表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/18

ep.13 開拓村の事件(ゲシュクール歴787年)

————開拓村————


翌朝。


エリシャは宿舎の窓から外を見ていた。


朝日を浴びた畑が黄金色に輝いている。


昨日見た時は薄暗く感じた木製の柵も、今は穏やかな朝日に照らされていた。


煙突から立ち上る白い煙は空へ溶けるように消えていき、家々からは朝食を作る匂いが漂ってくる。


確かに今日を生きている人々の営みがそこにあった。


だが違う。


昨日、村へ入った時から感じている。


村人達の顔に笑顔がない。


窓を閉め切る家。


武器を持って歩く男達。


子供ですら、どこか周囲を警戒していた。


まるで村全体が何かを恐れているようだった。


扉を叩く音が響く。


「集合だ」

アミルだった。


————村広場————


実習生達が集まる。


アミルは簡単な地図を地面へ広げた。


「実習期間は三日」

全員が耳を傾ける。


「今日は周辺調査を行う」

指先が地図をなぞる。


「村の構造。避難経路。防衛設備。森の状況。全て確認する」


フィアが手を挙げた。

「魔物討伐は?」


「必要なら行う」

即答だった。


「だが敵を知らずに戦うのは三流だ」


フィアは口を尖らせる。

「まず観察しろ」


「・・・はい」

珍しく素直だった。


午前中は村の見回りとなった。


エリシャ達はレオンの案内で村を回る。


「ここは倉庫。あっちは井戸」

レオンは慣れた様子で説明していく。


「柵が新しいですね」

クレイが指摘する。


レオンは頷いた。

「ああ、先月修理した」


エリシャは木材へ目を向ける。

確かに新しい。


だが問題は修理したことではない。

修理しなければならなかったことだ。


「魔物なの?」

「たぶんな」

レオンの返答は歯切れが悪かった。


「たぶん?」

エリシャが聞き返す。


レオンは森へ視線を向けた。

「分からないんだ。最近の奴ら、おかしいから」


————村外れ————

森の奥は見えなかった。


見えないのではなく、見せないと言った方が近い。


幾重にも重なった木々が視線を拒むように立ち並び、その先を覆い隠している。


レオンは森を見つめる。

「前はこんなことなかった。最近急に増えたんだ」


「何が増えたの?」


「魔物だよ」

レオンは森を見つめたまま答えた。


「しかも群れで飛び出してくる。前はこんなことなかった」

「まるで何かから逃げてるみたいに」


森の入口付近を調べる。


アミルは地面へしゃがみ込み、何かを見ている。


エリシャも近づく。


土の上には足跡が残っていた。

獣のものだ。

だが異様なほどに数が多い。


「これは……」


アミルは答えない。


「先輩って何でも分かるよな」

フィアが言う。


アミルは首を振る。

「私などまだまだだ」


「またまた」

「本当だ。学院には私より優れた賢者が何人もいた」

「例えば?」

フィアが聞く。


アミルは少しだけ考えた。


「シルフィだ」

その名前に反応した者はいない。


「探索も戦闘も魔法も一流だった」

「私が知る限り、最も優秀な賢者の一人だ」


「へぇー」

フィアは素直に感心する。


「今どこにいるんだ?」


沈黙。アミルの表情が曇った。


「分からない。もう1年以上前だ」


ただ足跡を追う。

そして表情が僅かに変わった。


エリシャは気付く。


足跡の向き。


森の奥へ向かうものではない。


逆だ。


全て外へ向かっている。


森から逃げ出すように。


アミルは無言で立ち上がった。


「先輩?これって」


アミルは少しだけ森を見る。

「覚えておけ。こういう違和感が後で繋がる」

それだけ言って歩き出した。


エリシャは再び足跡へ目を向ける。


昨日聞いた村長の言葉が脳裏をよぎった。


――まるで何かから逃げているみたいに。

偶然とは思えなかった。


————昼————


広場で休憩を取る。


重苦しい空気を吹き飛ばしたのはフィアだった。


突然立ち上がる。

「よし!腕相撲だ!」


余りにも急な提案で最初は驚いていたが、子供達が歓声を上げた。

「やれー!」

「姉ちゃん頑張れ!」


瞬く間に即席の観客席ができる。

フィアは村の青年達を次々と倒していった。


あっというまの全勝。


当然のような結果だった。


「次!」

そこでレオンが前へ出る。


「みんなだらしねぇなぁ!俺がやる!」


フィアの目が輝いた。

「いいぞ!かかってきな!ちっこいの!」


勝負開始。


意外にも互角だった。


周囲がざわつく。


フィアの笑みが深くなる。

「見かけ以上にやるじゃねぇか!」


レオンも歯を食いしばる。


しかし最後はフィアが押し切った。


ドン。


腕が机へ叩きつけられる。


歓声が上がった。


「惜しかったな!まぁ、まだまだだけどな」


フィアは満足そうだった。


レオンも苦笑する。


「姉ちゃんつえぇんだな!敵わないよ」


その笑顔を見ながら、エリシャは思う。

こういう時は本当に役に立つ人だ。


きっと村の皆に慕われている。


だが夕方になると空気は再び変わった。


広場に集まった村人達。


話題は全て同じだった。


失踪者。

死体。

森の異変。


誰もが不安を抱えていた。


「死体が見つかるだけマシなのかもしれません」

村長が呟く。


その場が静まり返った。


「いるんですよ。見つからない人も沢山」


エリシャは言葉を失った。

誰も返事をしない。

ただ沈黙だけが残った。


————夜————


村は静かだった。


日中はあれほど賑やかだった広場も今は人影がない。


家々の窓から漏れる灯りだけが、闇の中にぽつぽつと浮かんでいる。


見張り台に立つレオンは森を見つめた。


夜風が頬を撫で、遠くで虫が鳴いていた。


それ以外の音は聞こえない。


風が吹き、木々が揺れ、黒い森がざわりと波打った。


異常はない。

少なくとも見える範囲には。


それでもレオンは視線を逸らせなかった。


最近、村では妙なことが続いている。


街道で見つかる死体、行方不明になる村人。


そして森の奥から現れる魔物達は、まるで何かから逃げるよう。


昼間は強がっていた。

フィア達の前で不安な顔を見せたくなかったからだ。


だが本当は違う、怖かった。

この森の奥に何がいるのか分からない。


それが何より不気味だった。


レオンは無意識に剣の柄へ手を置く。


異常はない、そのはずだった。

だが、何かが動いた。


森の奥に黒い人影が。


レオンは目を細める。


見間違いかと思った。


しかし違う、確かにいた。


人間のような何か。


それは森の奥へ消えていく。


「……誰だ」


返事はない。


レオンは剣の柄を握った。

昨日見つかった死体、村の異変、失踪者達。

嫌な予感がした。


放置できない。


「確認だけだ」

自分に言い聞かせるように呟く。


そして森へ足を踏み入れた。


————翌朝————


広場に悲鳴が響いた。


「兄さんが帰ってないんです!」

リズだった。

顔は真っ青だった。


エリシャ達は一斉に振り返る。


村の空気が凍り付く。


アミルが立ち上がった。


「いつからだ」

「朝になっても戻らなくて……」

リズの声は震えていた。


エリシャの胸がざわつく。


嫌な予感がした。


昨日まで笑っていた少年の姿が脳裏をよぎる。


アミルの表情は険しい。


「捜索する」

短い一言だった。


だが、その声にはいつも以上の緊張が滲んでいた。


森の奥で何かが起きている。


誰もがそれを理解していた。


つづく。


最後までお読み頂き有難うございます。

なるべく短い間隔で、連載していきたいと思いますので

ブックマーク、レビュー、感想、評価をお待ちしております。


Xにてキャラクターの詳細など公開中

詳しくはプロフィールにリンクはってます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ