ep.3 初めての仲間( ゲシュクール歴787年)
ベルダットの城門をくぐると、エリシャの想像する異世界が広がっていた。
「おぉ・・・まんま異世界だ・・・」
エリシャは馬車の窓から張り付くように外を眺めていた。
石畳に中世を連想させる建物、行きかう町人はいかにもな服装をしている。
重厚な鎧を身まとった冒険者や、身の丈ほどの杖を持ち歩くローブ姿の冒険者がやたら目に付く。
昼間だというのに酒場からは陽気な歌声が聞こえ、商店街らしき場所には活気と怪しさが入り混じっていた。
「すごっ・・・異世界だ・・・ここは、まごうことなき異世界だ」
エリシャを見てミディスは小さく「ふふっ」と笑った。
「最近の転生者は、みんな同じ反応をするんですね」
「いやぁ・・・あまりにも想像通りだったんで・・・」
エリシャは窓の外からミディスに視線を移し、恥ずかしそうに答えた。
「昔の転生者は、みんな不安な面持ちでしたよ。最近の転生者には『こういう世界』が流行っているのでしょ?」
ミディスは一瞬、懐かしそうな顔をするも、相変わらずの笑顔でエリシャに尋ねた。
「そうなんですよ。猫も杓子も転生物の王道は中世っぽい雰囲気が主流で・・・まぁでも一部ではSFや日本っぽい物も・・・」
頭を掻きながらエリシャは答えた。
「いいですね。それらの世界は楽しそうで」
「えっ?」
ミディスの含みのある言葉に驚き、エリシャは聞き返した。
「何でもありませんよ。それよりほら、そろそろ着きますよ」
ミディスは何かをごまかす様に、窓の外に視線を向けた。
視線の先にはゴシック様式の立派な建物が見えるのだった。
その建物を見て、エリシャの小さな疑問は直ぐに吹き飛んだのだった。
「もしやあれは・・・学院では!」
エリシャの顔が期待に膨らむ。
「これも想像通りでしたか?」
ミディスの笑顔は相変わらずだ。
「いや・・・想像以上に立派です」
エリシャは窓に張り付きながら答えた。
「ここはメインの校舎です。他にも研究棟、競技場、実験棟等が併設されています。ちなみにこれから向かうのは学生寮です」
「ちなみに一部屋4名で生活してもらいます」
馬車はメインの校舎を周り、ちょうど裏側に位置する学生寮へ到着した。
豊かな自然に囲まれ、いかにも学生寮といった感じだった。
エリシャとミディスは馬車を降りると、学生寮の中に入っていた。
共有部のホールを通り抜け、木製の階段を上っていき2階に到着した。
「ここが、あなたが暮らす4人部屋です」
右から2番目の部屋の前にくるとミディスが振り向きエリシャに言った。
ミディスは部屋をノックし、エリシャを室内に入れた。
中に入ると既に3人の転生賢者が思い思いの行動をしていた。
「皆さん。ちょっといいかしら?こちら新しいルームメイトです」
ミディスが話しかけると、3名ともミディスに顔を向ける。
「クワッド地方から来ました、新しい転生賢者のエリシャ・ロックバーンです。仲良くしてあげてください」
ミディスがエリシャを紹介し、挨拶するように手で促す。
「ご、ご紹介にあずかりました、新米転生者のエリシャです。よろしくお願いします」
するとベッドで横になっていた赤髪の子が、起き上がりエリシャに握手を求めてきた。
「ロザン地方出身のフィア・レインだ。よろしくな」
フィアと名乗った女性はセミロングで少し癖がかかった赤髪をしている。
特徴的なのが、力強さを感じる琥珀色の目と、健康的な肢体だ。
彼女はニッコリと笑い、手を差し出している。
(これは・・・いかにも陽キャの武闘派な設定ね・・・)
エリシャは差し出された手を両手でつかみ「よろしくお願いします」と答えたのだ。
次に机に座っていた黒髪の女性が立ち上がる。
「ノエル・アークライト。メルトール地方よ」
小柄な体格に腰まで届く黒のロングヘアー。色白で青い目をしている。
ノエルは短く答えると、再び机に向かって本を読みだした。
しばらくしてノエルが急に振り向き早口で話し出した
「ちなみにご紹介に預かりましたは間違いよ。正しくはご紹介に与りましたよ」
そう言って、すぐに本に目を移した。
「ご指摘有難うございます・・・」
エリシャは俯きながら短く答えるのだった。
そんなやり取りをしていると椅子に座った栗色の髪の子が「ふふっ」と笑いながら立ち上がった。
「二人とも個性的よね。私はエリシャと同じクワッド地方出身のクレイ・フェルンです」
クレイと名乗った女性は、栗色のふわふわとしたウェーブがかった緑色の目をした女性だった。
他のルームメイトとは違い、どこか大人っぽい感じがする。
「よろしくお願いします」
(色んな意味で眩しい人だな・・・一番仲良くなれそうだ)
エリシャは軽くお辞儀をすると、クレイは笑顔で椅子に座るのだった。
「では皆さん。エリシャさんのこと、よろしくお願いいしますね。エリシャさんは空いているベッドを使うようにして下さい。それと・・・皆さんは、このあと食堂で夕食を召し上がって下さい。そして明日はいよいよ学院で初めての授業です。支給された制服を着て、9刻に藍の講堂にいらしてください。」
ミディスは笑顔で言い終えると、彼女達の部屋を後にするのだった。
「そうだ!飯行こうぜ!飯!」
フィアはベッドから勢いよく飛び起きると、目を輝かせながら叫んだ。
「私はかまいませんよ」
クレイが答える。
「じゃあ、あたしも・・・」
エリシャも同行することに、決めた。
「私は、この科目が読み終わってから。遠慮せずにお先にどうぞ」
ノエルは本から目を離す事なく答えた。
「相変わらずだなぁ・・・じゃ3人で行こうぜ!」
フィアが先導を切り3人は食堂に向かうのだった。
食堂は1階のホール横にあった。
既に何人かの生徒が食事をしているようだ。
この世界の料理は、やはり転生世界に出てくるような料理が主だった。
メインは肉に野菜、魚、チーズなど共通する部分が沢山ある。
「しかし、飯が転生前とあまり変わらなくて助かったぜ」
フィアは皿に乗り切らないほどの料理を盛っており、それをガツガツと食べていた。
(キャラ、まんまだな・・・)
それを見てエリシャは思う。
「確かに。食事が合わないと困りますよね」
クレイが上品に食べながら答える。
「そうそうエリシャ。転生前はやっぱり日本なの?」
フィアがモグモグと食べながらエリシャに聞いてきた。
(これ、美味しいな・・・)
「うん。記憶が確かなら日本だと思うよ」
エリシャはチーズのかかった肉を頬張りながら答えた。
どうも2人の話を聞くと、4人ともここ1週間以内に転生してきて、日本の出身だった。
3人は夕食を食べ終えると、部屋に戻るのだった。
ノエルは相変わらず書物とにらめっこしている。
「そういえばさ・・・ミディスさんは、びっこを引いてたよな?」
「確かに足を引きずってましたねぇ・・・何かのケガでしょうか?」
クレイが考え込みながら言う。
「あたしは・・・3日前に初めてあったんだけど、その時も引きずってた」
エリシャは転生直後のことを思い出して小首を傾げた。
「行きの馬車の中で聞いたんだけどさ、賢者って不老不死で怪我とかも直ぐに治るんだろ?」
「確かにそう仰ってましたけどぉ・・・何かあるのかしら?」
「まぁ細かい事はいいっか!」
フィアはこの一言で全てを忘れることが出来るらしい。
(どこぞの、豪傑だよ・・・)
エリシャは心の中で突っ込むが、顔には出さない。
転生前からの特技だ。
「さぁ!後は風呂に入って寝るだけだ!それまでの時間どうする?」
フィアは腰を手に当て、残りの3人の顔を伺った。
「私は折角だから夜の街に出歩きたいな!皆で行こうぜ!」
フィアは手を振りながら力説すると、何も言わず一人で部屋を出ていった。
おそらくみんなが付いてきていると思っているらしい。
「図書室に行ってくる」
ノエルは小さくため息をつくと、部屋を後にするのだった。
「お茶を入れてきますねぇ」
クレイはそう言ってパタパタと部屋を出ていった。
「このメンバー・・・バラバラだけど大丈夫?」
エリシャは、これからの生活に不安を覚えるのだった。
この時はゲームのような楽しい学院生活が始まるものだと思っていた。
最初の実習が始まるまでは。
つづく
最後までお読み頂き有難うございます。
なるべく短い間隔で、連載していきたいと思いますので
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