第五話 再戦!ミノタウロス
『戦闘を選択する場合でも、ミノタウロスとの接触を回避できる経路が存在しないか、再度確認することを推奨します』
「戦わなくていい道があるのか!?」
『確認します』
「おう!!」
アルトが元気よく返事をすると、ちゃっぴーは白い光を弱め、その場で静止した。
それからしばらく待った。
アルトも待った。
「……まだか!?」
『確認中です』
「分かった!!」
さらに待った。
残り少ない保存食を一つ取り出し、半分ほど食べたところで、ちゃっぴーの光が再び強くなる。
『経路を一つ確認しました』
「あるのか!!」
『安全性は保証できません』
「行けるのか!?」
『現在地から上層へ接続しています。ただし、施設内のサーバーラック後方に設けられた保守用空間を経由する必要があります。一部が崩落しており、移動は困難です』
「行けるんだな!!」
『あなたの体格で通過可能かどうかは、実際に確認する必要があります』
「じゃあ行こう!!」
アルトは立ち上がった。
戦うと決めた直後だったが、戦わずに帰れるならそれに越したことはない。アルトの目的はミノタウロスを倒すことではなく、ここから出てディランたちと合流することなのだから、当然の選択だった。
ちゃっぴーの案内に従い、黒い棚――サーバーラックが並ぶ空間の奥へ向かう。
その途中で、アルトは足を止めた。
「そうだ!! ちゃっぴー!!」
『はい』
「何か、ぶん殴る時に使えそうな武器はないのか?」
『打撃用の武器ですか?』
「そう!! 殴ったら、おれの手も痛いだろ!?」
『はい。硬質な対象を拳で打撃した場合、手指および中手部を損傷する可能性があります』
「じゃあ何か欲しい!!」
『周辺物品から選定します』
ちゃっぴーが周囲を見回し、壊れたラックの一部へ移動する。
『この部材が利用可能です』
「これ?」
アルトが拾ったのは、手のひらに収まる程度の金属片だった。
薄く湾曲し、穴がいくつか空いている。元は何かを固定していた部品らしい。
『そのままでは使用に適しません。手の中へ収まるよう変形させ、握り込んでください』
「曲げるのか?」
『はい』
アルトは右手と床を使い、金属片を押し曲げた。
一度では曲がらない。
何度か体重をかけ、別の金属片を叩きつけ、ちゃっぴーから「曲げすぎです」「その部分は手掌を傷つける可能性があります」と何度も修正されながら、どうにか拳の中へ収まる形にする。
「こうか!?」
『保持してください』
握る。
拳の内側へ金属が収まり、一部が指の付け根に沿う。
「おお!!」
『これにより打撃時の拳の変形を抑制し、衝撃を分散できる可能性があります。ただし、手指の損傷を完全に防止するものではありません』
「これなら痛くないのか!?」
『「痛くない」とは回答できません』
「じゃあ、ちょっとはマシか!?」
『その可能性があります』
「よし!!」
アルトは満足した。
武器と呼ぶにはあまりにも粗末な代物だった。
刃もない。
魔力もない。
特別な素材でもない。
ただ、壊れたサーバーラックから外した金属片を、拳の中へ握り込めるよう無理やり曲げただけのものだった。
それを握り、アルトはちゃっぴーについていった。
◇
「狭い!!」
『はい』
「すごく狭いぞ!!」
『事前に説明しました』
「聞いてたけど、思ってたより狭い!!」
アルトは横向きになり、腹を引っ込めた。
サーバーラックと壁の間。
人が歩くために作られたとは思えないほど狭い隙間を、身体を擦りつけるようにして進んでいく。途中からはそれすらできなくなり、床を這わなければならなくなった。
ちゃっぴーだけは何の苦労もなく、アルトの少し先を漂っている。
「ちゃっぴー!!」
『はい』
「お前、楽そうだな!!」
『はい』
「ずるいな!!」
『問題点を理解できません』
「そうか!!」
文句を言っても広くなるわけではない。
アルトは這った。
右肘と膝を使い、左腕にはなるべく負担をかけないようにしながら少しずつ進む。途中で服を金属の出っ張りへ引っかけ、戻って外し、今度は腰が引っかかり、息を吐き切って無理やり抜けた。
かなり進んだところで、岩肌が見え始めた。
人工的な壁が途中で崩れ、その先へ自然の岩が入り込んでいる。
『この先です』
「外か!?」
『あなたが最初に侵入した、上層空間へ接続している可能性が高いです』
「よし!!」
最後の隙間を抜ける。
顔に冷たい空気が触れた。
匂いも変わる。
何日もいたデータセンターの乾いた空気ではない。
土と岩。
湿気。
そして、獣臭。
アルトの動きが止まった。
「……いるな」
『何がですか?』
「牛頭」
『現在、対象を確認できません』
「でも臭う!!」
『嗅覚情報を取得する機能はありません』
「臭いぞ!! すげえ臭い!!」
『承知しました』
狭い穴から這い出す。
そこは、アルトが落ちる前に通った場所とは少し違っていた。
岩壁の裂け目。
崩れた人工物の一部が自然の洞窟へ食い込んでおり、そこから細い通路へ出られる。
「こっちでいいのか?」
『現在位置を照合します。あなたから提供された情報と、施設内の残存経路情報を基準とした場合、ミノタウロスと遭遇した空間の近辺と推定します』
「近いのか!!」
『はい』
「ディランたちが逃げた道は?」
『情報がありません』
「そっか!!」
アルトはそれ以上聞かなかった。
ちゃっぴーもそれ以上答えなかった。
ここから先に何があるのか。
ミノタウロスがまだいるのか。
ディランたちがどうなったのか。
ちゃっぴーは知らない。
知らないことは、知らない。
なら、自分で行くしかなかった。
◇
通路を進むほど、臭いが濃くなった。
アルトは覚えている。
ここだ。
走った。
追いかけられた。
あのときはただ必死だったから、細かいところまで覚えているわけではない。それでも、岩壁の形や、床に残った巨大な斧の傷を見れば分かる。
「ここ、通ったぞ!!」
『ミノタウロスから逃走した際ですか?』
「おう!!」
『対象が近辺に存在する可能性があります』
「そうだな!!」
足が少し重くなった。
アルト自身、それに気づいた。
怖い。
訓練している間は、何度も想像した。
ホログラムを相手に足を動かし、拳を出し、何度も成功判定をもらった。
昨日よりできた。
十回中一回が三回になった。
三回が五回になった。
それを繰り返してきた。
だから、少しくらいはできると思っていた。
けれど。
「ブオオオオオオオオオッ!!」
咆哮が響いた。
「――っ!!」
身体が固まった。
ホログラムは叫ばなかった。
臭わなかった。
地面を揺らさなかった。
そして何より――殺そうとしてこなかった。
通路の先。
広間の中央。
巨大な影がゆっくりと立ち上がる。
「……でかいな!!」
知っていた。
一度見ている。
それでも、改めて真正面から見ると、訓練中に思い浮かべていたものよりはるかに大きかった。
太い脚。
膨れ上がった胸と肩。
人間の胴ほどもある腕。
牛の頭から伸びる角。
そして片手に握られた、アルトなら両手でもまともに扱えそうにない巨大な斧。
焼け焦げた胸元。
脇腹の傷。
身体中に残る細い裂傷。
ディランたちがつけた傷だ。
「同じやつだ!!」
『対象をミノタウロスとして仮登録します』
ミノタウロスの顔がアルトへ向いた。
低い唸り声が漏れる。
「……おれのことを覚えてるのか?」
『対象の記憶能力について情報がありません』
「そうだよな!!」
アルトは右手の金属片を握り込んだ。
構える。
何百回もやった。
右足を少し引く。
膝を曲げる。
身体の力を抜く。
動けるようにする。
「よし!!」
ミノタウロスが踏み込んだ。
床が震えた。
「――え?」
速い。
ホログラムとは違い、比較にならない。
巨体が一気に迫る。
アルトは横へ動こうとした。
訓練通り。
足を出す。
重心を移す。
避ける。
そのはずだった。
「うおっ!?」
間に合わない。
慌てて床を蹴り、ほとんど飛び込むように横へ転がった。
直後、巨大な身体がすぐ横を通過する。
肩がかすった。
それだけでアルトの身体が弾かれ、床を転がる。
「痛ってぇ!!」
『回避動作、失敗です』
「分かってる!!」
ミノタウロスが振り返る。
「速いぞ、ちゃっぴー!!」
『はい』
「どうする!?」
『対象の突進速度に対し、回避動作の開始が遅れています。より早い段階での予備動作検出を推奨します』
「難しい!!」
『動き始める前に、動く兆候を見てください』
「分かった!!」
分かっていなかった。
それでも見る。
ミノタウロスの脚。
肩。
斧。
どこを見ればいいのか分からない。
また踏み込んでくる。
「来た!!」
横へ。
今度は早すぎた。
アルトが動いた方向へ、ミノタウロスがわずかに進路を変える。
「うわ! 方向が変えられるのか!?」
斧が振られる。
アルトは頭を抱えて転がった。
頭上を風が通り過ぎる。
その直後、背後の岩壁が砕けた。
「うわっ!!」
破片が背中へ当たる。
痛い。
怖い。
息が速くなる。
足が震える。
「全然違うぞ!!」
『ホログラムは基礎動作の学習を目的としたものです。実在する敵対生物の挙動を再現したものではありません』
「今言うのか!?」
『質問されなかったため、説明していませんでした』
「そっか!!」
アルトは立った。
ミノタウロスも斧を引き抜く。
「じゃあ、今覚える!!」
『何をですか?』
「こいつの動き!!」
『合理的な判断とは評価できません』
「でも他にないだろ!!」
『はい』
「じゃあやる!!」
ミノタウロスが来る。
今度は足を見る。
踏み込む直前、右脚がわずかに沈んだ。
「今か!?」
動く。
早い。
だが、さっきよりは近い。
巨大な肩が目の前を通過する。
アルトはその横へ一歩踏み込もうとして、やめた。
「無理!!」
離れる。
『適切です』
「今の殴れなかったぞ!!」
『生存を優先してください』
「分かった!!」
もう一度。
ミノタウロスが振り返る。
右脚。
肩。
沈む。
「ここ!!」
横へ動く。
今度は避けた。
「避けた!!」
『回避成功です』
「よし!!」
嬉しくなった。
その直後、斧の柄が飛んできた。
「ぐえっ!?」
腹へ直撃する。
吹き飛ばされた。
「いってぇ……!!」
『一連の攻撃動作に対する回避は失敗です』
「そういうのもあるのか!!」
『今、確認しました』
「おれもだ!!」
起き上がる。
腹が痛い。
さっき食べた保存食が出そうだった。
それでも立つ。
また来る。
避ける。
失敗する。
転がる。
立つ。
もう一度。
……それが何度目か。
ミノタウロスの踏み込みに合わせ、アルトの足が動いた。
今度は考えるより先だった。
横へ一歩。
巨体が通る。
踏み込む。
腰を回す。肩。拳。
「うおおっ!!」
金属片を握り込んだ右拳が、ミノタウロスの脇腹へ突き刺さった。
硬い。
「いっっってぇ!!」
殴ったアルトの方が叫んだ。
手首まで痺れる。
ミノタウロスは一歩よろめいた。
それだけだった。
「効いてないぞ!!」
『対象への損傷を確認できません』
「どうする!?」
『同一箇所への反復攻撃による損傷の蓄積を提案します』
「同じところを殴るのか!?」
『はい』
「何回やればいい!?」
『情報がありません』
「わかった!!」
『……』
ちゃっぴーが一瞬、明滅した。
アルトはもう構えていた。
回数が分からない。
だから何なのか。
十回中一回しか成功しなかったときも、何回やれば上手くなるのか知らなかった。
それでもやった。
なら、同じだった。
ミノタウロスが来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
「二回!!」
『先ほどの打撃位置から約十一センチメートルずれています』
「もっと同じところか!!」
『はい』
「分かった!!」
来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
「三回!!」
『誤差約六センチメートルです』
「近くなった!!」
『はい』
「もう一回!!」
来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
何度も何度も繰り返す。
◇
途中から、数えるのをやめた。
数えている余裕がなくなった。
ミノタウロスは止まらない。
突進。
斧。
拳。
蹴り。
巨大な身体そのものが武器だった。
一度でもまともに食らえば終わる。
アルトも全部を避けられているわけではない。
斧の風圧に姿勢を崩され、拳が肩をかすめ、蹴り上げられた石が頬を切った。
それでも最初とは違う。
足を見る。
身体を見る。
動く前を見る。
そして、自分の身体は何百回も繰り返した通りに動かす。
「ここ!!」
避ける。
踏み込む。
打つ。
離れる。
『打撃位置、前回から誤差三センチメートルです』
「よし!!」
また来る。
「ここ!!」
避ける。
踏み込む。
打つ。
離れる。
『成功です』
「もう一回!!」
拳が痛い。
握り込んだ金属片が衝撃を受け止めてくれている。
それでも痛い。
腕も痛い。
肩も痛い。
脚も重い。
息も苦しい。
「はぁっ……はぁっ……!!」
『疲労が蓄積しています』
「分かってる!!」
『休息を推奨します』
「今は無理!!」
『はい』
ミノタウロスが吠える。
「うるさい!!」
また来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
右の脇腹。
同じ場所。
最初はどこを殴ったのかすら分からなかった。
今は分かる。
ディランがつけた焼けた傷の少し下。
そこを目印にする。
「ここ!!」
拳を叩き込む。
ミノタウロスの巨体が揺れる。
「まだか!!」
『対象の戦闘継続能力に明確な低下を確認できません』
「分かった!!」
また構える。
ミノタウロスが斧を振り上げる。
アルトは動く。
右へ。
斧が落ちる。
踏み込む。
拳を打つ。
離れる。
何度やったのか分からない。
十回を超えたのか。
二十回なのか。
もっとなのか。
同じことを繰り返す。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
「うおおおっ!!」
拳がめり込む。
その瞬間。
ぱきん、と音がした。
「え?」
右手から何かが飛んだ。
握り込んでいた金属片だった。
何度もミノタウロスの硬い身体へ叩きつけたことで、曲げた部分に亀裂が入り、とうとう砕けた。
「壊れた!!」
『破損を確認しました』
「どうする!?」
『代替品はありません』
「じゃあ、このまま殴る!!」
『拳部損傷の危険性が上昇します』
「でも、殴るしかないだろ!?」
『代替手段は提案できません』
「じゃあ殴る!!」
アルトは拳を握った。
右手はすでに赤く腫れている。
それでも構える。
ミノタウロスが来た。
避ける、踏み込む、打つ。
「いってぇ!!」
離れる。
『右手の損傷が進行している可能性があります』
「まだ動く!!」
『はい』
「なら大丈夫!!」
『医学的には同意できません』
「でもやる!!」
『はい』
また来る。
アルトの動きも、少しずつ遅くなっていた。
足が重い。
膝が笑う。
視界が揺れる。
呼吸が追いつかない。
ミノタウロスも変わらないように見える。
何度殴っても倒れない。
分厚い筋肉。
硬い身体。
ディランの剣も、リゼットの魔法も耐えた怪物だ。
自分の拳なんて効いていないのかもしれない。
それでも。
「もう一回!!」
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
『確認します』
「なんだ!?」
『回避動作の成功率が低下しています』
「疲れたからな!!」
『戦闘継続は危険です』
「でも帰るには、こいつが邪魔だ!!」
『はい』
「じゃあ続ける!!」
『承知しました』
それで終わる。
ちゃっぴーは止めない。
勝てるとも言わない。
アルトも聞かない。
またミノタウロスが踏み込む。
「来い!!」
避ける。
少し遅い。
角が服を裂く。
右足、腰、肩、拳。
「うおおおおおっ!!」
同じ場所へ打ち込む。
離れようとした。
そのとき。
「……あれ?」
ミノタウロスの身体が傾いた。
ほんの少し。
右脚が、崩れた。
膝が床へつく。
地面が揺れた。
アルトは目を見開いた。
「ちゃっぴー!!」
『はい』
「今!!」
『対象の右下肢に一時的な支持能力低下を確認しました』
「難しい!!」
『体勢を崩しました』
「効いてる!!」
『その可能性があります』
「効いてるぞ!!」
アルトの顔が、一気に明るくなった。
「じゃあ、もうちょっとだ!!」
『「もうちょっと」である保証はありません』
「でも効いてるんだろ!?」
『損傷が蓄積している可能性は高いです』
「よし!!」
それで十分だった。
ミノタウロスが立ち上がる。
咆哮する。
アルトも構える。
怖い。
疲れた。
痛い。
逃げたい。
それでも、効いている。
「もう一回!!」
来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
また来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
もう、ちゃっぴーの指示もほとんどなかった。
必要がなかった。
やることは同じだからだ。
特別な技なんてない。
魔力もない。
身体から不思議な力が湧いてくることもない。
急に速くなったわけでもない。
ただ、何百回も練習した動きを繰り返す。
踏み込む。
腰を回す。
肩を繋ぐ。
拳を出す。
それだけだった。
「はぁっ……はぁっ……!!」
ミノタウロスも荒い息を吐いている。
右の脇腹は腫れ上がっていた。
アルトの拳も腫れ上がっている。
どちらが先に限界を迎えるのか、ちゃっぴーにも分からない。
『対象の行動速度低下を確認します』
「おれも遅くなってるぞ!!」
『はい』
「どっちが先に倒れる!?」
『情報がありません』
「わかった!!」
ミノタウロスが来る。
遅い。
いや。
アルトが慣れただけなのかもしれない。
どちらでもよかった。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
ミノタウロスの脚がまた崩れた。
「もう一回!!」
立ち上がる。
来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
「もう一回!!」
来る。
避ける、踏み込む、打つ、離れる。
何度目か。
ミノタウロスが大きく斧を振り上げた。
アルトは右へ動いた。
斧が床を砕く。
いつも通りだった。
右足、腰、肩、拳。
「うおおおおおおっ!!」
打った。
何十回も打った場所へ。
同じように。
特別強く打てたわけではない。
何かを掴んだわけでもない。
新しい技でもない。
ただ、これまでと同じ一撃だった。
アルトはすぐに拳を引いた。
「離れる!!」
一歩下がる。
次の攻撃に備えて構える。
だが。
ミノタウロスは動かなかった。
「……?」
斧を握った腕が下がる。
巨体が傾く。
片膝が床についた。
それでもアルトは構えたままだった。
「ちゃっぴー?」
『はい』
「次、来るか?」
『確認中です』
ミノタウロスの身体がさらに傾く。
斧が手から落ちた。
硬い床へぶつかり、大きな音を立てる。
そして。
アルトを一撃で吹き飛ばした巨体が、そのまま地へ伏した。




