音とともに二体は並んで地面に倒れ込んだ。角度を合わせ、剣を突き立て、切っ先で二つの権核を同時に捉える。
一瞬で吸収を終えた剣は止まらない。空中で半円を描き、背後のsaliveを斬り裂き、そのさらに後ろの数体までまとめて両断した。
前方から別のsaliveが飛びかかる。俺はその大きく開いた口へ左腕を突き入れ、喉を貫く音とともに、脊椎上部にある権核を掴み取った。
同時に、右膝の装甲へ権能を集中させ、右側から噛みつこうとするsaliveの牙を受け止める。太腿を固定し、脛で全力の蹴り上げ。顎を打ち抜かれたsaliveはそのまま後方へ吹き飛んだ。
俺はその隙に、掴み出した権核を剣へ叩きつける。急速に吸収が進み、喉を貫かれた死体が崩れ落ち、その背後から迫っていたsaliveの姿が露わになる。
虎に似たそのsaliveに対し、俺は剣を地面へ突き立て、姿勢を低く落とす。左手で顎を掴み、右手の掌を胸へ叩き込む。両手へ全力で権能を流し込み、そのまま背後へ投げ飛ばす。巻き込まれた数十体のsaliveが空中へ弾き飛ばされた。
見た目ほどの破壊力はない。saliveに致命傷を与えることもできず、しかも権能の消費は大きい。俺は氷宮詩玖のように最小限の権能で精密な斬殺を行えるわけでもないし、荒塚悠や早田墨のような広範囲殲滅技も持っていない。
salive相手に、俺はただ原始的な動きで、本能のまま戦っているだけだ。
だが俺には最大の強みがある。権能の消耗を気にする必要がないこと。使った分は即座に補充される。
だから効率は悪くとも、精神が尽きない限り、俺は延々とsaliveを倒し続けられる。
ほんの一瞬、意識が逸れた隙に、再び周囲をsaliveが取り囲む。だが俺は深追いせず、空へ跳躍。先ほど蹴り飛ばしたsaliveの体を踏み台にして、さらに高度を上げる。
そのまま野原稲の姿を探す。ここが比較的楽なのは、彼女がsalv3を引き受けてくれているからだ。だが数が多すぎれば、彼女でも対処しきれない。それでも俺を置いて撤退はできない。だからこそ、彼女の様子を確認する必要がある。きつそうなら、俺が先に退くしかない。
salv3は巨体ゆえ目立つ。探すのは難しくない。
ちょうど一体のsalv3の頭部を拳で砕いた野原稲が、こちらを見てOKサインを出した。
状況確認を終え、俺も再び戦場へ戻る。最後に一体を踏み台にして高く跳んだ瞬間、細長い金属製の箱が高速で横切り、脚のタイツを裂いた。
「シュン、シュン……」
次々と同じ箱が飛来する。向かう先はすべて高坂獅尾のいる場所――正確にはAuroraの元だ。
英才小隊の突撃任務は、salv4から二千メートル、すなわち領域境界まで侵入すること。そこで高坂獅尾が光盾を展開し、主力隊員を空中投下で呼び込む。
道中のsalive群で主力が権能を消耗するのを防ぎ、遠距離攻撃型saliveによる損耗も避け、さらに着地直後の襲撃も高坂たちの援護で防ぐ。
先ほどAuroraが設置した装置は信号塔、つまり座標の目印だ。Sprobe機関の発表では、salive出現以降、人類の衛星はすべて信号を失い、精密な位置特定はこの手動信号塔に頼るしかないという。
ここまで来れば、俺たちの任務もほぼ終わりだ。出番は短い。突撃任務だから、派手に暴れる時間は限られている。
下で牙を剥くsaliveの群れを見下ろしながら、俺は体を捻り、回転しつつ落下中のsaliveを斬り裂き、地面へ一メートル以上の深い剣痕を刻む。
着地と同時に全身の権能を動員。剣速は音速を超え、爆ぜるような轟音とともに前方のsaliveを一掃した。
「空想具現!」
高坂獅尾の叫び。次の瞬間、空に巨大な光の斧が現れ、俺の前方へ叩き落とされる。
凄まじい衝撃波が押し寄せる。俺は両腕を胸前で交差させ、権能で防御した。
粉塵が晴れると、光の斧は消え去り、その跡には数十メートルにわたる一直線の道が開かれていた。高坂獅尾の元へと通じる道だ。
これが高坂獅尾の能力。想像した物体を投射する。ただし物質ではなく、エネルギーの凝縮体のようなものだ。先ほどの光盾も同質の力。
俺はその道を駆け、高坂獅尾と合流する。主力隊員はすでに撤収済み。開けられた鉄箱だけが残り、Auroraも装置を回収していた。
「はぁ、スッとした」
戻ってきた野原稲が拳套を揺らしながら言う。
「俺たちも戻るぞ」
高坂が撤退を指示する。
「もう少し戦わないの? こんなに密集した低階salive、滅多にないよ。権能が尽きる前に百個以上は権核を持ち帰れるのに」
野原さんが異議を唱える。
「今回は戦力差が圧倒的とはいえ、作戦は作戦だ。戦場で余計な行動はするな」
高坂はそう言って光盾を解除する。支えていたsaliveは抵抗が消え、前のめりに倒れ込む。だがすぐ後続が踏み越え、再び突進してくる。
高坂は何も言わず、剣へ権能を集中させた。
次の瞬間、剣身から十数メートルに及ぶ光の刃が伸びる。振り下ろしとともに、saliveの群れは大きく裂けた。
その裂け目を駆け抜け、高坂は臨時基地へ向かう。
俺たちも、その後を追った。




