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ep.2 転生( ゲシュクール歴787年)

―――145年前―――


エリシャが目を覚ますと、そこは知らない世界だった。



「ここは?」


目が覚めた瞬間、そんな言葉しか出てこなかった。


見知らぬ木造の部屋。


固いベッド。


そして鏡の中には知らない少女がいた。


(もしかして異世界に転生したのかな・・・?)

自分の顔をペタペタと触りながら考えに耽る。


最初はそれぐらい軽い気持ちだった。

逆に転生後の自分にワクワクしている感じさえしていた。


最初は家族と思われる人たちに自分が転生者とばれない様に接しようとした。


それが彼女の知っている異世界転生者のテンプレートだからだ。


「あのぉ・・・お母様、お父様。おはようございますわ」

ぶっつけ本番で両親に話しかけた結果がこれだった。


案の定、直ぐにバレてしまったのだ。


辻褄の合わない会話、知識、仕草、癖等、本物の親族を騙せるはずがない。


17年間を一緒に過ごした家族にとって当り前のことである。


エリシャの頭の中では最悪の未来予想図が完成していた。


怒られる。

村を追い出される。

教会に通報される。

最悪の場合、火あぶり。

そして人生終了。


しかし実際は違っていた。


父と母は泣いて喜んだ。


理由はすぐに分かった。


この世界で転生者は「賢者」。


神の使いとして扱われる存在だった。


おまけに不老不死。

神聖魔法まで使えるらしい。


賢者は王都ベルダットにあるゲシュクール王都学院に入学し、賢者としての知識をそこで学ぶのだ。

その後は、神の使いとして冒険者とパーティを組み、魔族との戦いに従事するようになる。


後から聞いた話、家族が泣いて喜んだ理由は他にもあったようだ。

それは賢者が誕生した一家と村には教会から莫大な支援があるそうだ。

響きはいいが実のところ、転生者は教会から大金で買われるという事だ。



それから3日間、村では祭りが開催された。

王都から使者が来るまでの間、賢者の誕生と繁栄を祈る祭りだ。

もちろんエリシャは祭りの主役として高座で宝物のように祭られるのだった。


3日目の昼頃、高座で呆けていたエリシャの前に一台の馬車が止まった。


4頭立ての豪華な馬車だった。


村人たちがざわめいている。

それだけで、その馬車が特別なものだと分かった。

ゲシュクール教という組織の力が少しだけ見えた気がした。


御者が扉を開く。

最初に目に入ったのは杖だった。

女性は杖を突きながらゆっくり歩いてくる。

よく見ると片足を引きずっていた。


純白のローブを身にまとい、それは重厚な刺繍が施されていた。


小柄で童顔の女性だった。

濃い栗色の髪を肩口で揺らし、十代前半にも見える。

だが、その物腰は成熟した淑女そのものだった。


「私はゲシュクールからの使者ミディスです。あなたが報告にあった賢者エリシャかしら?」

その落ち着いた言葉と所作は淑女のそれだった。


エリシャは彼女の立ち振る舞いに急いで高座から降りた。


(おぉ・・・これが噂の使者?随分と若い・・・そして可愛い)

「はい。私がエリシャです」

エリシャは彼女とは正反対に頭を掻きながら答えたのだった。


遠くのほうで村人が深刻な顔で何やら話している。


「どうしました?私に手伝えることがあれば手伝いますよ」

ミディスは村人たちに話しかける。


「あぁ賢者様。大変、言いにくいのですが・・・馬車の後をつけてきた魔物達がいるらしいです」

「その魔物が村の周辺を囲っていると・・・」

エリシャはぎょっとした。

ここが異世界で生死の危険性があることを改めて認識した。


「賢者様。先ほど偵察してきましたが、群れの規模は大きくない」

「何人か護衛を貸して頂ければ、俺が行ってきますよ」

冒険者風の男がミディスに話しかける。


使い込んだ装備がベテランを象徴している。


「あら?お願い出来ますか?サルトル」

「エリシャさん。こちらは今回の旅の護衛。サルトルさんです」


「よろしくな」

「俺はサルトル。死にそうになったら俺の後ろに隠れろ」

サルトルは屈託のない笑顔でエリシャに握手を求めてきた。


「よ、よろしくお願いします」

「では、ちょっくら片付けてきます」

そう言ってサルトルはテキパキと味方のパーティに指示を出して村の入り口に向かって言った。


次の日、エリシャは両親や村人たちから見送られ、王都ベルダットへ向かうのだった。


馬車の中はミディスとエリシャの二人だけだった。


元いた世界の乗り物に比べれば快適とは言いにくい。


それを察したか、ミディスが話しかけた。


「この世界の乗り物は不便かしら?」


「い、いや・・・決してそのようなわけではございません」

エリシャの顔は赤くなり、誤魔化すために俯いたのだった。



「別にいいんですよ。私もこの世界の人間ではないのですから。それに私も元賢者です」


ミディスは穏やかな笑顔でエリシャに話しかけた。


「元?ですか?」


「はい。今は賢者を引退し、教師として学院に尽くしております。」

ミディスの話はエリシャにとって全てが真新しかった。


「何か分からないことがあったら、遠慮なく聞いてくださいね」

その笑顔を拝めるだけでも来た甲斐があった。


そしてミディスは続けて言った。


「あっ・・・分からないことが、分からないですよね?失礼しました」

ミディスは口に手を当てながら上品に笑った。


「時間はたっぷりあるのですから、じっくり説明致しますわ」

そういってミディスは、こちらの世界のことを説明しだした。


「この世界は元々、人間族と魔族によって分断されていました」

「今から787年前マザーが転生されたことにより、人間族が少しずつ魔族の領地を占領していったのです」

「マザーは・・・」


エリシャは何となく嫌な予感がした。

「待ってください」

「はい?」

「先生」

「先生?」

「長いです」

「まだ序盤ですわ」

「そこを短く・・・」

「約800年前にマザーという転生者が現れて、人類が強くなりました」

「雑!」


ミディスは不満そうに頬を膨らませた。


どうやら歴史を三秒で要約させられたのが気に入らないらしい。


そして転生者には、いくつか共通点があるらしい。


こちらの世界の17歳にあたる人間に転生する


人間族の女性にのみ転生される


転生者に転生前の記憶がはっきりと記憶されていること


転生者は不老不死の能力を所持している


転生者はこの世界で唯一、神聖魔法を使用することが出来る


「さて・・・これがこの世界の歴史です。学院や他のことは王都についてからお話しますわ」

ミディスは、ほぼ2日間喋り倒したにも関わらず笑顔を絶やさずにいる。


一方、エリシャは聞き疲れでぐったりとしていた。


「それでは、これからが本番ね!エリシャの転生前の世界の話を聞かせてくれる?私はこの時間が一番大好きなの!」

ミディスは両手を合わせ、目を輝かせながらエリシャが話し出すのをまっている。


外を見るとサルトルは馬に跨り大あくびしていた。


「ぐっ・・・」

(マジか・・・)


エリシャの苦悩はまだまだ一日以上続くのであった。


つづく




最後までお読み頂き有難うございます。

なるべく短い間隔で、連載していきたいと思いますので

ブックマーク、レビュー、感想、評価をお待ちしております。


Xにてキャラクターの詳細など公開中

詳しくはプロフィールにリンクはってます

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