女王蜂 3
ブン。ぶぅん。ぶぅぅぅん。
蜂が飛ぶ。頭上を旋回する無数の影。
羽音が渦を巻き、低く唸りながら鼓膜に張り付く。
逃げ場がない。
拓也は動けなかった。足も、腕も、指先さえも。
蜂の群れがゆっくりと輪を狭めてくる。
視界の端で、黒い粒がうごめく。
ぶぅぅぅぅん! 羽音が近い。
近い。近い。――落ちる。
ちゃぽん。水の音がした。
『――おい、起きろよ!』
拓也は跳ね起きた。全身が汗で濡れている。
毛布がやけに重い。背中を冷たい汗が流れる。
部屋は薄暗く、テレビの深夜番組の笑い声だけが虚しく響いていた。
「……なんだ、今の」
喉が乾いている。
拓也は額の汗を拭い、荒い呼吸を整えた。
夢……のはずだ。
スマホが光っている。
時刻は丑三つ時。
通知は一件。龍之介からだった。
『気が変わった、昼前に決行』
それだけ。
短い一文だが、十分すぎる意味を持っている。
拓也はスマホに保存された古地図を開き、現代の地形図と照らし合わせる。
過去百年分の記録。
地名、道路、鉄路、池、川、墓地。
どれも今とは、ほんの少しだけ位置が違う。
そのズレが、何を意味するのか。
拓也にはまだ分からない。
気がつけば、何度も寝返りを打ちながら資料を読み返していた。
思考はまとまりかけては崩れ、崩れてはまた絡み合う。
結局、まともに眠れたのは明け方だった。




