ep.4 授業、そしてダンジョンへ( ゲシュクール歴787年)
エリシャ達は朝食をすませ、予め用意されていた制服に着替えた。
(おぉ・・・異世界のデザインセンスもまんまだぁ・・・ムダに多い、布のヒラヒラ感)
エリシャは何故か感動し、ホロリと泣いていた。
「お前、何泣いてんだ?」
フィアがエリシャの顔を覗き込みながら尋ねた。
「い、いやぁ・・・ほこりが目に・・・」
エリシャは顔を背け、誤魔化すのだった。
その横をノエルが「はぁ」とため息をつきながら通り過ぎていく。
「ほらほら、エリシャもフィアも行きますよぉ」
クレイが二人の背中を押しながら、3人とも部屋を出ていくのだった。
学生寮からメインの校舎までは石畳で出来た通路にアーケードが設置してあった。
雨の日も制服が濡れる心配はなさそうだ。
それよりも気になったのが日差しの温かさの匂い、深い緑が育む植物と土の匂い。
前の世界では、こんなにダイレクトに感じることはなかった。
エリシャにとって、それが斬新で新鮮だった。
メインの校舎に入ると、一気に空気が重たく冷たいものに感じられた。
それは石造りの壁と、古い年月を容易に想像させる廊下の木材のせいだろう。
行き交う生徒は皆、笑顔でどこか楽しそうだ。
「あぁ、こちらの講義室みたいですねぇ」
クレイが講義室の名前を確認して指をさした。
講義室内に入ると、すでに数名の生徒がグループになって話していた。
造りは階段教室になっており窓が非常に大きく、光が何重にも差し込んでいるようだ。
沢山の少女たちが談笑しているのも相まって、講義室全体が非常に明るく感じるのだった。
エリシャ達は中央より、やや後方に横一列で並んで座るのだった。
しばらくするとミディス先生が講義室に入ってきた。
「はぁい。みなさん初めまして。このクラスの担任のミディスです。よろしくね」
相変わらず屈託のない笑顔で挨拶をする。
「安心してね。みんな初心者の賢者だから。それでは出席をとります」
ミディスは手慣れた感じで出席確認をする。
「最初に説明するのは、授業の単位です。この学院は皆さんたち賢者が・・・」
ミディスが概要の説明を始めた。
エリシャの右隣から何かしらの轟音が響いてきた。
視線を移すとフィアが机に顔を預け、こちらを向いて寝ていた。
フィアは机に突っ伏し「ぐぉ・・・ぐぉ・・・」と寝息をたて、熟睡していた。
「むにゃむにゃ・・・もう食べられない・・・うひひ」など意味不明なことを言って起きる気配が全くない。
エリシャは起こそうとした。
しかし全く起きる気がしない。
結局諦めた。
「ですからぁ、皆さんは賢者学。歴史学。魔法学。体育学。実習の5つを2年間で習得するようにしてください。」
ミディスの講義は終盤に入っており、エリシャは何とか単位の要点を理解することが出来たのだった。
「では、このまま1限目の歴史学の講義に入りますね。手元の教科書を・・・」
案の定、歴史学の講義は馬車で聞いた内容が主だった。
エリシャの右側はフィアが爆音をたてながら寝ている。
正直、もう相手にはしていなかったが・・・・・・何やら左側から柔らかくも鋭い気を感じた。
クレイが笑顔でこちらを凝視していた。
そして、エリシャの左手に自分の手を重ねるのだった。
そして前を向く。
(えっ・・・何?今の何?・・・めっちゃ怖いんだけど・・・えっ?)
両脇を謎の怪物に囲まれたエリシャは、授業中只々怯えることで時間が過ぎるのだった。
そんな3人の様子を一番左で感じていたノエルは「はぁ・・・」と小さな溜息をつきながらノートを真面目に取っていた。
それぞれが思い思いの時間を過ごしているとゴーンと鐘が鳴った。
どうやら1限目終了の合図みたいだ。
その音が鳴ると、あれほど強固な守りを誇っていたフィアが「ふあぁ・・・!」と目を覚ましたのだ。
「はいっ!では1限目の講義は終了しますねぇ」
ミディスが教科書をたたんで講義室から退出する準備をする。
そして何かを思い出したかのようにフィアに向かって話し出した。
「フィアさん。最初っから寝てる人は初めてでしたよ。次からは真面目にね」
ミディスは相変わらずの笑顔でフィアに言うと、出口に向かって歩き出した。
途中、ふと立ち止まって「ある意味、大物なのかしら・・・」と真面目に呟いてから講義室を後にするのだった。
「ふぇ?あたしは寝てないよ・・・」
そんなミディスの背中を、寝ぼけ眼で眺めながらフィアは言うのだった。
2時限目の講義は賢者学だった。
この講義はミディス先生と同じ、賢者を引退したハルカ先生が担当していた。
ハルカ先生は簡単に自己紹介を済ませ、次の言葉を発した。
「賢者は不老不死です。ただし万能ではありません」
「皆さんはいずれ理解することになります」
エリシャはハルカ先生の、これらの言葉が何故か気になった。
何か含みがあり、哀愁漂う物を感じたからだった。
何故かその言葉だけは頭から離れなかったのだ。
2時限目終了の鐘が鳴ると、フィアは飛び起き「飯ぃー!」と講義室を飛び出していった。
―――――食堂――――――
3人が食堂につくと、フィアは既に山盛りのランチをガツガツと頬張っていた。
エリシャ、クレイ、ノエルは、それぞれ食事を盛ったプレートを手にし、フィアと同じテーブルにつくのだった。
「あんさぁ、ちゃんと講義聞いてたんだけど、全然理解出来なかったんだよねぇ」
何かの肉をモグモグと食べながらフィアが3人に話しかけた。
「だからさぁ、ノエル教えてくんない?」
今度はパンらしき物を口に詰め込みながらフィアが言う。
「いやよ」
ノエルは即答した。
「私でよかったら、説明しますよぉ?」
クレイが助け舟を出した。
「おっ!流石、お姉さん!」
「歴史の授業はミディス先生が馬車の中で予習してくれたから大丈夫だと思います。大切なのは賢者学」
「知っての通り、私達賢者は不老不死だけどちょっとしたルールがあるみたいですねぇ」
「一つ目、賢者は老衰で死にません」
クレイは指を一本、立てて言った。
「二つ目、病気にも基本的にならないそうです」
「三つ目、回復魔法がきかない」
「いやいや・・・回復魔法きかなかったら不死じゃないじゃん!」
クレイは気にせず続けた。
「四つ目、普通のケガであれば短時間で自然治癒する」
「そりゃ、便利だけど・・・」
「五つ目、致命傷や手足などの部位欠損も治癒することが出来る」
「これぞ、不死の代名詞って感じだよな!」
「ただし、通常のケガの時短回復や、重症、部位欠損は記憶障害が起きる可能性があるそうです」
「記憶障害?まぁいいか!なぁ!『首ちょんぱ』したらどうなんの?」
「先生が言うには頭と胴体の切断は短時間であれば、接合可能だけど・・・」
「長時間の切断は確実に重度の記憶障害が発生するらしい・・・時間は不明」
クレイが喉元に手を当てながら怖い顔をする。
「ほーん・・・んじゃ、あたしが聞いてた内容に間違いはないな!」
フィアは自信たっぷりで答えた。
————午後(競技場)————
「あたしさぁ、たぶんこの授業が一番向いてると思うんだよねぇ」
「そ、そうだね」
フィアは必要以上に指や首をポキポキと鳴らしている。
「・・・はず。・・・だい・・・」
ノエルは目を瞑りながら、何かを囁いている。
「大丈夫。私は出来る。己を信じるんだ。大丈夫」
(運動苦手なんだな・・・ノエル)
すると2時限目と同じハルカ先生が競技場に現れた。
「では、3時限目を始めます。」
「ここでは賢者として、運動能力の適性を判断します」
「一口に賢者と言っても、人間と同じで個性があります」
「例えば、後方支援に特化した魔法型」
「器用さを活かして弓を扱う遠距離型」
「肉体能力を活かす近距離戦型」
「様々な戦い方があります」
「多くの賢者は不老不死、神聖魔法の固有能力+αで戦います」
(ゲームだと賢者って後ろで回復してるイメージなんだけどな・・・)
「では、賢者と言ってもケガはします。まずは準備運動を始めましょう」
エリシャは先ほどの二人が気になって確認してみた。
「あたしはさ、絶対近距離型だと思うんだよなぁ・・・」
「大丈夫・・・出来る。出来るはず・・・」
横並びになって、準備体操している二人の会話は成り立っていない。
「では、アップもかねてジョグでいいのでグラウンドを走ってきて下さい」
「よっしゃー!」
フィアは掛声と同時に砂埃を上げながら走っていった。
(ジョグって言ったのに・・・ジョグって意味しっているのかな?)
フィアは一瞬でトップスピードになる。
そしてあっという間に一番後方で歩くスピードと変わらないノエルに追いつこうとしている。
そしてフィアにあっけなく轢かれるのだった。
ノエルは「ぎゃん」と言う悲鳴を上げながら、数メートル吹っ飛ばされる。
(デス・トレイン・・・)
その後も悲鳴が競技場に響き続けた。
「ではアップも済んだと思うので、各自、自分が得意そうな武器を手に取ってみて下さい」
「もちろん、初めにとった武器が必ず正解とは限りません」
「この単位の前半の目標は、自分にあった武器を見つけること」
「そして、その武器をよりマスターしていくことです」
フィアという人災により皆、息も絶え絶えだ。
「じゃ、あたしが一番に行くか!」
当の本人はそんな視線など気にも留めず、武器棚へ向かう。
フィアが最初に選んだのは大剣だった。
「うーん・・・重い」
大剣を振ると、ゴォッと音が鳴る。
「悪くないけど違うなぁ」
「そだなぁ・・・おっ、これが良さそう!」
そう言って細身のレイピアを手に取る。
「軽いし、あたし好みだ!」
そう言ってレイピアを構える。
見よう見まねで突きをすると風圧で空気が歪んだ。
「あはっ・・・あはははは!」
まるで踊るような剣捌きだった。
突き、回転、跳躍。
初めて握った武器とは思えない。
「これは・・・想像以上ですねぇ。エリシャ」
フィアの剣捌きを見ながら、クレイが呟いた。
「これは凄いね。流石って感じだ」
エリシャも思わず苦笑する。
(初めてとは思えない身のこなしですね・・・)
(あとは賢者としての適性次第ですが・・・)
ハルカは腕を組みながらフィアの動きを観察していた。
(ん?)
その時、エリシャの視界の端に何か映った。
(あれは・・・冒険者かな?・・・十人以上いるな)
「おーい。エリシャ—!」
一瞬、その中の一人と目が合い、エリシャに向かって手を振ってきた。
「あっ。サルトルさん!!」
馬車を護衛してくれたサルトルだった。
「また後でなー!」
そう言ってサルトルは競技場を後にするのだった。
―――藍の講堂 4時限目前―――
「いやぁ・・・楽しかった!」
「そういやさ、みんなどの武器にした?」
「あたしはまだ決まんなかった」
「私もですねぇ。色々触ってみたんですが・・・」
エリシャとクレイはフィアの問いに答えたが、ノエルは顔を真っ赤にして俯いている。
「ノエルは?」
(弓の弓手で顔面をぶつけるし、剣は自分の首を飛ばしかけるし・・・そりゃ思い出したくもないよなぁ)
するとミディス先生が教室に入ってきた。
「はぁい、それでは本日最後の授業は、またまた賢者学ですよぉ」
「ふぁ・・・はぁ~」
フィアが欠伸といっしょに背伸びをした。
「と言っても、明日の実習に備えての準備と説明ですけどね」
「実習!えっ外行くの??何やんの??」
フィアが急に立ち上がる。
「うふふ。ダンジョンですよ」
「ダンジョン!お宝とか??スカウト連れて行かないと!」
フィアは目を輝かせている。
「スカウトは必要ありませんよぉ。学院の近くにある初歩的なダンジョンですから」
「簡単に説明すると、ダンジョンに入って『学院の印』というアイテムを持って帰ってきてください」
「しかし、いくら賢者と言え、あなた達はヒヨコちゃんです。なので冒険者をサポートとして同伴させます」
「賢者2名+冒険者1名でパーティを組んでもらい、ダンジョンや冒険の雰囲気に慣れてもらいます」
「いいねぇ!いいねぇ!」
「では早速ですが、パーティを発表します」
ミディスはバインダーの紙をめくると、生徒の名前を呼んでいった。
「えぇと、次はフィアさんと・・・クレイさん」
「よっしゃ!!」
「次、エリシャさんとノエルさん。付き添いの冒険者はサルトルさんね」
「サルトルさん!やった!」
エリシャは喜んだ。
「なんだ!エリシャも楽しみなんだな!」
そんなクラスの空気の中、ノエルだけは真剣な眼差しだった。
「・・・挽回しないと・・・」
誰にも聞こえない小声で呟いていた。
―――次の日―――
ミディスの生徒たちは馬車に乗り、学院から少し離れた森の中にいた。
「それでは生徒の皆さん。手筈は先導してくれる冒険者の方々にお願いしています」
「今回は冒険の雰囲気だけ味わってください」
「やぁ、また会ったね!エリシャに・・・ノエルは初めてだね?」
サルトルが声を掛けてきた。
「昨日ぶりです!サルトルさん。知ってる人が一緒でよかったぁ」
エリシャはお辞儀をしながら言った。
ノエルはエリシャと対照的に難しい顔をしている。
「まぁ、初級のダンジョンだし。今日は気楽に行こうぜ」
3人が学院の野営地からしばらく歩くと、森の奥に巨大な洞窟が見えた。
日陰なのもあるかもしれないが、周囲と比べ気温が低く感じる。
また洞口の奥は暗く、湿気を帯びた冷気が不穏な空気を漂わせている。
ノエルは相変わらずブツブツと何かを言っている。
サルトルが剣の位置を確かめるように腰へ手をやる。
「じゃあ入るぞ」
エリシャとノエルは黙って頷くのであった。
この時はまだ知らない。
この何の変哲もない初級ダンジョンが、
私達の運命を大きく変えることになるなんて。
つづく
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なるべく短い間隔で、連載していきたいと思いますので
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